「(俺、嫌われとんのやろか)」

ぱたぱたと逃げるように去っていく少女の背中を見ながら、そんなことをぽつりと思う。初対面の相手に嫌われるというのはあまり気持ちのいいものではなく、そもそもその原因がなんなのかさっぱり見当もつかないのだから余計にもやもやしてしまう一方だ。…おまけに自分以外誰もいないこの玄関先が、まるで自ら生み出したその悲しい仮説を肯定しているように思えて仕方がない。溜息をひとつついて、肩からぶら下がっていた大きなラケットバックを掛け直す。…いつまでも1人でこんなところに突っ立っていても仕方がない。渡邊家の長い廊下をどこか重い足取りで歩いた。

「(……ろくに目も合わせてくれへんかったなあ。合ってもすぐ逸らされてもうたし)」

勝手に彼女とはすぐに打ち解けられると半ば確信めいた自信があったのだけれど、どうやらそれは俺の勝手な勘違いという名の妄想話だったらしい。思わず苦笑してしてしまう。ばあちゃんすまん、「もしもと会うことがあったら、そのときは仲良うしてやってな」と言ってくれたその願い、どうやら叶えられへんみたいや。多分。あと「白石くんなら絶対すぐ仲良うなれる」って言ってくれとったけど、その予想も外れとったみたいや。

可愛い可愛いとまるで呪文のようにばあちゃんからのことを言い聞かせられてきたこの10ヶ月。どうやらいつの間にかそれはうっかり洗脳されてしまったらしい。気が付けば彼女に対して妙なフィルターが付いてしまっていていて、まるで妹を見守る兄のような気分になってしまった。おまけに、俺自身姉も妹もいるけれど彼女のようなタイプではないから妙に新鮮だ、なんて思いながら。

「(それとも逆に、それが気持ち悪い思われたんやろか)」

なんとなくほんわかしているように思えたから(失礼ながら)鈍い子なのかと勝手に考えていたのだけれど、違ったのだろうか。お互い認識があると言っても一度電話越しで話した程度、そんなものほぼないに等しかった。もしかしたら彼女はそのことすらもはや記憶の彼方なのかもしれない。…そもそもばあちゃんやオサムちゃんから小さな世間話代わりにのことは聞いていたけれど、まさか本当に彼女に会う日が来ようとは夢にも思っていなかった。実際今もなんだか本当のこととは思えていない。

、中学3年生。オサムちゃんのイトコで、青学に通っている。彼女に関する話題はいつだって些細なことで、日常的なことで、それでいて彼女の小さな失敗談を暴露するオサムの話はどこか等身大で、それが妙に親近感を芽生えさせていた。知っているけれど知らない奇妙な存在の彼女はまるで遠い国の人物のように他人事で、けれどある日突然ひょっこり顔を出してきそうな人間性を持ち合わせていた。そんなのことを知ったのは部員達とほぼ同時期だけれど、彼らよりもばあちゃんと小話をする率が高い自分は、それに比例して彼女に関する話は誰よりも知っていると自負している。

そんな彼女の名を気に留めるようになったのは、確かテニス部がばあちゃんの家に初めてお呼ばれされて1週間程経った日のことだった。…と、そのように記憶している。随分と曖昧な記憶だけれど、そのときの空はやけに青々としていたことと、その日が部活のない月曜日であっただけは間違いない。放課後今日は雲ひとつないなあとぼんやり天然の天井を眺めながら素直に帰宅の道を辿っていると、どこかで見たことのあるおばあちゃんの後ろ姿を発見したことを覚えているから。そこでふと足が止まった。

『(オサムちゃんとこのばあちゃんや)』

なんだか歩き方がぎこちなく、よろよろとしている。さてそんなに足腰が悪かったのだろうかと不思議に思ったが、なるほど右手にしっかりと握られている随分と重たそうな手提げ袋で全てを察することが出来た。そこから大根がひょっこり顔を出しており、しっかりとした生地で出来ているらしいエコバックと言う名の買い物袋の底は深く沈んでいたのである。随分と重たい買い物をしたんだなと納得したとほぼ同時に、何を考えるわけでもなく足早にばあちゃんの背中に接近する。ばあちゃんに追いつくのはそう時間はかからなかった。

