「MAKUBEX、Trick Or Treat!」
そう嬉しそうに言ってきた少女の瞳はキラキラとしていて、こちらも何故だか嬉しくなる。
だけどすぐにその言葉に違和感を覚えた。
つい数時間前に、ハロウィンは終っているのだ。
君への想いと共に
、ハロウィンはもう終ったよ、と。
目の前の彼女の満面の笑顔を前にしては、そんな簡単な一言も言えない僕は。
相変わらず笑顔を向けてくる少女に、ただただ視線を送っていた。
それを“僕がハロウィンという行事を知らない”という意味でとったらしい。
ああ、ハロウィンって言うのはね…、とぎこちなく説明し始めた。
ここはあえて何も言わずに、の言葉を聞こうと思う。
「MAKUBEX、ハロウィンって言うのはね?
日頃子供達が大人達に感じている不平・不満…つまり怒りをぶつける日なの。
だから子供は夜な夜な家を回ってね、“日頃の恨み!”って言って、強奪を繰り返すんだ。
それで大人達は、“いつものいい子に戻っておくれ!”って願いを込めてお菓子を貢ぐ行事なんだよ。
分かった?」
…なんだか尻尾を振っている犬に見える。
良く出来ました、と褒められたい。
そんな犬。
まぁそれは冗談として、自信満々に言ってくるところから見て、おそらくこれは本気で言っていることなのだろう。
思わず、溜息が出た。
それをは見逃さず、良く分からなかった?と聞いてくる。
「えっと…。それは一体誰に聞いたの?」
おそらく笑師あたりかな。
そんな予想を持って、彼女の返答を待つ。
「なっ何を言ってるのかなMAKUBEXくんはっ!」
「…それさ…誰かに聞いたんでしょ?誰?」
は素直で人懐っこい。
それが魅力のひとつでもあるのだけれど、人の言うことをすぐに真に受けてしまうのだ。
そして笑師あたりが面白がって、よくガセネタを教え込まれてしまう。
今回もそれだろう。
必死に誤魔化そうとているのも証拠のひとつだったりする。
彼女は、また騙されたと恥ずかしかる。
だから、こうしてあやふやにしてしまおうと思うらしい。
僕からしてみれば、騙されたということよりも自分でそう思っていたということにしておいたほうがいい、というのもどうかと思うが。
しかしいっこうに口を割ろうとしない。
どうやら今回は結構恥ずかしかったらしい。
もう詳しく追求するのは諦めて、正しい答えを教えてあげることにした。
「ハロウィンっていうのは、カトリックの万聖節の前夜祭で、英語圏の伝統行事だよ。
ケルト人の収穫感謝祭がカトリックに取り入れられたものとされててね。
ケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていたんだ。
それでこれらから身を守る為に仮面を被って、魔除けの焚き火を焚いていたんだ。
あ、家族の墓地にお参りして、そこでローソクをつけるという地方もあるよ。
墓地全体が、大きなランタンのように明々と輝いて…あ、日本のお盆の迎え火とか送り火にも似ているかもしれないね。
ただ、これに合わせて欧米では、放火事件などが頻発する…。
だから、31日の夜、カブをくりぬいた中にローソクを立てて“ジャック・オー・ランタン”っていうお化けカブを作って、魔女やお化けに仮装した子供達が『Trick or treat』…つまり『お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ』って唱えて近くの家を1軒ず」
「あ──っストップ、ストップ!」
「もう、難しいこと一気に言わないでよー!間違ってたっていうのは分かったからぁっ!」
難しい……か…な…?
