「4月やな」
とりあえず何を考えるでもなく呟いてみたけれど、今年は桜の開花が遅いらしく、ついでに今日は暦的には春と表現される月に突入したばかりというのに妙に風が冷たい。にも関わらず公園のベンチに座り込む俺もどうなのだと思うのだが、「寒い寒い」と無駄に連呼しながらも隣から離れないも相当の変わりなのかもしれない。しかし俺からしたら嬉しいことこの上ないわけで、だからつい間抜けに緩みそうになった頬を必死に隠すべく、無意味に口元に手を当てた。変に思われやしなかったろうかとちらりと右の彼女を盗み見るもは少し目を泳がせながら俺と反対方向の景色を見やっていたから、どうやら彼女は俺のことを視野にも入れていないらしい。…なんやねん、俺のことなんて興味ないっちゅーことか。
思い通りにいかない展開に次第にいらついて、いっそのこと「俺のこと見ろや!」とか「俺はお前のことめっちゃ気になるしめっちゃ見たいしむしろめっちゃ触りたいわボケ!」と怒鳴り散らしてやろうかとも一瞬考えたものの、そんなことを口にしたら最後、まるで意味が分からないと言わんばかりの冷めた目で「は?」とたった一言返されでもしたら俺はきっと死んでしまうに違いない。だってはきっと俺のことなどただの男友達としか認識していないのだから。
「うん。まあ、ツイタチだし」
その証拠に彼女は至って普段どおりのマイペースな反応をしている。こくりと頷きながら淡々とした口調で今日の日付を返してきたに、「せやな」と相槌を打てばどうしたものだろう、途端に会話が途切れてしまった。…そういえば俺の右隣に座るは普段髪を全部下しているというのに、今日に限っては風が強く鬱陶しいからだろうか、横髪を耳に掛けている。そのせいでいつもなら隠れている耳が見えて、だから俺はますます落ち着かない。たったそれだけで妙に女らしく見えてしまう俺は毒されてしまった証拠なのだろうか。
だから普段なら何を考えるでもなく下らないことをぽんぽん話すことが出来るはずの口も、今日に限っては大人しく塞いで静かにしている。せ、せせせせ、せやかて、これ、2人きりやん。だからその、なんちゅーかやな、その。………デートみたいやん。…き、緊張、するやん。…ああ、あかん。また意識したら緊張が増して来てしもた。ばっくばっくと心臓が騒がしい。
「(…い、一体何話したらええねん…。そもそも普段何話しとったっけ…あほみたいなどうでもええことで盛り上がっとった気いすんねんけど……わすれてしもた…)」
普段は周りにクラスメイトがいた教室ばかりだったから、こんな風に突然2人きりの状況に放り込まれては思考回路が追いついてくれない。(いや、ぶらぶら歩いてたらばったり出くわしただけなのだが)しかし考えれば考えるほど一向に出てこない。ひたすらぐるぐるぐるぐる脳内で回り続けるその問いに、せめて解答のヒントを出してくれないかと思わず白石に電話で聞き出してしまいたい。…て、落ち着けや俺。なんだかそわそわとなる体をとっさに座り直して誤魔化し、喉の調子が悪いとでも言うかのようにゴホンと咳払いをした。
「(あかん、生きた心地せえへん)」
おまけにひたすら和太鼓のように鳴り続ける心臓は、彼女のことがすきだと嫌と言うほど伝えてくるものだから厄介だ。…そんなこと、当の昔に知っている。ただあまりにも長く友達をやりすぎた分、今更思いを告げる言葉もタイミングも分からないだけで。
★
ど、どど、どうしよう。今すごいそっけない返事しちゃったんだけど謙也どう思ったかな。
ばっくばっくと騒がしい心臓は後悔の念に捕らわれせわしなく全力疾走を続けている。口を開けば素直じゃないことばかり出てきてしまう可愛げのない自分に嫌気が差した。…なんでもっと素直で可愛いことが言えないんだろう。思わず泣きそうになってしまった私は、ぎゅうっと自分の手を握りしめて、ついでに爪を立ててみる。痛い。でも心はもっと痛い。…謙也に幻滅されたらどうしよう。嫌われちゃったらどうしよう。そのことだけが心配だった。
「あ、あの…っ」
気まずい雰囲気を打破しようと慌てて口を開いてみたものの、さて困った一体全体何を言えばいいのやら。後先考えずに話し掛けてしまったために、なかなか言葉が出てこない。…ば、ばか!私の馬鹿!声を掛けられふと顔をこちらに向けてくれた謙也に、本当は何も話すことなんてないんですむしろ沈黙を破りたくてとりあえず声掛けただけなんですだから思わず頭を抱え込んで泣き叫んでしまいたいほどに猛烈に後悔してるんですなんてどうして言えよう。頭が真っ白になってしまった私には、きっと普段どおり盛り上がるような馬鹿げた話なんて思い浮かばない。…どうしよう。…私だって、謙也に一緒にいて楽しいって思われたい。可愛いって思われたい。…すきって思われたい、のに。