『ばあちゃん。こんにちは』

ひょこりと後ろから声を掛けると、ばあちゃんは驚いた顔をして振り返ったがすぐに『ああ、白石くん。今帰りなん?』とほんわかと白い歯を見せた。どうやら俺のことを覚えてくれていたらしい。嬉しくなってひとつ頷いた。

『あ、こないだはテニス部で押しかけてしもてすんまへん。けどめっちゃ楽しかったです』
『あらあらこちらこそ。ご丁寧にどうもおおきに』

向かい合ってぺこりとお互いお辞儀をするのは、多分はたから見たら若干シュールな図と映っているかもしれない。『そんでばあちゃんは…買い物かあ、大変やなあ』と声を掛けると、『毎日テニスやっとるあんたらに比べたら、こんなもんかわええもんよー』と笑った。

『…うーん、まあ俺らは毎日鍛えとるからなあ。けどそんなんじゃまだまだ全国じゃ通用せんよ。せやから日頃からもっと鍛えんとあかん思て』
『ほんま白石くんは努力家やねえ。ばあちゃん感心やわあ』
『そんなことあらへんよ。…あ、これちょうどええね。ちょっと使わせてえな』

ばあちゃんが重そうに持っていた買い物袋をひょいと奪うように手に持つと、ばあちゃんは一瞬驚いた顔をする。だけどそれに気付かないフリをして荷物を借りたまま背を向け進行方向に足を動かすと、後ろから困惑した声が聞こえてきた。『…あ、せやばあちゃん。他にどっか寄るとこあるん?』と尋ねながら振り返る。すると控え目に否定してくるから、『ほな渡邊家まで筋トレ出来るなあ』と笑ってみる。するとばあちゃんはすぐにその意味を察したようで、『おおきに白石くん』と礼を言った。

『別に礼言われるようなことしてへんでばあちゃん。むしろ俺の方こそ筋トレさせてもろとるんやから、こっちがお礼言わなあかんのに』
『ふふ。せやねえ』

ばあちゃんは小さく笑った。俺の本当の祖父母とはあまり付き合いがない。父方のほうは2人も兵庫に住む叔父夫婦のところで同居しているし、母方のほうは随分と旧家な考えを持っているようで、「嫁いだのならめったなことがない限り家に帰ってくるべきじゃない」とかなんとかで、自分の祖父母だというのに声すら思い出せないくらい連絡は取り合っていない。だからこそ俺は、こんな祖母がほしいと憧れに近い感情を抱いていたようだ。オサムちゃんが羨ましい。

『それにしてもばあちゃん。これ随分重いなあ。何買うたん?』
『醤油と大根と牛乳と…ああ、チョコパイもやなあ』
『チョコパイ?』

途中まではなるほどと納得して聞いていたのに、途中からなんだか不釣り合い単語が聞こえた気がして思わず聞き返してしまった。ばあちゃんチョコパイすきやったんか。意外や。するとばあちゃんは笑いながら『ちゃうよー』と否定する。えっ、何が違うって?

『孫がなあ、甘いものすきやねん。せやから送ったげよう思て』
『オサムちゃんかて社会人なんやから、そこまでせんでもええと思うけど…』
『ちゃうちゃう、オサムやのうて。東京にも孫がおるさかい、その子にな』

東京にいる、孫。そういえばこの間レギュラー全員でお邪魔したとき、俺と同い年のお孫さんがひとりいると言っていた気がする。だから俺らに対しても孫が増えたように思えるとか、なんとか。そのときは『へー』と相槌を打つ程度だったから軽く流したような気がするとぼんやりと思い出した。

っていうんやで』

何も聞いていないのにばあちゃん自らお孫さんの名前を嬉しそうに暴露したということは、結構な祖母馬鹿らしい。本人にその自覚があるのかは分からないけれど。『へえ、そうなんかあ』と相槌を打つ俺も、オサムちゃん同様そのというお孫さんが羨ましくなってしまう。…俺もこんなばあちゃんが欲しかった。

