今は、夏。
貴方と出逢ったのも、夏だった。
だからといって、別に燃えるような恋をしたわけでもなく、また、冷静な大人の恋でもなかった。
だから、貴方のどこをすきになったのと、よく人は聞く。
でも、そんなのに理由はない。
ただただ直感的に、この人と一緒にいたいって、そう思っただけなの。











真夏の光線















「まだ夏だねー…。」
ここ、HONKY TONKで暑い暑いとダレながら、銀次くんが呟いた。

それもそのはず。
今はもう9月のはずなのに、今日はまだ夏の余韻を残しているらしく、30℃を越えるという猛暑なのである。
それによってやる気が失せたのか何なのか、このHONKY TONKでは毎度お馴染みの奪還屋2名が涼んでいた。
彼らは常日頃から、飯にありつくために依頼探しを必死にやっている──と言っても、いつも空振りで終わる──けれど、今日はその素振りの欠片さえ見せず、クーラーのきいた店内でゆっくりとアイスコーヒーを飲んでいるのだ。
よって。
「依頼探しはいいの?」
いつもはこの時間帯だとしてるのに、と付け足して言ったなら、その奪還屋の蛮が何を言っているとでもいうような顔で言った。
「馬鹿か。こんな暑い日にそんなのやる気になるか。熱中症になるのがオチだ。」
そんくらいの覚悟で仕事やんなよとツッコミたくなった。

そんな私達の様子をずっと見ていた、この喫茶店のマスター・波児さん。
ぽつりと呟くように、言った。

「一回聞いてみたかったんだけど、ちゃんはどうしてこんな奴好きになっちゃったの?」
蛮をちらりと見て波児さんが言ったのに対し、こんな奴とはなんだ、と蛮から抗議の野次が飛ぶ。
が、私は勿論波児さんはそれを無視し。
私は1人、腕を組んでうーんと考え始める。

そうなのだ。
こーんなよく分からない態度の私達だけれど、実は恋人関係だったりする。
かれこれ付き合いは1年くらい…?になる。
蛮と以前一緒に仕事を組んでいたと言う卑弥呼ちゃんは、『えっあの自己中男に付き合える女がこの世に存在したの!?』と心底驚かれた経験がある。

ま、それはともかく。
あまりに考え込んでいるからか、波児さんに『こんな奴』と評された蛮は自ら例を挙げた。

「あるだろいろいろ?例えば『かっこいいから』、とか、『無敵だから』とか。」
普通、そういうの自分で言うか?と思ったけど、あえてそれをツっこまずに波児さんとの会話を続けようと思う。
「自分でもねぇ、よく分からないんですよ、波児さん。」
「そうかそうか、ちょっと魔が差しちゃったんだねちゃん。
ずっと思っていたんだけど、蛮なんかに君みたいな子は本当に勿体無いよ。もっと素敵な人を見つけるべきだよ。
大学とかにいないの?そういう人…。」
「何言ってんのさ波児さん!?ちゃん、蛮ちゃんをよく見て!もっと考えてみて!」
ずいっとその本人を目の前に持って来る銀次くん。
その様子はかなり必死だ。
後で相方に八つ当たりされるとでも思っているのだろうか。
まぁこのままだど高確率でそうなるだろうけど。

「でもさぁ銀次くん、蛮の第一印象って最悪だったんだよ?」
「なになに?ふたり、どうやって出逢ったんですか?」
年頃なのか、興味津々に食いついてきたのはアルバイトの夏実ちゃん。
別に夏実ちゃんが求めているような話じゃないよって言っても、それでも聞かせてくれと返してくる。
最近の女子高生はおませさんらしい。
あまり乗り気ではないが、ここまでせがまれたら断るのも忍びない。
そこで彼女のご希望通り、詳細を語り始めることにした。

「ちょうど去年のね、今日みたいな暑い日だったなー…。」

うんうん、と相槌を打ちながら相変わらず興味津々な様子で聞き入る夏実ちゃん、とプラス銀次くん。
波児さんも不思議そうに聞いていた。
当の本人である蛮は、少々居心地悪そうにしていた。
だけど私はそんなこと気にも留めずに、たんたんと話を進める。

──そのとき、私はまだ高校生で、引退試合…あ、私高校時代テニス部だったのね。
で、その帰りでずっごく疲れてて、プラス今年最高気温と言わるほどの猛暑でクタクタだったの。
「(暑い、喉渇いた…なんか飲もう。)」
そう自然と思考が働いたのね。
部活でペットボトル飲み干しちゃったから、飲み物もってなくって。
目の前に自動販売機を見つけたから、早速と思って小銭を出したの。

チャリーン。

「あ。」

手を滑らせちゃって、100円玉がアスファルトを転がってね。
拾おうと手を伸ばしたとき、私よりも、もの凄い勢いで先に手にした人がいたの──。

「ま、それが誰とはあえて言わないけどね。
しかしどうよこの出逢い方?正直第一印象は『なにこの金にガメツイ男は』って感じだったな。」
ずず、とストローの音を響かせ、アイスコーヒーを飲み干した。
夏実ちゃんは、なんとコメントしたら言いのか困っている表情を見せている。
思ったとおりのリアクションだ。
ごめんね、『運命』の『う』の字もない出逢い方で。

「本当にさ、ちゃん…こんなこと聞くのもどうかと思うけど…。
そんな出逢い方したのに、なんでこんなやつの彼女やろうなんて思ったの?」
「だからこんな奴言うな波児!」
段々イラついてきたのかなんなのか、蛮は荒っぽくカウンター席を叩いたためにダン!と大きな音が生じた。

しかし……。
「本当、なんでなんだろう…。」
「おい。」
「冗談だよ。ちょっと笑えないアメリカンジョーク。」
「笑えなすぎだろ。」
そういうと蛮は、チッと舌打ちをして、煙草に火をつけた。
前から思ってたんだけどさ、蛮ってまだ18なんだよね?
未成年なんだよね?
早死にするよ?