だけど口はいつだって心と裏腹で素直じゃないのが悩みの種だ。だって私はどんなときでもこの忍足謙也のことがだいすきで、本人は気付いていないとは思うけれど、謙也のことを見ているときの私はいつだって頬が緩んでしまっている。更に彼が何気なく「」と名前を呼んだときには思わず尻尾が千切れんとばかりに笑顔を振りまき「なあに?ねえ謙也、なあに?ねえねえ、今私のこと呼んだ?」とうきうきと弾んだ声で尋ねたいのだけれど、実際にそんなことをしたら最後私が謙也のことがすきだということが、いくらばかで鈍くてどうしようもない謙也でも100%確実にバレてしまう。だからつまらなそうな表情を顔に張り付けて少しでも顔が緩まないように気を引き締めた結果、は謙也の前ではいつもむっとしていて可愛くない少女という公式が出来上がってしまった。ついでにデレデレと甘い口調になるのに気づかれたくなくて、だからついつい冷たい口調というか、喧嘩腰になってしまう。これはもはや一種の呪いだった。
「あ、えっと……っ!その…………な、なんでも、ない……」
途中まで必死になって話題を捜索していたのだけれどいざ謙也にじっと見つめられると思考回路が完全に遮断されてしまうわけで、だからひょろひょろと自信なさげに俯きながら自分から投げかけた会話を強制的に終了させてしまった。…や、やってしまった。そんな私を謙也はきっと「うわ何それ自分から話し掛けておいて」と思っているに違いない。眉間に皺寄せてそう。だって現に今、「なんやねんそれ、逆に気になるやん」と食いついて来ている。いやだからあの本当になんでもないんだって。私がこっちに転校してきた小学校高学年から一緒にいるんだから分かるでしょう。…なのになんで分からないの。そう言わんばかりに突っかかる私は、やっぱりいつもどおり彼に反抗する。
「な、なんでもないって言ってるじゃん」
「なわけあるかい。どうせあれやろ、くだらんこと考えとったんやろ」
「べ!別に…っ!えーっと…。あっ、ちゅ、中学卒業してもまーた謙也と同じ学校なのかーって考えてただけだよ。いい加減にしてほしいよね」
「なっ!そ、それはこっちの台詞や!また五月蝿い奴と3年間一緒なのかと思うとうんざりするっちゅー話や!」
「なによ」
「なんや」
そうしていつも通り視線を交わしながらバチバチバチッと火花を散らしてみるけれど、内心は「どうしよう今謙也とすごい目が合ってる見つめ合ってるどうしよう!」とはしゃいでいることなんてきっと目の前の謙也は想像したことすらないだろう。だけどこちらから逸らしたら負けのような気がして、私の気持ちに気付かれてしまうような気がして、だから必死になってじっと謙也に向ける視線を絶えず注いでみるけれどいい加減私も爆発してしまいそうなくらい心臓も体温も大変なことになっている。
…それにしても、謙也は私と同じ高校になるのがそんなに嫌だったんだ。なんだかいっそ泣き出してしまいそうだ。でもまあ確かに私が謙也だったら、きっとこんな女と付き合いが続くなんてと思っているに違いない。だから私は涙も溜め息も必死に我慢して、ただただだいすきな彼の瞳をわざと眉間に皺を寄せたまま見つめることしか出来ない。…やっぱり私、かわいくない。
★
「(ちゃうやろ謙也!ほんまはエスカレーター式だったからとはいえ高校も一緒でめっちゃ嬉しいねんてなんで言えのや謙也!あほやろ!お前あほやろ!何をムキになっとんねん謙也!もうあかん!ほんまあかん!嫌われてまうむしろ絶対嫌われてしもた!)」
そう言って、うわあああと頭を抱えて全力で後悔している心の住人は「今からでも遅くあらへん!素直に言っとけっちゅー話や!」とアドバイスを寄越してくるものの、こんな火花を散らした状態でどうして言えようか、いや言えない。そもそも今の俺はから逸らされることなく注がれている視線に必死に耐え抜いているところなのだ。そんな余裕あるはずがない。…だって俺はのまっすぐで曇りのない目がすきで、だからそれに射抜かれている今、ばっくばっくとせわしなく疾走し続ける心臓は仕方のないことなのだけれどもこのままだと俺は死んでしまう。…あかん、背中まで熱くなってきてしもた。
