最近、何故か俺の周りをうろつく猫がいる。
理由は分からないが、毎日毎日、事あるごとに寄って来るのだ。
「十兵衛さーん!こんにちはーっ!」
ほらまた来た…。
気まぐれ猫の告白。
「………………何の用だ…。」
こいつはずっとこの調子で、なぜか理由も無く声を掛けてくる。
俺はげんなりとした口調で一応聞いてみた。
まぁ、こんなことを聞いても全く意味を成さないのだが。
何故なら…。
「十兵衛さんに会いたくなってしまいまして。」
こいつはいつもこの返答しかしないからだ。
「俺は会いたくは無かった。よって失礼する。」
こいつといるとろくなことが無い。
ぐるっと反対方向へと進もうとするも、それをさせまいと腕を引っ張られた。
「は会いたかったんです!減るもんじゃないし良いじゃないですか!
それに今日は真面目にお聞きしたいことがあったんです!」
…いつからこんな日が始まったのか、まはや記憶の彼方だ。
気が付いたらひょこひょことやってきて、いつのまにか今のような状況になる。
悲しいことに、これが日常茶飯事なのだ。
しかし姉者は俺をからかうのが趣味と化しているを気に入っているらしく、少し前に「実は妹が欲しかった」宣言をされると
いうとんでもないことがあった。
その場にこいつがいなかったのが唯一の救いだと心から思う。
いたらきっと冗談口調でからかって来たに違いない。
…一応俺はこいつより年上のはずなんだが…。
「十兵衛さーん?意識が飛んじゃってますよ?」
大丈夫ですかー?と、肩を叩きながら言ってくる。
その原因が貴様だとは知らずにぬけぬけと…。
「ずっと思っていたんだが…。」
「はい?」
「真面目に答えろよ。」
「頑張りまーす。」
念のため釘をさすも、やはりそれは無意味で、言ってる側から真面目の「ま」の字も見えない。
が、いちいちそんなことをこいつに言ってたら会話が進まないので無視したが。
「何故貴様はいちいち俺に構うんだ?」
「え…?」
どうしてそんなことを聞くのか、とでも言うような声。
「…………言わせるんですか?」
「質問しているのはこっちだ。貴様にあるのは解答権のみ。」
「…いや、にだって、心の準備と言うものがですね…。」
「貴様の都合など俺には関係ない。話せ。」
先程までの勢いは何処へ行ったと言いたくなる程の態度の変化。
何だと言うんだ、一体。
奴は暫く何も言わず、長い沈黙の末…小さくポツリと呟いた。
「……………じゅ…。」
「“じゅ”?」
意味の分からぬ返答に、思わず聞き返す。
取り合えず、今は続きを待つしかなす術が無い。が。
「十兵衛さんの女たらし──!!!」
「!?」
女たらしとは…俺!?俺のことを言っているか、もしかして!?
上出身の某ホストならともかく、なぜ自分が女たらし呼ばわりされなければならないのかと疑問に思う隙さえも与えず、奴は続
ける。
「普通気付くでしょ!?気付くよね!?それともそれ本気で言ってるんですか!?」
「…な、なにがだ…。」
「が十兵衛さんに事ある毎にちょっかい出すの、“ただ暇だから”とか“からかいに来た”とかそんな理由だと思ってる
んですかって聞いてるんです!!」
「ち…違うのか…?」
「そんなわけ無いでしょ馬鹿ーっ!
そんな理由だったら笑師さんとかのほうがよっぽどからかいがいがあって面白いに決まってるじゃないですか!!」
「………。」
どうせ俺は冗談が通じない面白くない男だよ。
「そもそもっ!十兵衛さんはもっと乙女心を知るべきです!!
