「で、子猫ちゃんはイッキのことがすきなわけか」

突然とんでもないことを口にされて、私は思わずアイスココアを噴出しそうになってしまった。ごほごほとむせ返るとその原因を作った張本人である神宮寺くんはそっと(やたら色っぽいオーラを放ちながら)背中をさすってくれる。…あ、神宮寺くんありがとう、…うう、ココアの甘いのが喉に引っかかってイガイガする…、ってそうじゃなくて!ようやく落ち着いた頃になって我に返った私は、即「な、にを!言って…!」と先程の話の否定を試みたのは言うまでもない。

「あ、あの…!わ、私確かにおとやのことはすきだけど、別にそういうすきじゃなくて!か、家族愛っていうか、そういうのだよ!お兄ちゃんみたいっていうか!弟みたいっていうか!」

懸命に弁解をしてみるも、当の神宮寺くんはさらりと流してちゃんと聞いてくれない。だ、だめだめ!神宮司くんはおとやとクラスは違うけれどお友達みたいだから、下手したらおとやに私の気持ち知られちゃうかもしれない!そ、それだけはだめ!絶対阻止!校則のこともあるし、それは誤解であったと考え直してもらわなきゃ!…なのに。

「じ、神宮寺くん…!?聞いてる!?」
「ああ分かってる。恋するレディーは何よりも美しいからな。隠さなくてもオーラで分かる」
「は、はい…?え、えっと…?」

どうしよう。なんて返したら良いのかな?曖昧な返答くらいしか出来ないのだけれど。これは褒められてるの?それともからかわれてるの?神宮寺くんのこの手のコメントはどうも慣れなくて…、て!いうか!どうしようこれ完全に私の話聞いてくれない!スルーしてる!神宮寺くん鋭すぎるよなんで気付いちゃうの…!いやなんかこういう関連には敏感ですってオーラ放ってるけれど…!…うう。なんだか全てを見透かしたようににこにこと微笑まれると、何を言っても無駄な気がする。彼の中では私がおとやをすきっていうことはひとつの疑惑ではなく、完全に確定事項なんだ。

これ以上下手な弁解し続けたらいつか墓穴を掘りそうで、なんだかもうどうしたらいいのか分かんなくなる。とりあえず再びココアに口を付けて心を落ち着かせようとしてみるけれど、相変わらず私をまじまじと見てくる神宮寺くんの視線がなにやらくすぐったくて、いまいち味は分からない。……もうこの人に何を言っても無駄だ。きっと嘘は通じない。私はうなだれて、遂に観念する。周囲に聞こえないように小声で神宮寺くんに話しかけた。

「………っ、あ、あの!おとやには!絶対ぜーったい!内緒だよ!秘密だからね!お願い!」
「ああ、俺はレディーとの約束は破らない主義だ。安心してくれ」
「ほ、ほんと!?」

なんて心強い言葉!神宮司くん女子に優しいって人気があるし、きっと嘘はつかない!はず!前にレディーに嘘はつかない主義だなんだと言っていた気もするし!「…よかったあ…!」なにやら気を張っていたのか、全身がへにゃんと力が抜けていくのが分かった。私かっこわるい。だけど緊張から開放されて緩みきった頬はやたらにやけて、面白いことなんてひとつもないのに笑顔で溢れてしまう。

「あーっ!何やってるんだよレン!口説くなって!恋愛絶対禁止令だぞ!」

聞き慣れた声が聞こえてきたほうを見ると、やはり予想通り幼馴染の姿を発見した。そしてなにやら慌てた様子で足早にこちらに来たかと思ったら、「恋愛禁止!禁止―っ!」とか訳の分からないことを言って間に割って入ってきたから訳が分からない。…えっと…?これはもしかして…ご、誤解…されてる!?(そんな!おとやにそんなことされたら私死んじゃう!死んじゃう!)

「そ、そんなんじゃないよ!ほんとに!ほんとにそんなんじゃないの!ただちょっとお話してただけで…!」
「男の嫉妬ほど見苦しいものはないなイッキ」
「!?しっ…!?そ、そんなんじゃなくて!俺はただ幼馴染が心配っていうか!ちょっと抜けてるとこあるし!…いいからほら離れろよー!俺ここ入るからっ!」

そう言ったかと思ったら隣のテーブルの椅子を半ば無理矢理私と神宮寺くんの間に書いて字のごとく乱入するように置いて、そこに勢いよく着席した。突然のおとやの行動にぽかんとする私。目をぱちくりしていると、ふいにおとやと目が合った。えっ!えっ!おとやが無理矢理入ってきたせいか、いつもより距離が近い!ど、どど、どうしよう…!

