が迷子になった。どこで、なんてことはどうでも良い。それよりも、がひとりぼっちで淋しがっているという事実が俺にとっては大事なことで、それでいて他の誰でもない俺に助けを求めてきてくれたのがどうしようもなく嬉しい出来事だった。だから、なんで女友達じゃなくて俺に電話してくれたの?って本当は聞きたかったけれど、を見つけたときあまりに嬉しそうに笑ってくれるから、やっぱりこれもどうでもいいことだと思い直すしかない。背景よりも、その事実のほうが大事に決まってると、見慣れた看板を見つけて嬉しそうに走る彼女の背中を見て思う。そしてそこでひとつ確信したことがある。

それは、別のクラスになったこととか、恋愛絶対禁止令とか訳の分からない校則のせいで縁が切れるなんて考えたくもないし、ずーっとと一緒にいたい!ということだった。人の繋がりというのは意外にもろく、ささやかな事ですぐに切れてしまうらしい。だけどその末路をと辿りたくないと思った。子どもの頃からずっと続いている片想いが急に断ち切られるのだけはごめんだった。だけど一緒にいたいと思っているのは俺だけなのかなあ。うーん。

残念ながら俺はエスパーじゃないから、こればかりは分からない。の心の中が見えたら手っ取り早いんだけどな、なんて思いつつ、そんなこと出来るわけはない。要するにお手上げだった。ならば手っ取り早く本人に聞くしかないと意を決して彼女を引き止め思いをぶつけた。ら、まあ予想通り、すごく驚いた顔をされてしまった。あー。…もしかしたら、「うーん…そうかもねえ」ってきょとんとしながら肯定されてしまうかもしれない。…うわあ!それ!それ俺絶対嫌だ!だけどそんな俺の不安を他所に、はいつもの笑顔を見せてくれる。と思ったら、まさかの不意打ちを食らった。

「当たり前だよ!ずっと友達!」

ずっとともだち。この響きに、自分で聞いたくせに思いのほかダメージを食らってしまう。だああ何やってんの俺!ほんとはそんなんじゃなくて、友達でいたいんじゃなくて、そりゃずっとと一緒にいれるのはすっごく嬉しいけど、そういうその他大勢と同じポジションじゃなくて、たったひとりの特別な立ち位置につきたいんだってば!

だけど純粋無垢な笑顔で言われたら何も言えなくなってしまう。だいすきだからだいすきだって言いたくて、だけどそしたら壊れてしまうかもしれないこの関係が怖くて、いつも喉に押し止めて伝えられないままでいる。…普段はポジティブ思考なのに、のことになると途端にそれが出来なくなるんだ。絶対こんなの俺らしくないって分かってるのに!

「うあー!もーっ!どうすりゃいいんだー!」
「…だからこの部屋はあなただけのものではないのだから、もっと静かにしてくださいと何度言わせれば気が済むのです」
「ご、ごめんトキヤ!ちょっと考え事しててさ!」

び、びっくりしたあ!あれから色々考えながらごろごろ床に転がってたから、トキヤの存在に気が付かなかった…!あーびっくりしたあ…!「トキヤってさ、忍者みたいだよね!」気配を感じさせないっていうか!…て言ったら「そうですか。良かったですね」と棒読みの返事を返してまたすぐ本に目を落とした。でもこんなのいつものことだから気にしない。…あ、そうだ。トキヤって冷静だし、のこと相談乗ったらいいアドバイスくれるかも!思い立ったら即行動!早速、机に向かってなにやら本を読んでいるトキヤの背中に話しかけた。

「ねえねえ。トキヤはさー」
「…………なんです」
「あくまでもしも…もしもだよ!?幼馴染の子をすきになったらさ、どうする!?」

あ、何言ってんのこいつって顔した!俺真剣に聞いてるんだけどー!呆れ顔しないでってば!ほら溜息とかも禁止!きんしーっ!「…すいません、あまりにもくだらないことを考えていたのだと呆れてしまったもので」えっくだらないって酷!

「俺真剣なんだぞ!小さいときからずっとずーっとのこと見てきたんだから!…あ」

自爆した!いや別にいいけど!いいけど!いや全然良くないけど!呆然とする俺に、トキヤはまるで自分で暴露するとは間抜けですねとで軽く同情するような目を向けてくる。…うわあそんな目で見るなあ!俺が一番分かってるよそんなの!

「そっ、そうだよ!俺はSクラスののことが子どもの頃からすきだよ!ほんとにほんとにだいすきだっ!」
「…すいませんが、そんなこと言われなくともとっくに知ってしました」
「え!?」

なんで!なんでバレてるの!?俺言ってないよね!?思わず、トキヤってエスパーなのかと驚いた声で聞くと、当の本人はまた残念なものを見るような、ていうかはっきりいって呆れたような目を向けてきた。…だ、だからその目!禁止!きんしーっ!トキヤはまた溜息をついた。

「…見ていれば分かります」
「お、俺そんなに分かりやすかった!?」
「言って良いのですか」
「うん!」
「…とても」

な、なんだってー!「おそらくこれは私だけではなく、あなたの友人達も気付いているのではないでしょうか」嘘―!しかも「達」ってことは複数形で、むしろみんなってことでしょ!?で、でもでも!それでも気付かないも、それはそれでどうなんだろう…。いやちっちゃい頃からちょっと抜けてるとこがあったんだけど…いやそれはそれですーごく可愛いんだけど!…って、まさか!

「…………………」
「…なんです。人の顔をじっと見て」
「いや、その…トキヤってさ、と同じクラスじゃん?」
「まあ隣の席になるくらいですから、同じクラスであるのが当然でしょう」
「えっ隣の席なの!?ずるい!トキヤずるい!ていうかそんなこと一言も言ってなかった!」
「…言う必要がなかったからでしょう」

いやいや俺にとっては重要事項なんだけど!何この隠れライバル!やめろよもーっ!隣の席とかめちゃめちゃ接点あるじゃん!「課題の調子どう?」とか「消しゴム貸して」とか会話しちゃうじゃん!下手したら教科書忘れたから見せてって机くっつけちゃうかもじゃん!だって可愛いし!優しいし!ちょっと寂しがりで!でもどんなことにも一生懸命で!良い子だし!トキヤも惚れちゃうかも…!ていうかもしかしてもうすきだったりして…!?…えっ!!

「ト、トキヤはさ!のことどう思ってんの!?すきだったりすんの!?」
「…何をどう誤解してそういう結論になったのかは知りませんが、それはありえないことなので安心して頂いて結構です」
「なんで!?あんなに可愛くていい子なのにすきにならないとかおかしいって!それ絶対のいいとこ知らないからだって!」
「…あなたは私にどう言ってほしいのですか。彼女のことをすきになってほしいのですか」
「あー嘘嘘!恋愛対象外ってほんとに!?俺信じちゃうよ!?」
「だからそうだと言っているでしょう」
「そっか…!よかったーっ!」

一気に力が抜けた気がした。恋のライバル出現ほど面倒なものはないもんな!そっかそっかと上機嫌に繰り返し鼻歌でも歌うように言っていると、「だから、五月蝿いです」とまたトキヤに怒られた。ごめんなトキヤ!とまた弾んだ声で返したら、今度こそいらっとしたような目でみられたからどうしようこれってもしかしてルームメイト破滅の危機!でも気付かないフリをしてそっとしておこーっと!


20110730 トキヤ「はいはいもうそういうのいいからとりあえずリア充爆発しろ」と思っていたに違いない