そもそもケルト人て何者?とか聞いてくるし。
「とにかくtrick or treatなの!というわけで、はいMAKUBEX!リピートアフタミー!」
「え?何?いきなり…。」
「いいからぁ!リピートアフタミー!」
「あ……と…trick or…treat…?」
もうハロウィン過ぎてるんだけどな…と内心思いながらもそう言ったなら、はぱあっと顔が明るくなって。
彼女の後ろにずっと隠していたのだろう白い箱を目の前に置いた。
僕はいきなり現れた謎の物体にきょとんと凝視し。
しばらく眺めていたが、また彼女のほうに視線を移した。
それに気付いたは、遠慮しがちに、開けてみて、と小さく呟くように言ったから。
不思議に思いながらも、僕は言われるがままソレに手を伸ばす。
様子から察するに、開けた瞬間びっくり人形が飛び出してくるとか、そんな類のものじゃないらしい。
なんなんだろうと疑問に思いつつ、箱を開けると。
姿を現したのは、大きなショートケーキだった。
買ってきたにしては不安定な形。
でも一生懸命さが伝わってくる。
おそらく手作りなのだろう。
これ…と口を開くと、は恥ずかしそうに、言った。
「朔羅に教わって作ってみたんだっでも初めてだったからなんか形がぎこちないんだけどっ。」
つまり、が作ってくれたらしい。
僕はなにも口を挟まず、ただじっと彼女を見ていた。
「欲しいものとか分からなかったし!でも何もしないのはなんか嫌だったからっ!──MAKUBEX!」
──お誕生日おめでとう。
そう言われて、初めて気がついた。
今日は11月1日。
僕の、誕生日だ。
この無限城で誕生日なんて、そんなのあってないようなものだから。
ベイトラインの攻撃に、手を焼いていたものだから。
ここ最近システムの設計で忙しかったものだから。
すっかり忘れていたけれど。
多分同様の理由からほかのみんなも、今日のことなんて、すっかり記憶の彼方だろうに。
それでも君は忘れないでいてくれたの?
「──MAKUBEX?」
不安そうに僕の名を呼んだ少女は、その声色と同じ表情で覗き込んでいる。
不安が隠し切れないその瞳をじっと見たのち、またケーキに視線を落とす。
そしてポツリと呟いた。
「………これ…が作ってくれたの?」
そう聞くと、は返事をする代わりに、遠慮しがちにコクリと頷いて答えてくれた。
「あっもしかして気持ち悪い!?今時手作りなんて気持ち悪い!?だったら無理に食べなくて良いからねっ?」
意味を取り違えて、慌ててそう言ってきたに、思わず笑みがこぼれる。
すると彼女は、何を笑っているんだとでも言いたげな視線に変わった。
「や…ごめん。そうじゃなくてさ。…こういうの…初めてだから。誕生日を、こんな風に祝ってくれるのって…。」
だから、どう反応したらいいのか分からなかったんだ。
でもただただ純粋に、嬉しいと、心から思うよ。
自分はバーチャルなんじゃないかってずっと悩んでいたけれど。
こうやって君が。
僕がここにいること、喜んでくれたから。
だから、バーチャルだとかなんだとか、そんなもの関係ないじゃないかって思ってしまうくらい。
すごくすごく嬉しいんだよ。
「…………………ありがとう。」
そう言ったならは、僕が大好きな笑顔で返してくれた。
そしたら顔が熱くなってきたから、多分赤くなっていたのはすぐに分かってしまうことだろう。
誤魔化す意味もあって、僕は再度ケーキに目を向けた。
「しかし…大きいねこれ…ワンホール?」
しかも特大級の。
店で売っていたらそれこそすごい値段になっただろう。
の気持ちは嬉しいけれど、いくらなんでも、こんなには食べきれないよ。
それにしても、一体何人分あるんだろうか…。
軽く10人分はあるのかなぁ…。
「じゃあ、みんなで食べよう?」
「え?」
「朔羅、色々作ってくれてるし!
あと笑師や十兵衛もね、今日こそMAKUBEXを笑わすんだ!って言って、いつもにまして意気込んでたよ。」
「…それは遠慮したいプレゼントだね。」
「あはは確かに。」
──でも、ちゃんと受け取るんだよ?皆MAKUBEXのことお祝いしたくてしてくれてるんだから。ね?
そう言って、また笑顔を向けた君。
てっきりみんな忘れていたとばかり思っていたから、これは意外な出来事で、もちろん喜ばしいことなんだけれど。
でも朔羅達には悪いけど、正直なところ、出来れば二人で過ごしたいな。
…なんてことは当然口にすることは出来ず、心の内にしまいこんだ。
「……………というわけで、MAKUBEX。」
ごそごそとポケットから何かを取り出そうとしている。
しかし僕は一切その素振りに気づくことが出来なかったのだ。
だから勿論。
パンパンパ──ンッ!
──クラッカー攻撃されるなんて微塵にも思わなかったわけで。
お陰で一瞬思考回路が麻痺し、いきなりの出来事に、うわぁ!となんとも間抜けな声を上げてしまった。
はそれがおかしそうに笑っている。
思いを寄せている子の目の前でこんな間抜けな姿を見せてしまった!と、しばしショックを受けると同時に、心臓に悪いことをいきなりするなと実行犯に何か言おうとしたけれど。
そのクラッカーの音が、明らかに1人の人物だけでは成すことの出来ない程の音量だったと気付いた。
しかも音源がからだけではない。
不思議なことに、背中を向けている入り口のほうからもするのだ。
無意識に後ろを振り返ると同時に、複数の声が耳に入ってきた。
それは──…。
──お誕生日おめでとう、MAKUBEX!