『ばあちゃんが言うのもおかしな話やけど、な、めっちゃええ子やねん。いつか白石くんも会うてあげてほしいわあ』
『せやなあ。俺もばあちゃんのお孫さんに会うてみたいわ』

何気なく飛び出た言葉に、ばあちゃんはなんだか嬉しそうに笑う。

『ほんま?白石くんとが仲良うなってくれたら、ばあちゃん嬉しいわあ』

この一言で、もしも万が一にでもと出会うことがあったなら、俺は必ず仲良くなろうと思った。なんとなく、そうなれる気がした。…そういえばって、どんな子なんやろか。ふとした好奇心がひょこりと姿を現す。だけど彼女の話をするばあちゃんはこんなにも楽しそうな顔をしているから、きっとそのお孫さんはとてもいい子だというのは本当なのだろう。そう確信めいたものがあった。

渡邊家への帰路は終始、見たことも会ったこともないの話ばかりだった。例えば青学に通っているだとか、いちごがすきでヨーグルトは絶対いちごの果肉入りだ派なんだとか、果物やお菓子を送ったら律儀に電話や手紙をくれるんだとか、最近白アザラシのなんとかというキャラクターに凝っているらしいだとか、髪を切ったら途端に寝癖が付きやすくなって毎朝大変らしいだとかそんな他愛のなくて小さなことばかりだったけれど、あまりにも等身大すぎる少女の話はあまりにも小さいことで、それがやけにリアルさを物語っていて、会ったことすらないはずのという人物のことを俺はまるで昔から知っているかのような気分にまで錯覚してしまっていた。…というのは流石に言い過ぎだ。分かっている。訂正しよう。

そうこうしているうちに辿り着いてしまった渡邊家。せっかくだしお茶でも飲んで行きなさいというお誘いに甘えて門戸を潜ってふと視界に入った郵便受け。何やら投函されていることに気が付いた。おそらく新聞だろう。慌てて玄関の鍵を開けていたばあちゃんの背中に声を投げかける。流石渡邊家、広すぎて背中が遠い。

『ばあちゃん、夕刊来とんで。取らんでええのー?』
『ああほんま?ほな白石くん、悪いけど取ってくれる?ばあちゃんお茶の準備しとるから先入っとるよ』
『うん』

新聞と一緒にポストに入っていた1枚の官製はがき。筆まめらしいばあちゃんだから、旧友から手紙が来ることはさほど珍しいことではないらしいけれど、やけに丸まった可愛らしい字は送り主が若い女子であることを物語っていた。…やっぱり珍しい。間違って郵送されたのではと思ったけれど、宛名はしっかりばあちゃんの名前が記されている。…誰やろ。決して褒められることではないと知りつつも何気なく差出人を見やると、つい先程まで耳にしていた名前が丸み帯びた字で書かれていた。『あ』思わず声が漏れる。

『(や)』

音でしか知らなかったはずの少女の名が、文字となっていた。。そう確かに書かれている。なんだかくすぐったい気分になってしまう。…それんしてもって、渡邊と違ったんか。てっきり渡邊だと思っていたのに。…いや、そもそもこのという人物は、本当にそのなのだろうか。たまたま偶然という人物がばあちゃんの知り合いにいて、手紙を送ってきただけなのではないだろうか。教師をしていたというばあちゃんは顔が広いし、ありえない話ではないように思う。にも関わらず、俺はこのが俺の知るであると確信しているのはどうしてなのだろうか。

思わず裏返して中身を見たい衝動に駆られてしまうけれど、そもそもこれは俺ではなくばあちゃん宛ての手紙なのだから、そんなことをしては失礼だ。モラルがない。そんなことをしてはならない。なら勝手に差出人を確認するのはモラルがある行為なのかと言われればそれまでだが、そこは大目に見てほしい。どうやら俺はという人物にいつの間にか興味を持っていたようで、だからうっかり目に入ってしまったということにしておいてはくれないだろうか。

『(……………………)』

…たった1枚薄い官製はがきを引っくり返せばすぐに分かることやねんけど。…いや、せやからあかんて。けど気になるやん。でもあかんて。今ばあちゃんおらんやん。そういう問題とちゃうやろ。