「(お前俺を殺す気か!ええ加減にせえよ!一回鏡見てこいや!ほんま惚れ直すっちゅー話やかわええ顔しよってからに!)」
…なんてことを言い放ってやりたいのに出来ない俺はヘタレなのかそうなのか。それにしても心の中ではこんなにも素直な言葉がぽんぽん飛び出してくるというのに、口から解放された瞬間いつもその真逆のことが出て来てしまうのはなぜなのだろう。…長年友達をやりすぎたからだろうか。今更素直になったところで「謙也何言ってんの気持ち悪い」と引かれてしまいそうで怖い、そして照れ臭い。…ということを以前白石に相談したら、「そんなむつかしいこと考えんと、もっと素直になればええんやで謙也」とにこやかな笑顔で返されたが、だからそれが出来ないから苦労しとるっちゅー話や。
「(そもそもこの耐久戦はいつまで続くんや…。ほ、ほんまかわ…っ!俺死ぬ!ほんま冗談抜きで死んでまう!…あかん!もう無理や!)」
だがしかしここでに恥ずかしくて耐えられなかったということを悟られてはならない。よってばっと勢いよく顔ごと逸らしたい衝動だけは必死に堪え、代わりに「あーあ」なんてため息交じりにつまらなそうな声を出して右隣から視線を外し、無意味にぼんやりと向かい側にそびえ立つ桜の木を見やってそっぽを向くことに成功した。…よ、よし。これできっとに見つめられて照れてしもたってことだけは勘付かれずにすんだはずや。アカデミー賞もんの演技やで謙也ようやったわほんま。ほっと胸を撫で下ろしたが、このまま中途半端なものでは終わらせない。更にこの行動を不審に思われないよう台詞を追加した。
「なんやオモろいことないんかいな」
そう独り言のように吐き捨てたら、一見「もう面倒だしつまらんから睨み合いは一抜けた」というふうに見えるだろう。…助かった。しかしどうしたことだろう、は「んー」と反応に困る返事しか寄越して来ないものだから、ますます会話に困ってしまう。もしかして演技ってバレてしまったのだろうか。それとも振った話が微妙な独り言のように聞こえないことがないだけに流されたのだろうか。というかそもそもこの後のこと全く考えてなかったやばい。ということはまた沈黙に逆戻りするのだろうか。えっそんな。心配は後から後から湧いてきて、どう転んでも俺は落ち着きがない。
…あかん、なんで俺こないに緊張してんのやろ。…あかん。あかんて。気合い入れのようにぱんっと両頬を叩くと突然の予期せぬ行動を仕出かした俺に驚いたらしいがびくりと肩を震わせた。ついでに「謙也何やってんの大丈夫…?」と怪訝そうな顔をして心配してきたが、まさかそこで「隣にお前におるから緊張しとってん」とかそんなこと暴露出来るはずもない。慌てて頭を回転させた俺は、場を取り繕うように必死になって提案をした。
「…せや!今日エイプリールフールやろ。せやから、驚かせたほうが入学式荷物持ちっちゅーのでどうや」
「ふーん…。なんか面白そうかも。いいよ!」
た、助かった。途端にほにゃっと全身の力が抜けていくような感覚になる。どうやら緊張が少し解けたようだった。…なんや肩凝ってしもた。変に力を入れていたのだろうか、だとしたら格好が悪すぎる。それにしても自分から言い出したこととはいえが乗ってきてくれて助かった。驚かせた方が勝ちなんて幼稚だと思われるだろうかとひやひやしたが、彼女はそんなこと微塵にも考えていないらしい。なにやら隣から案を捻り出そうとしている可愛らしい声が聞こえてきた。
「うーん……んーっとねえ…」
首を傾げながら考え込む仕草を見せるに、興味なさ気という雰囲気を放ちながらも横目で観察することをやめない俺は変態かっちゅー話や。しかし口元に手を当てる彼女は妙に真剣なおもむきで普段とはまた違う目の色をしていたものだから、どうしても目に焼き付けておきたかった。
「(……なのに、なんでこっち向かんのや)」
隣に並んでベンチに座っているんだから、ここからではの横顔しか見ることが出来ない。しかし俺としては、出来ることなら真正面から拝みたいのだが。…いっそのこと無理矢理にでもこちらに向かせてしまおうか。しかしそう考えれば考えるほど、実際にそんなこと出来るはずもない。行き場の無い手を無造作にジーンズのポケットの入り口に引っ掛けてみるけれど、いらつく心は収まってくれないようだ。