と思っても、蛮が煙草を吸うのは、大抵イラついてるときとか、気を紛らわせたいとき。
そしてそれが今である。
流石にフォローに回んなきゃまずいかな。

「確かに波児さんの言うとおり、すぐ調子に乗るし口は悪いし無駄にプライド高いし我侭だし短気だし金遣い荒いし…。」
ちゃん?誰もそんなこと一言も言ってないよ?」
ガタガタと震え、注意をしたのは、言わずとも分かるが銀次くんだ。
心なしか、顔が青い。

「だけど…そういう不器用なところから垣間見る、優しいところに惹かれたのかな。」

頬杖をつきながらぼんやりとそう答えてから、隣にいる蛮の顔を覗き込み、
「…というわけで、機嫌直りました?蛮くん?」
と言ってみると、案の定不愉快そうな顔をしてぽつりと話しかけてきた。

「…お前さ…。」
「うん?」

「面白がってたろ。」
「なんのこと?」

にっこり笑顔で返答してみると、蛮は、やっぱりそうなのかというような顔をして。

「あーあ。前行きたがってたから海にでも連れっててやろうかと思ったけど、やっぱやめとくかなー…。」
「えっ嘘!行きたい!海行きたい!行こうよ行こうよーっ。」
確かに蛮の言うとおり、私は以前、『海見たいなー…』と、それとなく言った。
大分前のことだったのに、それを覚えていてくれていたらしい。
それが凄く嬉しくて、子供のように駄々をこねて、彼の腕を引っ張る私。
見事に立場逆転である。

「そーんなに頼むんならしょうがねぇ、この蛮様が連れてってやろうじゃねぇか。」
本当は蛮も海行きたいだけなんじゃないの?という言葉は飲み込んで、素直に彼の返答を喜んだ。
変なことを言ってやっぱりやめたと言われたくなかったから。
かなりの気分屋だしね、蛮って。

「てんとう虫くん久しぶりー。うーれしーいなー♪…て、ガソリンちゃんと入ってるよね?途中でガス欠とかならないよね?」
普通ならありえない状況だけれど、蛮なら十分にありえる。
一応聞いておくに越したことは無い。
「お前の中の俺って、どんだけ貧乏キャラなんだよ。」
だって事実貧乏じゃん。

前に、「てんとう虫くんがさらわれて金欠なんだ!まともに食べてないんだマジやべぇSOS!(※訳:またレッカー移動くらって金が無い。なんか食いもんもってこい。)」とか言ってきたからおばあちゃん家から送ってきてもらった野菜をおすそ分けしたのに、「フライパンもないから調理方法が無い。お前作れ。」とか言ってくるし。
持って来てもらっただけありがたく思え?ってムカついたけど。
そもそも一週間ほど前にもレッカー移動されたばかりなんだから、学習しろよって思う。
まぁそれはともかく、長年の付き合いだ。
予想だにしなかった(バッド)ミラクルを起こす男・それが美堂蛮だってことぐらい百も承知している。
そして卑弥呼ちゃんの言うとおり、それに付き合いきれる女も私くらいだってことも。

「ほんじゃあ、ちょっくら行ってくるぜ皆の衆ー。銀次、お前は依頼探ししとけ。」
「え──っ!俺1人で!?ずるいよ蛮ちゃん!さっき『夏バテになるだけだ、そんなのやるか』って言ってたじゃん!」
その通りだよね銀次くん。
しかし次の瞬間には、彼は古典的に電球がピカン!と点いたようにひらめいたらしい。
「蛮ちゃんてば、ちゃんとふたりっきりで行きたいなら素直にそう言えば良いのに」
「銀次、お前死ぬ気で依頼見つけてこいよ?」
そうじゃなきゃ、お前は当分飯抜きだ、とズバリと相方にペナルティ付きの難題を押し付ける蛮。
銀次くんは過酷な任務を1人課せられ、ぴしりと石のように固まった。
普段2人でやっていてもなかなか見つからない依頼人をただ彼1人で探すなんて絶対に不可能だ。
しかしこれは蛮流の照れ隠しらしい。
「あれあれ?蛮くんは実はシャイボーイ?」
なんだか可愛くておかしくて、思わずからかいたくなった私。
「うるせえ。もう行くぞ。」
そう言うと蛮はそっぽを向いてとっととドアの方へ向かって行く。
当然ながら、置いていかれないように私も後に続く。

「銀次くん!お土産に貝殻持って帰ってきてあげるからねーっ!」
そう言って、HONKY TONKを後にした。


「波児さん、何だかんだ言っても、2人は相思相愛でお似合いなんだね。」
良かった良かった。
と、銀次くんが嬉しそうにそう言っていたと聞いたのは、もう少し経った日のことだった。




『燃えるような恋じゃない』とか言ってますが、プロローグを見る限り、内心は結構燃えてるのね、主人公?
最近スオミの中で一気に蛮ちゃんが急上昇↑してきたきたので蛮ちゃん夢に初挑戦してみました。
が、何度でも言いますが、スオミは花月一筋ですよ?(ここだけは何が何でも譲れないらしい。)
2000hitありがとうございました!(*^_^*)
※配布期間は終了しました。