『子猫ちゃんはイッキのことがすきなわけか』

なんでこんなときに思い出しちゃうのー!ぼんっと爆発するように熱が上昇してしまう。おとやの顔なんて見ていられなくて、勢いよく絡める視線をほどいた。おとやもおとやで乱入してきたことで味気悪さが残っているのかなんなのか、私とほぼ同じタイミングで顔を逸らしたようだった。だけど空気が悪くなるのは絶対嫌だから、慌てて会話を繕うしかない。火照る頬をぱたぱたと両手であおいで、少しでも熱を下げようと試みながら。

「今日暑い!暑いよね!」
「うん暑い!すごく暑い!お、俺も何か飲もっかな!」
「うんそのほうが良いんじゃないかな…っ!」

お互い顔を逸らしたまま会話するなんて、はたから見たらどうなんだろう?(特にすぐそこにいる神宮寺くんとか)だけど私は思わず早口になってしまうくらい必死だったから、そんなこと言ってられない。おとやも同意してくれてよかった。むしろ彼も私同様手であおいでいるし、もしかしたら本当に暑いのかもしれない。

「わ、私!何か飲み物持ってきてあげる!まってて!」
「えっ?ちょっと!?」

そんな良いよ俺が行くから!…と聞こえてきたおとやの声は無視して、一目散に席を立って逃げ出すように走り出す。あっ、食堂って走るの厳禁だっけごめんなさい!だってあんな会話の後だとおとやのそばにいるの恥ずかしくって!

「(せっかくおとやが隣に座ってきてくれたのにー!)」

もーっ!私のばかあ!



思いのほか近くにあったの瞳に動揺を隠し切れなくて、慌てて口から出た誤魔化しで「暑い」と言っただけなのに、は俺の飲み物持ってきてくれるらしい。しかもわざわざ走って!やっぱり優しい!…そんなはレンと何を話してたんだろう。2人共、全然タイプ違うのに。…気になる。

「…と何話してたの?」

あっ自覚なしで声がちょっと低くなっちゃった。これは明らかにと一緒にいれて羨ましいですって言っているようなものじゃんかやっちゃった俺!あ、でもトキヤいわくレンには俺がのことすきってバレてるんだっけ。ならいいのかな。…いや、正確にはそういう問題じゃないんだけど。だけど当のレンはさらりと涼しい顔をしているから、これ素直に教えてくれなさそうだな・なんて思ってたらやっぱり予想通りだった。

「レディーとの会話を他の奴に語る趣味はないんでね」
「な!ま、まさか本当に口説いてたんじゃないよね!?」
「さあ?どうだろうなあ」
「え!?」

何!えっ、何これどゆこと!がなんだか嬉しそうにレンと話しているのに頭にきて乱入したまでは良いものの、流石に口説いてるっていうのは失礼だったかなと思っていた矢先に!ほんとに口説いてたの!?嬉しそうにしてたんだけど!?え!?え!?ガチンと凍りつく俺に、レンは可笑しそうに喉を鳴らしながら冗談だと告げた。……なー!

「もーっ!レン!からかうなよー!」
「からかってなんてないさ。ただ、2人共こんなに分かりやすいのに、どうして当人同士は分からないんだと不思議に思っていただけだよ」
「た、確かに俺もも感情分かりやすいくらい顔に出るってよく言われてたけど…。だからってからかうことないだろー!」
「…じゃあそういう意味でもいいさ」

えっ違うの?じゃあどういう意味。「自分で考えたらいいんじゃないか?」えー!そこまで振っといて自分で考えろってずるいよ!じゃあヒント!ヒントちょうだい!なんか気になって寝れないじゃん!ねーねーと子どものようにねだってみたら、レンは呆れたように溜息をついた。

「はたから見たら子猫ちゃんと恋人同士に見えなくもないのになあ、お前」

そんな意味深な言葉を残して、レンは女子がどうのとか言ってどっかに行ってしまった。ぽつんと取り残された俺はレンの台詞が頭ぐるぐると駆け巡る。え、こねこちゃんてのこと?俺とが、恋人同士?ぐるぐるぐるぐる回って回ってひたすら回るレンの言葉は、脳をパンクさせるのに十分な威力を持っていた。





「あれ?神宮寺くんは?」

辺りを見回してみても、そこには幼馴染の姿しかない。さっきまでいたはずの金髪のクラスメイトはどこへいってしまったんだろう?首を傾げながらおとやに尋ねたら「レディー達?が待ってるからとかなんとか言って、どっかに行っちゃった」と返された。なるほど彼らしい理由だなあとのんびり思いつつおとやの隣の席に腰を下ろし、買ってきたばかりのジュースを差し出した。