すきだとか可愛いだとかそんな素直なことは決して口にすることは出来ないくせに、一丁前に妬くことは出来るらしい。自分では何も出来ない癖に、いつだって俺はに対していらついてばかりだった。…だって人がこんなに心臓を高鳴らせていると知らないとは言え、こいつはいつもいつもけろっとした顔で俺の心を引っ掻き回していくことばかりする。…そもそもなんやねんその一生懸命考える顔。俺を殺す気かっちゅー話や。
「(………お、落ち着け俺。落ち着くんや)」
隣のに気付かれないようこっそりと胸に手を当てて心臓よ収まりたまえとひたすら念じて精神を落ち着かせようと試みるも一向にその効果が見られないものだから、どうしたものかと必死に深呼吸を繰り返した。…きっと世にはより可愛くて美人で素直な女は溢れかえっているだろうに、どうして俺はにばかり反応してしまうのだろう。すきすぎて収集がつかない自分がいっそ嫌になる。
今だってそうだ。高校に入学してクラスが離れたらきっと話す機会なんてそうそうなくて、「とりあえず顔は知ってる小学校からの知り合い」に成り下がるのだけは嫌で、だから入学式の荷物持ちなんて提案をして、高校生になってもとりあえず1日だけは話すきっかけを作ろうと必死になっている。…どんだけベタ惚れしとんねんっちゅー話や。
★
エイプリールフール。驚かせた方が勝ち。
単純明快なルールに、私はどきどきと胸を高鳴らせていた。…今なら私、謙也にすきって言えるかも。そんなことをこっそり考えたら緊張が止まらなくなってしまって。…だってほら、驚かせたらいいんだし。嘘つかなきゃいけないなんてルールどこにもないわけだし。もしかして気まずくなって振られる可能性のほうが高いけれど、そんなときは「いや嘘だって何本気にしてんの」と茶化して誤魔化してしまえばいい。だってもう限界だ。これ以上友達でい続けるなんて出来ない。誤魔化せない。私の気持ち、知ってほしい。私以外の女子と雑談する謙也を見るだけで胸が締め付けられて泣きそうになって、私だけ笑いかけてほしいなんて独りよがりな独占欲はもういやだ。高校に入ってそれじゃさよならなんて絶対いやなの。…だから今言うしかない。だ、だいじょうぶ、わたし、きっと言える。
「……えっと……あ、あの……け、謙也……」
落ち着きなく目を泳がせながら口を開くと、左隣りから「なんや」ときょとんとした声が返ってきた。まさか今から私に告白されるだなんて、彼は微塵にも思っていないに違いない。当たり前だけど。
…本当はドラマみたく桃色に染め上げた頬と潤んだ上目使いで可愛く言えたらよかっただろうけれど、あいにく私にそんな勇気も技術も素材も持ち合わせていない。油断をすれば今にも溢れてしまいそうな涙を必死に抱え込むように俯き、膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめることで精一杯だ。…い、言える。言える。私きっと言える。がんばれ。がんばれ。
「………あ…えと……じ、実は私、その…け、謙也のこと。…ず、ずっとすきだったん、だけど…」
「…は」
まるでフリーズでもしてしまったかのように短い反応を見せたかと思ったら、すぐに沈黙が到来してしまった。…だ、だめだった。じわあっと溢れ出す涙を必死に抑え込みつつ、左手の甲に爪を立てて必死に我慢する。そして何度も何度も呪文のように繰り返した。ないちゃだめ。ないちゃだめ。
「(け、けんやのばか…っ!)」
はてこれは逆切れというやつなのだろうか。謙也に起こる原因は何一つなかったように思えるけれど、それでも私は彼に八つ当たりするしか出来ない。でもだって、例えば驚くなら驚くで「何言っとんねん」と笑ってくれればよかったのに、なんでそう鳩が豆鉄砲くらったみたいな反応しちゃうの、こっちも返答に困るじゃない──とか。決して自分の魅力の無さとか落ち度とかそういうものを批判しようとしないあたり、もしかしたら私は相当の自信家でプライドの高い人間だったのかもしれない。…なんて。
★
一瞬すべてが白くなってしまった俺の脳内はなかなか再起動してくれない。おまけにそこでタイムロスが生じたらしい俺の脳は完全にフリーズしてしまったようだった。金魚のようにぱくぱくと口を開けるも、肝心の台詞は一向に出てこない。…今こいつ、なんて言いよったん。俺のことずっとすきやったとなんとかって聞こえてきた気がすんねんけど。
