中学2年生の彼氏は高校1年の私に対し、妙な焦りを感じているらしい。それに気付き始めたのは、私達が付き合い始め間もない頃からだった。そして私は今、ひとつの結論に達した。どうやら光ちゃんは2つという歳の差を妙に気にしているらしい。表面上は「そんなもんどうでもええっすわ」と言わんばかりの顔で飄々としているくせに、変なところで意地っ張りで、だから私は彼が可愛くて仕方がない。
例えば今だってそうだ。むしろ今まさにその状況。ただいま土曜午後4時半よりちょっと前。光ちゃんはテニス部の練習が終わって直で来たものだから制服のままだった。これはいつもどおり。ただひとつ違うのは、やけに不貞腐れたような目をしているただ一点だけ。…うわあ光ちゃんてば会って早々不機嫌。待ち合わせのマック前で、私は苦笑するしかない。どうしたの光ちゃん、今日の練習、そんなにつらかったの?「…ちゃいますわ」じゃあなに?首を傾げていると、光ちゃんは黙り込む。
「ねえ、なに?なーにー?ねえってば。そんな態度されちゃ逆に気になるよ」
逆に口を閉ざされるときになってしまうのは人のサガというやつなのだろうか。まるでささいなことで「これはどうしてこうなの?どうして?」と親に質問攻めにする子どものように光ちゃんの腕をくいくい引っ張ってみると、彼はゆっくりと重い口を開いた。
「……メール」
「ん?メール?が、何?」
「なんでメール、くれへんかったのですか」
んん?つまり不機嫌になった理由は私にあるというわけですか。ご機嫌斜めな光ちゃんの目をじっと見つめて今日に至るまでの光ちゃんとのやりとりを回想した私は、2秒というタイムロスを使いながらもメールというキーワードに合致する出来事を思い出すことに成功した。それによってようやく「ああなるほど原因はそれか」と納得出来た私は、3日前、今日の待ち合わせの詳細を決めたメールで使った閉めの言葉を思い出す。『またメールするね』。確かに打った。そう書いた。でもその日から今日に掛けてのケータイ受送信履歴を脳内で再生してみる。…うん、私光ちゃんにメールしてないや。だって2日連続小テストとかあったりバイト探してたりで忙しかったんだもん、なんてことを脳内で言い訳してみる。
ふと正面の光ちゃんを見やると、彼はやっぱり不機嫌そうな顔をしている。この様子から察するに、どうやら光ちゃんは私からメールがくるのを律儀にずっと待っていたらしい。ふと、ベッドの上でゴロゴロしながらやたらケータイを気にして1分毎に新着受信がないかチェックし、ないと分かった途端面白くなさそうな顔をする光ちゃんを思い浮かべてみる。えっ何それ可愛い。
そんな光ちゃんを是非からかっていじってみたいけれど、そんなことをしたら本当に彼がへそを曲げてしまうのは目に見えているからここは我慢だ。だから代わりに「ごめんね光ちゃん」と素直に謝る選択をしてみる。多分ここまでの私の行動は何一つ間違ってはいないはずだ。だからついでに手を伸ばしていい子いい子と頭を撫でてやると、彼は分かりやすく嫌そうな顔をして「全然悪いと思ってへんやないですか」と小言を言った。あれおかしいなあどこでどう間違ったんだろう、なんて本当は分かりきっていることを考えるふりをする。「そんなことないよ、すごーく申し訳ないなあって思ってるよー」とにこにこと笑って返すけれど、光ちゃんはやっぱり眉間に皺を寄せたままだった。光ちゃんは今日も可愛い。
「でもさ、そうならそうと、光ちゃんからメールしてくれればいいんじゃないかと思うんだ」
「………………」
一瞬光ちゃんが、「確かにそうや」と納得した目をしたことを私は見逃さない。けれど本人はそれをひたむきに隠そうとしているのかなんなのか、一瞬にしていつもどおりの仏頂面をべったり顔に貼られてしまった。光ちゃんは用件がない限り基本的にメールも電話も自分からはしない。したとしてもダラダラと長くは絶対にしない。でも返信はすごく早い。凄まじく早い。そういう非常に簡潔で、意外とマメな子だ。
そんな性格が災いしてか、「すき」とか「愛してる」とか、そういう類いの甘い言葉も一切言わないしメールの文字にもしない。意外にちょっと恥ずかしがり屋な子だ。ついでに人前では絶対に手を繋ごうとはしない。だけど2人きりになるとさらりとキスしてくる。こっちが酸欠になろうとも顔を逸らそうともお構いなしにしてくるくせに、やっぱり手は繋いでくれない。だから私はずっと恋人繋ぎに憧れている。そんな私の彼氏、淡泊と見せかけ実は嫉妬深く根に持つタイプだった。もしかして人によっては女々しいと一喝されるかもしれないね光ちゃん。まだ眉間に皺寄ってるよ。
