これは、俺の錯覚か?

ここは間違いなく少年王・MAKUBEXの部屋。
ロウアータウンの住民の為に、一日でも早いプログラムの完成を急いでいるのだ。
よって、ここに“奴”がいるはずがない。
…のはずなのに、やはり“奴”の気配がする。











猫の真実。












    


「見回りお疲れ様です。十兵衛さん!」
「…何故お前がここにいる。」

やはり勘違いではなかったらしい。
無限城とは思わせないような明るい俺の名を呼んだのが、先程言っていた“奴”の正体だ。
いつもは見回りをしているとどこからかやってくるのに今日はそれがないとは思っていたのだが、まさか待ち伏せされていようとは…。
別に誰かの知り合いでも、ましてや新生VOLTSのコアメンバーでもないはずなのに、まるで我が部屋の如くくつろいでいるこいつは。
呑気に茶などを味わっていた。
一体ここで何しているのだお前はと言おうとしたそのとき──。

「駄目だよ十兵衛、女性にそんな口の聞き方しちゃ。」

その隣から聞こえてきたのは、幼馴染でもあり、また親友でもある花月の声だった。
どうやら遊びに来たらしい。
花月は無限城を出て行ったが、時々こうしてやって来て様子を見に来るから、ここにいるのはなんら不思議なことではないことなのだ。
…そう、奴とまったり茶を楽しんでいること意外は。

「花月…お前はなぜゆえこいつと共に茶を飲んでいるのだ…?」
隣で茶を飲んでいるであろう者をちらりと見ながら言った。
「“こいつ”じゃないです!ですよー!いい加減名前で呼んでくださいよー!」
「そうだよ十兵衛、失礼だよ。ねぇ。」
…お前ら今日知り合ったんじゃなかったのか?いつのまに名前で呼ぶ仲に…。
「あら十兵衛さん、ジェラシー?」
「誰がだ。その前に人の心を読むな。」

「大丈夫ですよ十兵衛さん。いつものように、十兵衛さんを捜していましたら、たまたまばったり花月さんとお会いしまして。
そしたら十兵衛さんの親友さんだって言うじゃないですか。
このチャンスを逃したら二度とここに入れないなと思いまして、そうした次第です。
だから花月さんとこうしてお茶飲んでるのは偶然なんですよ!は十兵衛さん一筋ですから、焼餅焼かないで下さいね?」
誰が誰に何を焼くと言ったこの女は。
自信過剰なのかなんなのか。
「だったら茶が済んだらとっとと帰れ。それに、まだここは不安定だ。」
そして早く静かなときをもたらしてくれ。
そう心で願っていた。
が。

「悪いけど、それは出来ないよ。十兵衛。」

部屋の主・MAKUBEXが、釘をさす。
それは『帰れ』と言ったことに関してなのか、それとも心の内でそっと切願していたことに対してなのか…。
どちらにしても理由が分からない。
MAKUBEXだって、自分の部屋でちゃっかりお茶会などを開かれ騒がれているのだ。
それにもかかわらずお開きにさせることはできないとは…?
不思議に思ってその理由を問うと。

「彼女、パソコンが出来てね。さっきまでプログラムの構成を手伝ってもらってたんだ。
そういう人、無限城では珍しいからね、だからこれからも手伝ってもらうことになったんだ。」













……………………………………………………パソコン…。














ちらりと奴のほうに顔を向けると、勝ち誇ったようなオーラが流れてくる。
成る程、いつもに増して上機嫌だったわけか…。
人には意外な特技というものがあるものだな…。
しかし、これでは俺の……。

「はい!十兵衛さんもお茶どうぞ♥ あっお疲れでしょう?ここお座りになってください!」
「あ、ああ。すまない…て俺が言いたいのはそういうことではない!」
「すごいや十兵衛。ノリツッコミを覚えたんだね。」
心底感心したように花月が言う。
そして“奴”は、ああそうだ、と思い出したように親友に話しかけた。

「そうそう花月さん、聞いてくださいよー。
この間十兵衛さんのお誕生日だったから、『の無限大の愛をあげます!』って言ったのに、『そんなものはいらん』の一点張りだったんですよー。なんでもいいって言ってくれてたのにー。」
「ああ…大丈夫だよ、十兵衛はちょっと人より照れ屋なだけだから。でも内心は嬉しかったんだと思うよ?」

何さりげなく恋の相談室をしているんだこの二人は。
しかもその張本人が目の前にいるにも関わらず…その前に何故お前もまじめに答えているのだ花月?
そして人の心を勝手に推測して作らないでくれ。
MAKUBEXも、作業もせずただ喋りに喋っている奴を放っておいていいのか?(しかも自分の部屋なのに。)
早くプログラムを完成させたほうがいいのではないか?
それとも休憩中なだけなのか?
少年王はカタカタと作業をしている。
一切こちらには干渉してこない。
…と、思いきや、ふと何かを思い出したのか、顔をこちらに向けて言った。