「(って、ついてええ嘘とあかん嘘あるやろ…っ!)」
すきっておま、ちょ、何考えとるん!嬉しいけれど状況的にはきっと嘘なのが悲しくて、でもやっぱり好きな子から「すき」とストレートに言ってくれたという事実は変わらないわけで、だから一気に全身が熱くなってどうしたらいいのか分からない。嬉しい。ほんま嬉しい。嘘でもなんでもいいと思ってしまうほどに嬉しくて嬉しくて、ぬか喜びだと知ってはいるけれど嬉しくて、とにかく嬉しい。語彙力に乏しくこの喜びを正確に伝えられないのが残念だが、とにかく今の俺は浮かれている。生きてて良かったと大袈裟なことを本気で考えてしまうほどに。しかし世の中はそんなに甘くはないらしい。容赦のない現実を押し付けられてしまった。
「な、何本気な反応してんの!お、驚かせろって言ったの謙也じゃん…!」
ずごんっと痛々しい音を立ててタライが頭上に直撃したような気分だ。急降下だ。どん底だ。やっぱり嘘だったのか。…そ、そうだろうとは分かっていたけれど、実際冗談で好きと言われてもつらいだけだった。…お前…俺がこんなにすきだと知らないからってよく言えたもんやな流石の俺も今のはブロークンハートやぞ。…なんかもう、吹っ切れた。全てがどうでもよくなった俺は「どうにでもなれ」精神を全開に押し出してやれと心に決めた。もう後先のことなんて考えていられない。浪速のスピードスターよ突っ走れ!
「おま…っ!照れながら言うなや惚れ直すやろが!」
「な!」
ぼんっと一気に顔を赤くしたは、まるで数秒前の自分の姿を見ているようだった。…ふふん、どや!ざまあみろっちゅー話や!なんだか俺はもう、スイッチがオフになったのかオンになったのか自分にすら分からないほど完全に開き直ってしまったらしい。気付けばバズーカーでも連射しているかのようにぺらぺらと口が勝手に動いていた。
「俺かてなあ!ずっとお前に惚れてたっちゅーねんむしろより長いっちゅー話や!」
「な…っ!な、なに…!な、ななな、なに言ってんの!私の方が長いに決まってんじゃん!」
「いや俺や!」
「いや私だって!」
「そもそもや!口開けばすぐ白石と比べよるしほんまイライラしてたっちゅー話や!俺がどんだけお前のことすきか知らんからって!」
「わ、私だって!いっつも白石くんと一緒にいるからって白石くんに嫉妬してたんだから謙也のばか!……あ」
「………………………」
「………………………」
…えっと…どないしよう、我に返ってしもた。数十秒前の勢いが嘘のように消え去り、辺りには沈黙しか存在しない。そんな無音の中、じわじわと侵食するように自分が口にした台詞が脳内でリピートされて、そこでようやく気が付いた。…俺、とんでもないこと言ってしもたかもしれん。そしてもで冷静になってきたらしい。売り言葉に買い言葉で乗っかったとはいえ、流石にことがことだっただけに彼女も徐々に羞恥に駆られているようだった。
言い合っていたままの体勢で無言でじっと顔を見合わせた3秒後、急に事の重大さに気が付いて、かあああーっとお互い顔を真っ赤に染め上げてしまった。し、死ぬ!ほんま死ぬ!なんだかもう燃えるような錯覚にまで陥るほど体温が急上昇してくるのは何故なのだろう。慌てて顔どころか体ごと背け合うけれど、一向に熱は下がってはくれない。ていうか俺!なんてことを!暴露してしもたんや!これ以上ないと言うほどの高温を抱えながら全力で後悔する俺の背後から、やたらあたふたと落ち着きのないの声が投げかけられる。
「やっぱりなし!も、もうエイプリールフールごっこ終わりだからね…っ!」
「せ、せやな!なんやつまらんことしてしもたしな!すまん!」
「う、ううんっ!わ、私もなんか、ごめん…っ!」
うわなんやめっちゃ恥ずかしがっとる声がするんやけど今どんな顔しとんのやろ見たいめっちゃ見たいわけどあかん今の俺そんな余裕あらへんなんせ俺絶対顔赤い!こんなんに見られたらほんま死ぬ!死んでまう!…ああもう、それもこれも全部のせいや。こんなにすきにさせておいてただの友達に留まるなんてそんなん無理っちゅー話や!今日帰ったら白石にメール…いや、電話せな!そんでまた作戦会議せなやってられん!のアホすきやボケ!
20120401 お互い好き合ってるのに友達っていう関係はもう大好物です。そんで白石は謙也とヒロイン両方から相談受けてるので「なんでこんなに分かりやすいのにつっくかんねやこの2人」と心底不思議に思っているに違いない