…なんてことだ、天使と悪魔が口論を始めてしまった。そしてこれはどちらに軍配を上げればいいのか全く分からない。じっとはがきに書かれたという名を見つめながら脳内で行われている戦いの終結をじっと待つしかないのだが、一向に勝負がつかない。悩みに悩んだ挙句、4つ折りにされていた新聞で手紙をサンドイッチするように挟む。そこからが早かった。まるでどこかの浪速のスピードスターのように素早く玄関に向かい靴を脱ぎ、そのまま足早に長い廊下を一目散に突き進んだのだ。きっとはがきを見ているから駄目なのだ、そう結論づけて。おそらく家の主がいるであろうと予測したリビングに顔を出すと、予想通りばあちゃんの姿を発見した。一目散に声を掛ける。手紙が来ていた、と。

『ばあちゃーん』

そう口にした瞬間、大きな電子音が家の奥から響き渡った。ピルルルルル。どうやら電話らしい。…なんてタイミングが良いんだ。いや、悪いのか。ばあちゃんは『はいはい、ちょお待ってくださいねえ』なんて誰に言うわけでもなく口にしながら、受話器へ向かってしまう。その途中で俺の存在に気付いたらしいが、『新聞おおきに。座って待っとってねえ』と一言声を掛けてきただけだった。まさか自分宛てに手紙が来ていたとは思っていないらしい。

…どうしたものか。ふと新聞を開いて、そこに隠すように挟んでいたと書かれたはがきに視線を落とす。相変わらず悪魔の囁きが離れてはくれない。とりあえず言われた通り1人暮らしにしてはやたら大きなダイニングテーブルに腰掛け、その上に新聞と官製はがきを置いてみるものの、つい目が行ってしまうのはという文字だけだ。…いや、だからあかんて。気になるけど。くるっと手紙を180度回転させたらええだけなんやけど、あかんて。……いやだからあかんて。視界の外で、ばあちゃんが『もしもし、渡邊です』と電話を取る声が聞こえた。

『──ああ、やないの』

その一言に、思わずびくりと肩を震わせた。手紙覗き見しようと企んでしまったことがバレたのかと思わずにはいられないタイミングに、俺の心臓は心底驚いてしまったようだ。そこでようやく自分が感心出来ないことを仕出かそうとしていたことに気が付いてどう言い訳しようか身構えてみるけれど、ばあちゃんはちっとも俺のことを見ていない。むしろ受話器に耳を当て、どこか嬉しそうな顔をしていた。どうやら今のは電話相手への一言だったらしい。…………俺は一体何を血迷っていたのだろう。実にらしくない。溜息をついて、今度こそ天使の声に軍配を上げて、ぼんやりとばあちゃんの電話のやりとりを見守った。察するに、親しい相手からの電話らしい。

『…ああうん。今日も普通に買い物に行けたしなあ。………大丈夫やって。は心配性やんなあ』

どうやら話し相手はらしい。すぐにそのことに気が付くと、手紙を見てしまわないで良かったと胸を撫で下ろした。妙なタイミングの良さはなんなのだろう。実はどこかに隠しカメラが設置されて、彼女はどこかで俺を見ているのではないだろうかと思わずにはいられない。そんな俺の心情を知るよしもないばあちゃんは、孫との会話を楽しんでいるようだ。うんうんと相槌を打っている。…俺、もしかしておいとました方がええんと違う?そんなことを頭の端で考え始めた頃、とんでもない発言が飛び込んできた。

『それに途中で白石くんに会うてなあ、荷物持ってもろたんや。……うんそう、あの白石くん』

察するに、どうやらばあちゃんはに俺のことを話したことがあるらしい。なんて言われてとるのか気になるわあと思いつつ、しかし口を挟むわけにもいかないので黙って見守るしかない。…名前を出されてしまったことで、逆に「ほな帰るわ」とは言えなくなってしまった。あまり会話を聞かないようにと心がけ無意味に新聞の1面トップの見出しを見やるけれど、どうも耳はばあちゃん達の会話に集中してしまう。今まで話でしか聞いたことのなかったが今、目の前のばあちゃんと話している。それが妙にくすぐったくて、気になって、声を聞いてみたいような聞きたくないような、よく分からない気分にさせた。