「ああ、そうだ。お兄さんは元気?最近全然見かけないんだけど…。」
…兄?
「うん元気だよー。最近は写真?にハマってるらしくて、時々無限上の外に撮りに行ってるみたいだけど。」
ロウアータウンの少年王にタメ口か?
それはともかく、どうやらこいつにはMAKUBEXと顔見知りの兄がいるらしい。
てっきり一人っ子かと思っていたものだから、意外な事実だった。

「何だ、兄弟がいたのか?」
と言ったなら花月は、何を言っていると言わんばかりの視線を浴びせて。
「え?何を言っているんだい、十兵衛。は…。」




「俺の妹だよ、十兵衛。」

鏡形而…謎に包まれた『上』の唯一の出身…。
一見して、ホストにしか見えない。
その鏡が『俺の妹』だと言う。
ということは、『俺の妹』=『鏡の妹』=『』ということになるわけだが、そんなことは初耳だ。
「…お前……姓(かばね)は“鏡”だったのか…?」

そう言ったなら、きょとんとした空気が流れ、みなの視線が俺に集まった。
それからしばらく誰も何も言わなかったが、少しして花月の細々をした小さな声が聞こえ始めた。

、もしかして十兵衛に言ってなかったの?」
「だって言ったら“鏡”って呼びそうじゃないですか。
は十兵衛さんに名前で呼んで欲しかったので、名前だけしか名乗ってませんでした。」
「ああ、その判断は正しいけれど、照れ屋だからね十兵衛は。」

なにやらこそこそと意味不明なことを言っているが、どうやら本当らしい。
ということは…。

「鏡。」
「どっちの?」
「お前の妹は自己防衛出来るほどの力は持っているのか?」
「ああ俺の方だったのか…。そりゃあるよ。上じゃちょっとした有名人なくらいにね。」
なんてったって、俺の妹だからね、と。
そう付け足された気がしなくもないが、無視して“例”の真意を確かめようと思う。

「鏡妹。」
「なんですか筧弟さん。」

「貴様が俺と初めて会ったのは、確か輩に襲われていたときに俺が助けたとかどうとか言っていたな。」
「そのとき一目惚れしたとも言いました。」

「お前、もしかして、俺が助けずとも自分でどうにか出来たんじゃないのか?」
「はい。あれくらいの奴なんて朝飯前通り過ぎて洗顔前ですよ?」
わけが分からない例えだが、とりあえずは肯定な返答なわけか。
「じゃあなんでそうしなかったんだ?」
「だってその日の星占いで、『ピンチを助けてくれるのは運命の人!』って言ってたんですもーん。でもその通りでしたね!」

………………………そんな理由でか……?

そもそもそのときの俺は何を見ていたのだろう…。
確かに雰囲気からはとても戦闘能力に長けているなどとは思えないが、それに左右されてしまうなど武士としてどうなのだ?
放っておけば、今頃はきっと、『本当に平凡な日々』を送っていたに違いないのに…!
がくっと肩を下ろし、しばし落胆。

そんな俺に気付き、まぁまぁ十兵衛、と言って、ぽんっと肩を叩いたのは鏡兄だった。

、ちょっと前まではさ、人前に出るのが嫌だって言って…あんな積極的じゃなかったからね。
十兵衛と出会ってからだよ、が変わったのって。だから君にはさ、感謝してるんだよ?」
…そうだったのか。
それならそうと言えば少しは…。
その…あれだ、俺は今までひどい態度を…。
「だから、もう少しでもいいから優しくしてやってよ、義兄さん♪」
誰がだ!!!
「あ、ひどいなぁ全否定しなくてもいいじゃないか。」
ははは、と笑ってからかっている様子はまさに鏡妹とそっくりだ。
どうして今まで気がつかなかなかったのだろう!?
しかも俺以外の連中は知っていた、もしくは気づいていたのに…。(今日知り合っていた花月でさえも…。)

「まぁそんなわけで、これからも一緒にいられますね!十兵衛さん!」

そう嬉しそうな声で言ってきた猫は、俺の心中など当然知る由も無く、『そんなわけで』での一言で片付けられてしまった。
この猫がいる限り、俺の平穏な日々はほど遠いらしい。
…しばらくは騒がしい日々を送りそうだ。



貴方キョーくんの妹さんだったんですか…失礼しました!!(>□<;)ゞ
本当はこのシリーズ気に入ってるんで連載始めようと思ってたんですけどね…ちなみにタイトルは『十兵衛くんとゆかいな(?)仲間達』とかそんな感じで。(ふざけすぎ)
十兵衛って真面目だからイジりがいあるんですよねー…。ああ、あと雨流なんかもそうですね。(酷)
up日:2006.10.19