と、僕の誕生日を祝う、みんなの声だった。
コアメンバーが先程の原因となったものであろうクラッカーを手に、にこやかに立っていたのだ。
「遅れてしまって申し訳ありません、MAKUBEX。」
と、すまさそうに言ったのは朔羅。
そしてすぐにその弟である十兵衛が、
「昨日はベイトラインが攻めてきて、それどころではなったからな。」
と言ってフォローにでてきた。
確かに十兵衛の言うとおり、昨日未明、ベイトラインの奴らがこのロウアータウンに攻めてきたのだ。
これはいつものことだけれど、早朝ということもあって、連携に戸惑って苦戦し。
結局昨日丸々1日かかってベイトラインの攻撃を食い止めたのだった。
それで、このままではいつ侵略されてもおかしくない、もっと完璧な防御プログラムを作らなければと判断し、ついさっきまで、その補強プラグラムの製作に追われていたのだった。
そんなあまりの忙しさに、自分の誕生日なんてすっかり忘れてしまっていた、というわけだ。
それはきっと他のメンバーも同じで、しかもまだ疲れが取れていないだろうから、今日は皆休息するのだろうと思っていたのに…。
暫しの間感銘を受けていることに幸いにも気付かなかったらしいは、早速ケーキを切ろうと、危なっかしい手つきで切り始めた。
あまりに不安定に包丁を使うものだから、見ているこっちがハラハラする。
朔羅から、代わろうかと言われているが、あえてそれを断って自力でどうにかしようと奮闘している。
僕は苦笑いしながら、少し離れたところからその様子を見ていると、いつのまに隣にきたのか、笑師がひょこりと声をかけてきた。
「MAKUBEX、どうやった?ワイらからもプレゼントは?」
「え?」
プレゼント?
何かもらったかな…?
漫才もやっていなかったし、何を意味するのかが分からない。
すると笑師は、ほらほら、と意味深にある少女へと視線を向けた。
不思議に思ってその視線の先を追いかけると、そこには朔羅に手伝ってもらいながらも一生懸命にケーキを切り分けているの姿があった。
「2人きりになったやろー?ちょっとええ感じになったんちゃうの?」
「!?えみ」
「MAKUBEX──っ!ケーキ切れたよー!」
「!?」
本人の声に、びくりと反応していると笑師は、ほな邪魔者は退散するわ、とかなんとか言って、朔羅達の方へ去っていった。
全く、知っていたなら知っていたらで、もうすこし気を使って欲しいものだと思う。
どうせならずっと2人きりにしておいてくれよ、と今となっては叶わない願いを抱いた。
それに、なんだか面白がられている気がする。
いや、“気がする”んじゃない。
実際、“面白がっている”んだ、笑師は。
笑師の後ろ姿を見送りながら、そんなことを思った。
そして笑師が去っていったのと同時に、すれ違いとなってが取り分けたケーキを持って小走りにこちらへやってきた。
「はい!一番大きいやつねー。…味の保証はできないけど、でも朔羅に見てもらいながらやったから、おいしいと思うからっ!」
はい、とケーキを渡して、僕の浮かない表情をしていたのに気付いたからなのだろう。
きょとんと、どうしたの?と尋ねてきた。
そんな理由なんて真面目に答えられないから、なんでもないよと誤魔化して。
渡されたケーキに手をつけた。
生クリームは少し甘くて。
でも今の僕には、それくらいがちょうどいい。
は不安そうに覗いている。
だから僕は、素直な感想を君に伝えるんだ。
そして、喜んでくれるかどうかは分からないけれど。
ずっと暖め続けてきた君への想いも、一緒にプレゼントすることにしよう。
MAKUBEXの誕生日…11月11日じゃなかったんですか!?1日!?何それ初耳だよっ!
普通に過ぎてるじゃないですか!スオミ、今さっき初めて知りましたよ!
えっと…とりあえず、誕生日おめでとうMAKUBEXくんっ!(汗)
ハロウィンの説明は、ウィキペディア百科事典より語尾等を変えて拝借。
もともとはカボチャじゃなくてカブだったんですって奥さん。
どうでもいいですが、ヒロインが言ってたハロウィン説明は、スオミが本気で思ってたことです。
調べたら全然違っててびっくりしました。(当然やがな。)
up日:2006.11.06