「…光ちゃんはさ、私と話すのいやなの?面倒?」
「なんでそういう話になるんすか。訳分かりませんわ」
「だってメールあんまりしてくれないから。あ、電話とかも」
「…男には色々あるんスわ」
「じゃあ、なんで手は繋がないのにキスはするの?光ちゃんてキス魔なの?」
「それ今関係あります?」
「ううん、なんとなく聞いてみただけ」
のんびり同意すると、おそらく私が真面目に取り合うつもりがないと察したのか、光ちゃんは「もうええっすわ」と自ら振ってきた話を放り投げてしまった。明らかに面倒臭がっている。でも大体私達はこんな小さくてくだらないことでどちらかがへそを曲げて、でもお互い面倒臭がりだから最終的には適当にぐだぐだして終わる。それが私達のお約束だった。つまるところ私達は大喧嘩をして口を聞かなくなり破滅の危機に陥ったことがない。お互いマイペースすぎて。
…あ、そうだ小さいといえば。すっかり忘れてた。「実はね、私、光ちゃんに渡すものがあったんだよー」と肩に引っ掛けていた鞄の中を漁り始める私を、光ちゃんはまた「はあ」と気のない返事をしてぼんやりと見守っている。そんな彼氏を目の前に、ごそごそと目的のものを探す私。だけどそれは一向に姿を現してくれないものだから、段々焦りが滲み出る。なんか嫌な汗かいてきた。…あれ、どこしまったっけ。内ポケットにないけど確かに鞄の中に入れたのは覚えている。ということは、財布やらポーチやら手帳やらハンカチタオルやらその他もろもろで溢れかえっている中から探し出さなければいけないということなのだろうか。…ちょっとげんなりした。
「ちょっと待って。タンマタンマ。確かに持ってきてはいるからちょっと待ってて」
ていうか肩に掛けながらだと取りにくいなあ。A4サイズのファイルが余裕で入る大きさの鞄だから捜索範囲は広いし。こんなことなら小さいやつに入れてくれば良かったかもしれない。でも小さい鞄だと荷物入らないんだよなあ。「えーっと、えーっと…」相変わらずガサガサと鞄を漁る私に痺れを切らしたのか、光ちゃんはひょいと鞄を奪い、そのまま持ち手を左右に広げるようにして差し出した。おお、持ってもらったお陰でずいぶん鞄の中が探しやすくなった。
「光ちゃんありがとう。優しいね」
「ええから早う探してください」
「ああ、うんうん」
ちゃちゃっと見つけちゃうからね!とどこで見つけてきたのか妙な自信を振りかざし宣言してみるけれど、光ちゃんは見事に信用していない目で「はいはい」と頷いた。うわあ絶対見つけて見返してやろうと心に誓い改めて捜索を開始する私の手を、鞄を持つ意外することがない光ちゃんはぼんやりと見つめている。そしてぽつりと呟くように言った。
「先輩。俺前から思っとったんですけど、鞄に何入れてはるんですか。なんでちょっと外出るだけやのにこんなぎょうさん入っとるんですか。ていうか重いっすわ」
「光ちゃん。女の子の鞄にはね、愛と夢と理想が詰まってるんだよ」
「女の愛と夢と理想って、こんなにもぐちゃぐちゃと散乱しとるもんなんですね初めて知りましたわ」
「光ちゃん五月蝿い」
「なら早う見つけてください」
おっしゃるとおりです。こればかりは何も言えない。だって鞄の中が恋する女の子とは思えないほどごちゃついていることも、その中からたったひとつの探し物もすぐ見つからないのも事実なのだから。「絶対見つけてやるからね!」「じゃなきゃ困りますわ。俺先輩の荷物持ちとちゃうんで」どうやら光ちゃんはメールをしなかったことをまだ根に持っているらしい。言葉に棘が見える。
「光ちゃん。メールのこと、まだ根に持ってるの?怒ってる?」
「根になんか持ってませんし怒ってもいませんわ」
ぷいっと顔を背けてしまう君は、誰がどう見ても拗ねてるようにしか見えないんだけど。これは早いとこ見つけなければと改めて決意して鞄を再び漁り始めたところで、小さな赤いパッケージがタオルハンカチに被さっていたのを見つけることに成功した。「あっ光ちゃん!あったよ!」反射的に協力者の彼に声を掛けたところで、そういえば万が一割れたら大変だとタオルに包んだことを今更ながら思い出してみる。私の記憶力もうやばいかもしれない。いやいや私まだ高校生と慌てて考えを打ち消したところで例の探し物を光ちゃんに差し出した。目の前の彼氏くんはそれを凝視するも、訳が分からないようできょとんとしている。