『せや、も白石くんと話す?』
『えっ』

思いもよらなかったばあちゃんの発言に、うっかり驚きの声をあげてしまった。しまったと思う前に俺から反応があったことでばあちゃんはこちらに視線を向けて、『ええ子やねんで』とどちらに言っているのか分からない台詞を寄越してこちらにやって来る。…え。え。ほんまに?え、話すの?俺が?と?なんで?本当に、一体全体どんな会話をしていたのだろうこの2人は。そう思わずにはいられない。

『い、いいよ、おばあちゃん…っ!あの、そんな、白石くんも忙しいだろうし、あの…っ!』

受話器から漏れて聞こえてきた可愛らしい声は随分と困惑していて、きっとこの声の発信源では彼女はおろおろと慌てふためいているんだろうということが容易に想像出来てしまった。顔すら知らないはずの少女を連想してみたら思わず小さく笑ってしまったけれど、それは見逃して頂こう。きっと彼女は自分の声が俺にも聞こえているとは知らないんだろうし。ばあちゃんは最近耳が遠くなったと音量を上げた設定のまま通話をするから、少し耳を澄ませば会話は筒抜けになるのだ。

『ばあちゃん。お孫さん、めっちゃ困っとんで』
『ちゃうちゃう。は恥ずかしがり屋さんやから、照れとるだけよ』
『お、おばあちゃん!あの私、照れてるわけじゃなくて…っ!あのね、えっと…!』

また受話器から漏れて聞こえてきたの必死そうな声に、ばあちゃんと顔を合わせてまた笑ってしまった。という少女は恥ずかしがり屋なのか変なところで頑固なのか、まるで目の前にいるかのように必死になって否定してくるところが妙におかしく思えて仕方がない。しかしあまりに電話を拒否されると、それはそれで傷つくのだが。苦笑しながらも決してそれを悟られることのないよういつもの顔を貼り付けて、俺はあたかもなんでもありませんと言わんばかりな素振りを見せるしかない。

すると受話器越しに孫があまりに遠慮するので気が引けたのか、ばあちゃんも『ほんまにええのー?』とどこか残念そうに口を開く。そうしてまた距離を取ってしまったところから察するに、どうやら緊急テレフォンショッキングは中止になったらしい。まあ確かに突然何か会話しろと言われても話題がないし困るだけかと思い直して、相変わらず続いている電話に耳を傾けるばあちゃんの姿をじっと見たのち、ふと手元のはがきに視線を落としてみる。そこに相変わらず記載されているという名は、きっとのことに違いない。先程まで悪戯に中身を覗いてみたいと思っていたのが嘘のように晴れ晴れとした気分で丸い字を眺めていると、ふとばあちゃんに声を掛けられ顔を上げる。子機の話口に手で覆ったばあちゃんは、ふふっとどこか嬉しそうに笑って言った。

がな、府大会頑張って下さいって言うとるよ』

知っているけれど知らない奇妙な存在の彼女はまるで遠い国の人物のように他人事で、けれどある日突然ひょっこり顔を出してきそうな人間性を持ち合わせていたという少女が初めて現実世界の俺にメッセージを発した。その瞬間、ああ彼女は遠い国の人間でも空想の人物でもなく確かにそこに存在するのだと、実に当たり前で、けれど当たり前じゃなかったことを初めて実感したのだ。恋愛感情ではなく、けれど友情とも少し違う。他人だけど他人じゃない。知っているけれど知らない女の子。550キロも離れた東京に住む小さな少女の名は、あの日確かに俺の日常に刻まれた。そしておそらく彼女の日常にも、うっすらとではあるが俺の名前が存在し始めている。そんな気がした。


20120218 ヒロインなかなか出なくてすみません、でも白石サイドの話も書きたかったもので…!ちなみに白石は終始ばあちゃんばあちゃん連呼しておりますが、別に熟女趣味というわけではございません←