ずっと思ってたんですけど、“貴様”とか見下すような言い方、正直ちょっとムカついてました!!」
……………言い返す隙さえな
「第一っ!ずっとずっとず──っと付きまとっててウザかったかもしれないけど、一度くらい名前で呼んでくれてもいいと思います!!」
そういえば。
俺はこいつを名で呼んだことが無い。
いつも“お前”とか“貴様”とかで呼んでいたということに、今更ながら気が付かされた。
しかし…。
「気を悪くしたなら謝るが、そこまで怒りをあらわにせずとも…。」
「怒りたくもなりますよ!当たり前じゃないですか!!」
「…な…何故だ…?」
こいつの中では筋が通っているらしい話も、俺にはさっぱり分からない。
「好きだからに決まってるじゃないですか!!」
「……は…?」
「十兵衛さんは覚えてないかもしれないけど!
雷帝がいたVOLTS時代のときに、輩に襲われそうになったを助けてくれたんですよ!
そのときは一目惚れしたんです!ずっと好きだったんです!そ…それなのに…!」
これは…風向きが怪しく…。
この雰囲気は…まさか…。
「それなのに“貴様”とか…には“”って名前があるのに…十兵衛さん一度も…。
それに…驚いたからって、“は?”だとか…そんな…ありえないみたいな反応し、しなくても…い…いいじゃ…な…。」
な…ま…まさか…やっぱり…泣いている!?
そして泣かせたのは俺か!?俺なのか!?
「ちょ…ちょっと持て、その…な、泣くな「泣かしてんのは何処の誰ですか!?」
それは俺なのだが。
「…すまん…。」
ここは謝っておくのが無難であろうとそれを実行した。
「…いえ…もちょっと言い過ぎました…すみません…。」
しばし間を置いて、俺の謝罪に答えるようにぽつりと言った。
そして。
こいつはもう、何も言わない。
俺もまた何も言わずにただ、たたずんでいた。
2人の間を、沈黙と共に風が通り過ぎていく。
気まずい空気のみがその場を包む。
せめて何か言ってくれと願うも、やはりそんな期待もきっと虚しい。
遂に口を開いた。
「…俺は、花月を守るために今まで生きてきた。」
「…はい。」
「だから恋というものは知らない。ずっと知らずに今に至る。それ故、お前の気持ちを汲んでやることも今の俺には出来ん。」
「………。」
返答が無い。
顔を見えずとも、そう表情は容易に想像がついてしまう。
「しかし、お前が俺にちょっかいを出すのも、嫌ではないというのも事実だ…………。」
初めて呼んだその名は、なかなか素直に出てくれはしなかった。
それは気まずさ、と。
照れくささがあいまっていたからか。
言った後、何故か更に気恥ずかしさが増していき、そっぽを向いて誤魔化していた。
すると奴は何を思ったのかいきなり人に抱きついてきて、
「十兵衛さん!やっぱりだいだいだいだいすきです!!」
と、なんとも恥ずかしいことを言ってきた。
「………………くっつくな暑苦しい…。」
一体さっきまで泣いていたこいつはどこへやら…。
結局その後、いつものようにあっちやこっちや振り回されて終わったのであった。
*おまけ*
「で、結局用とはなんだったんだ?」
「はい!あのですね、21日お誕生日じゃないですか。それでプレゼントは何がいいのかと思いまして。」
「ちょっと待て、何故俺の誕生日を知っている…?」
「愛の力♥・・・っていうのは冗談で、朔羅さんからお聞きしました。で、何がいいですか?いらないは無しですよ!」
「(…本当に冗談なのか…?)……別に何でも良い。」
「本当に?じゃあ、の愛を返品不可で差し上げます!!」
「…いらん。」
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拍手ありがとうございました!
筧のあんちゃんは、きっと積極娘には弱かろう!ってことでこの子です。(…ちなみに“貴様”でムカついてたのはスオミです…。(ボソ))
…すみません、個人的に、オロオロする十兵衛が書きたかったんですョ…。
裏設定としては、ヒロインが一人称を自分の名前で呼んでいるのは、十兵衛に覚えて呼んで欲しかったからなんですよ。