「…なんすかこれ」
「キットカット!もうすぐ府大会決勝だからあげる!これで試合も『きっと勝つ』ってね!」
「…一応確認しときますけど、探してたのってこれっすか」
「うん」
けろっと肯定してみたら、光ちゃんはまるで「こんなものすらすぐ取り出せない鞄なんてまるで樹海や」と言わんばかりの目をしてきたからちょっとパシッと肩でも叩きたくなった。普段感情は表にあまり出さない子なのに、こういうときに限ってありありと顔に出る。なんて素直すぎる失礼な子。だけどそこが可愛いから、光ちゃんに限って許そうと思う。そしてあまりにくだらない用件だったことで脱力したのか(私は大真面目だったのだけれど)、いつもの光ちゃんの調子に戻ってくれたようだ。
「ていうかきっと勝つって、先輩寒いっすわ」
「別に私がこのキャッチフレーズ考えたわけじゃないよ。そういう文句は企業さんの商品企画部に言って。…でもまあいいじゃん、信じる者は救われるって。だってほら、もうすぐ府大会決勝!」
だからあげる!と繰り返し意気揚々とチョコレート菓子を差し出す私と、「はあ」とローテンションで受け取った光ちゃんのこの温度差である。しかしそれに気付かないふりをして、持ってもらっていた鞄とトレードするように手渡した。手の平に乗った赤いパッケージをまじまじと眺めている光ちゃんはなんだか子どものようで可愛い。そうして何気なく裏に引っくり返したところで彼の動きは止まった。小さなメッセージが書き込める欄に目をとめたのだ。「あ、気づいてくれた?」思わず私の声が少し弾んでしまったのは仕方がないと言えよう。今の私はきっと尻尾を振る犬のようにはしゃいでいる。にも関わらず、光ちゃんはいつも通りのテンション低めな声でそれに答えた。
「…ここって」
「うん?」
「普通、応援メッセージ書くんとちゃいます?頑張ってとか、応援しとるよーとか」
「うん。でもそれじゃありきたりかなって」
けろっと言い放ってみたら案の定光ちゃんは、「だからって普通、こんなところに『手繋ぎたい』なんて書かんでしょ」と怪訝そうな顔で跳ね返してしまった。だってそうでもしないと君はしてくれなさそうだったから。それに「ありえない」なんて顔してる光ちゃんだけれど、実際は少し口元が緩んでたよ、一瞬だけど。…なんてことを指摘したいなーなんて思ったけれど、一応彼のプライドもあるだろうか言わないでおこうかな。だって光ちゃん、なんだかんだ言いつつまんざらでもない顔してる。
「でもまあ、せっかくなんで貰っときますけど」
仕方なく、と言わんばかりな物言いに、素直じゃないなあなんて苦笑しながらも頷いておいた。こういうのを世間ではツンデレというのだろうか。まあ受け取って貰えたことだし良いとしよう、私の希望も見てもらえたしと満足して鞄のファスナー閉め、再び持ち手を肩に掛けた──まさにそのとき、真正面からパキッといい音が響いたのが聞こえた。…あれ?なんかおかしい今の何の音と慌てて顔を上げると、なるほど光ちゃんはすぐに赤いく薄いプラの包装を破り始めてしまっていた。その瞬間理解した。先ほどの綺麗な音はやっぱりキットカットを切れ込みに沿って2等分した音だったのだと。そして彼は今にも口に入れようとしていたから、私は慌てて声をかけた。
「光ちゃん、今食べちゃだめ!これは試合前に食べるの!じゃなきゃ意味ないじゃん『きっと勝てない』じゃん!」
「別にええやないですか。練習してきたばっかやし、ちょうど小腹空いてるんですわ」
「そうだとしても建前上食べないでしょ普通!もーっ!光ちゃんてば、もーっ!」
「ちょっと先輩、痛いっすわ。ぽかぽか殴らんといてください」
綺麗に2等分されたうちの1本を一口齧りながらマイペースな声で抗議する光ちゃんは「痛い」と言っているけれど、決してそんなふうには聞こえない。そもそも私だって本気で叩いているわけじゃないのだからそれは当然なのだけれども。「ていうかこれ、ちょっと溶けてるんですけど」文句言わないの光ちゃんもう夏なんだから、チョコが仕方ないことなの!