「あ、それと、お待たせ!おとや炭酸がすきだったよね。これで良かったかな」
「あ、うん!サンキュー!さっすが!俺本当喉渇いちゃって!もーレンが変なこと言うからさー」
「?神宮寺くん、何か言ってたの?」
「え!や、それは…!」

目に見えて急におどおどし始めたおとや。明らかに挙動不審。だった。…あやしい。軽い好奇心から、「ねえねえ、なんて言われたの?」なんて問い詰めてみる。するとおとやはなんでもないと言いながら顔を逸らし、まるで誤魔化すように私が持ってきた炭酸ジュースを一気飲みする。だけど私は逸らすことなくじっとその様子を眺め、まだかまだかとおとやからの告白を待っている。あの5分の間に何があったんだろう?相変わらずじーっと幼馴染に視線を送っていると遂に彼も観念したらしく、「あーもう分かったよーっ!」と若干投げやりになりつつも口を開いた。

「……あ、あくまで!レンが冗談で!言った事なんだけど!」
「うん」
「………つ、付き合ってるように、み、見えるって。俺ら」
「えっ!」

嬉しいけど恥ずかしいよく分からない気持ちが溢れて、顔が急激に熱くなってくる。しかも私、声も裏返っちゃっ…!…これは明らかに驚いてますと言ってるようなものだった。ていうか神宮寺くんも!何余計な事を!言ってるのー!内緒にしてくれるって言ってたのに!思わずうわあんと泣きたくなるけれど、でも彼は私の気持ちをおとやに言った訳じゃなくて、ただ単に感想を言っただけなのだろうか。それならこれは約束を破ったとはまた違うのかな。でも!でもでもー!

「……あ、えっと、そ、そう、なんだ…!」

黙って俯いちゃ駄目だと返事をしてみたけれど、予想以上に動揺丸出しな声になって本気で泣きそうになる。うわーもー!恥ずかしい!もうちょっとこう、余裕で笑い飛ばさなきゃなのに!そうなんだあははって流さなきゃなのに!意識してるってばれちゃったらどうしよう。すきって気付かれちゃったらどうしよう。すきってこと気付いてほしいって思ってたけど、流石にこれは急すぎだし変化球な展開すぎるし!ご、誤魔化せるかなあ…!慌てて笑顔を貼り付けたけれど、いつもどおりの顔を出来ているか不安すぎる。顔引きつってるんじゃないかな。不自然って思われてるかもしれない。

「びっくりだね!他の人には、えと、そう見えたりするんだ」
「う、うん!そうみたいだね!ま、まあ俺ら!他の人とは違って長い付き合いだし!」
「そ、そうだね!仲いいしね!この学校前からの知り合いがいるって人少ないみたいだし!余計なのかも…!」
「そうそう!」

程なくして、しんっと静まり返ってしまった2人。周りのテーブルはこんなにも賑やかなのに、とても同じ空間には思えない。なんだかお互い気まずくて顔を逸らしてしまうし、沈黙を破ろうと思っても、一体何を話したらいいのか分からないの。…どうしたらいいんだろう?「じゃあいっそ、ほんとに付き合ってみる?」なんてこと、軽々しく言えない。私の気持ちはそんな軽いものじゃない。第一おとやに失礼だ。

「えっと…。レ、レンが勝手に言っただけだから!本当、気にしないで!ごめん変なこと言って!」

私が黙り込んでしまうのを見かねてか、慌てておとやが言う。だれどね、だいじょうぶなの。ちゃんと分かってるよ。おとやは別に私のことそういうふうには見てないんだもんね。家族愛みたいなやつなんだよね。なんてことを改めて考えてしょぼんとしてしまいそうになる自分に気付いて、慌てて明るい私をふるい立たせた。

「うんだーいじょうぶ!何かあっても、『おとやは大事な友達だ』って、すきな子にはちゃんと誤解解いてあげるからね!」
「ちょっと何言ってんの!ここ恋愛禁止!そもそもその時点で退学しちゃうから俺!」
「あ、そっか」

やっとどこか緊張した空気が和らいだように笑い声で溢れたけれど、そっか、ここ恋愛禁止だったんだ。夢を叶えたくて私もおとやもこの学校に来たのに、倍率200倍なんてとんでもない受験競争を乗り越えたのに、退学しちゃ意味がない。ねえおとや。私ね、ずーっとずーっとおとやのことすきなんだよ。おとやがそうやって笑ってくれるたび、きゅううって胸が締め付けられてるの、しらないよね。でもしらなくってね、いいよ。なんて心の中で呟いてみる。勿論彼には聞こえない。その代わりに弾む雑談は途切れることなく、ルームメイトの子からのメールが来るまでずっと続いていた。


20110730 レン様の口調もキャラもまだよく分かりません偽者でごめんなさい!あと子羊ちゃん呼びははるちゃんにだけかなって思って…!