「…なんでそんなに怒ってはるんですか」
「自分の胸に手を当てて聞いてみなさい先輩はもう知りません」
「だってこれもう俺のもんなんでしょ。ならいつ食べようと俺の自由やないですか」
「そうだけどそうじゃないのっ!」
「ああもう面倒な人やなあ。じゃあしゃーないから今日は先輩のお望み通り手繋いであげますよ。これでええでしょ」
えっ何珍しいどうしたの。そう言わずもがな顔に出てしまったのだろうか。光ちゃんは「別に嫌ならええっすわ」と不貞腐れてしまったものだから、私は慌てて否定して引き留める。光ちゃんは少し不機嫌そうにしているけれど、それは照れ隠しということを重々承知している。むしろここで本当に私が引き下がってしまったら、彼はもう二度と自分から手を繋いてくれないような気がした。
「ううん。私、光ちゃんと手繋ぎたい。繋いで?」
上機嫌に「はいっ」と右手を差し出すと、光ちゃんはどこかやりずらそうに目を逸らしてため息をついた。あっそれ失礼だよ光ちゃん今一瞬単純な女だと思ったでしょ。でもこれは光ちゃんが照れてるのを誤魔化している証拠なのは知っているから、私は期待しながらにこにこと笑うしかない。そうこうしているうちにちょっと乱暴で不器用に手を包み込んでくれた彼の左手は、部活をしてきたばかりだというのに低血圧ということがたたってか少し冷たい。あ、この温度久しぶりだなあなんて嬉しくなった私はますます調子に乗った。
「ねえ光ちゃん、光ちゃん」
「…なんスか」
「出来れば恋人繋ぎがいいなあ」
笑顔で言ってのけると、光ちゃんは途端に眉間に皺を寄せた。だけど私も一歩も譲らずにこにことしたまま待機していると、右隣の彼は少し面倒臭そうで、でもどこか恥ずかしそうにそっぽを向いた。無意味に右方向ばかり眺めている。彼の左にいる私とは全くもって正反対の方向だ。…照れてる。光ちゃん照れてる。可愛いなあ可愛いなあとまた頬を緩ませていると、今度はそんな私に気付いたらしい彼氏くんは怪訝そうに「先輩きもいっすわ」と毒舌を披露したから、私はその仕返しをする。「可愛いね、光」。
その瞬間、複雑そうにした彼の表情を私は決して見逃さない。私より2つ下の光ちゃんは、「可愛い」だとか「弟みたい」と言われることをひどく嫌っていた。だから途端に不機嫌になってしまったのだろう。だけど「光」と呼ばれたいらしい光ちゃんは、私が時たま気まぐれで呼び捨てで名を呼ぶと、口にはしないけれど上機嫌になることを私はよく知っている。「光ちゃん」より「光」と呼ばれたほうが子ども扱いされてない気がするしなんとなく彼氏っぽいという彼の持論だった。こんな両極端な感情が一気に溢れてしまったから、彼は微妙な表情をしてしまったのだと考えられる。
だけど、いや、だからこそ、何か不満不都合があると決まって口にする私のお決まりのフレーズだったりする。つまりこれは遠回しのメッセージ。そして今がまさにそれ。「光、恋人繋ぎして。ね、お願い光」そう一言二言笑顔で口にしたら、光ちゃんは「調子に乗らんといてください」と一喝し、繋がれていないほうの手でぐしゃぐしゃっと少し乱暴に頭を撫でてきた。お陰で髪はぼさぼさになる。流石にこれは抗議してもいいだろうかと身構えていると、隣からため息が聞こえてきた。
「…これのどこがそんなにええんか、俺には分からんわ」
口ではそんなことを言いつつも、ちゃっかり指を絡ませるように手を繋ぎ直してくれた光ちゃんに、私は途端に上機嫌になる。君はちょっと不慣れそうにしてるみたいだけど、髪ぐしゃぐしゃにしたことも許してあげるよ。君の彼女さんはとっても単純だから、こんなふうにされただけで「ふふっ」と思わず小さく声に出して笑ってしまうくらい嬉しいのです。だけどそんな私を、光ちゃんはまためざとく見つけてしまった。「先輩顔緩みすぎ。間抜けっすわ」そういう君もどこか嬉しそうな顔してるけど、ねえ気づいてる?そんなことを指摘したら最後目を逸らされて手を離されてしまいそうだから言わないでいてあげる。だけど照れ隠しなのかなんとなく気まずさを感じたのか、光ちゃんは手を繋いだままそのまま歩き出してしまったものだから、それに引っ張られるようにして慌てて私も彼を追いかけるように隣に並ぶ。何度でもいうけれど、手は離さない。
「ねえ光ちゃん、これからどうしよっか。どこ行きたい?」
「もう光ちゃん呼びに逆戻りっすか。先輩ずるいっすわ魔性の女っすわ魔女っすわ」
「うんじゃあいいよ、そういうことにしておいて」
可愛い光ちゃんに恋人繋ぎをしてもらえて上機嫌な私は、もう何を言われてもどこ行く風状態だった。お陰で光ちゃんはまたぶすりと無愛想な顔をする。多分「光」と呼んでもらえなくなったことを拗ねているんだろう。「…じゃあ」まるで仕返しでもしてやると言わんばかりのタイミングで切り出した光ちゃんは立ち止まる。手が繋がれているのだから、必然的に私の足も止めざるを得ない。
「ん?なあに光ちゃん。どっか行きたいとこ見つかった?」
「はあ。まあ」
「どこ?こっから近い?」
「んー…さあ」
曖昧だなあ、どっちなの。煮え切らない返答に首を傾げてみたけれど、もしかして場所が分からないとかだろうか。じゃあ待って今こそ機種変したばかりのスマホの出番!再び鞄を開けて漁り始めると、今度はキットカットとは違ってすぐに取り出すことに成功した。スマホだけは一番取り出しやすい大きな内ポケットの中に入れているのだ。それだけで少し得意げになったスマートフォンの横の電源ボタンを押してそのままロックを解除する。「検索掛けるよ!どこ行きたいの?」と少し得意げにネットを立ち上げたところで突然スマホを持っていた左手首を掴まれる。びっくりして顔を上げたところで気が付いた。…あっ、これやばい。本能的に気付いたときには遅すぎた。
6月のとある土曜日、時刻は午後4時38分。赤に黄色のMマークがトレードマークのマック前で待ち合わせた彼氏とのデート中、2つも年下の彼氏くんがやけに色っぽい顔を近付けそっと耳元で囁いた。
「ふたりきりになれるところ」
思わずびくっと反応してしまう私に、光ちゃんは満足そうに笑う。してやったりという顔だ。ああなんていうこと、光ちゃんは普段は拗ねたりどうでもよさそうにしたりと可愛い子なのに、時々スイッチが入ったように男になるから怖い。今度は不貞腐れたのは私のほうだった。じろっと恨めしそうに睨んでみるけれど、光ちゃんは全く怖くないと言わんばかりに小ばかに笑って言った。「かわええわ」…多分私今日、光ちゃんに酸欠で殺される。
20120114 自分勝手にふわふわしてて掴みどころなさそうだけど実は甘いっていうね!そして財前は隠れキス魔だといいなという←