major's dream…**
「頑張ってくださいね、先輩。」
そう少し頬を赤めて笑う少年は、年上の私から見てもすごく可愛いと思う。
彼が言ってくれることなら、なんでも出来る気がする。
どんなに常識から言って無理難題なことだって、絶対にやってみせるわ。
年下の彼氏。
「うう…ついに明日はセンター試験…。」
まだ6時になるかならないかという時間なのに、昼間の明るさはどこへ行ってしまったのかと問い掛けたくなる様な黒色になった天井の下。
とぼとぼと歩く人影が2つ、図書館からの帰り道を並んで歩いている。
そしてその途中、はぁ、と溜息ともとれるような大きな息と一緒に冒頭の台詞を吐き出して、憂鬱そうに俯いたのが私。
その様子はまさに、げんなり、という言葉がぴったりだと自分でも思う。
するとそれに気付いたらしい、隣にいたキラくんが、にっこりと微笑んで言った。
「でも先輩なら大丈夫ですって。今まですごく頑張ってたじゃないですか。」
「…そ…そうかな。」
「はい。それにセンターって、入試というより力試しみたいなものでしょ?緊張しないでリラックスリラックス!」
こんなふうに励ましてくれて、しかも彼の隣にいることが当たり前になるなんて、初めて逢ったあの頃は全く考えもしなかったな。
…と、改めて思ってみたりする。
笑顔がとっても魅力的な彼、キラ・ヤマトくん。
なんと私の彼氏だったりなんかして。
…人生何が起こるか分からないとはよく言ったものだ。
というのも、実は私とキラくんは、ものすごーく遠い関係だったのだ。
同じ部活で、しかも同じクラスなので、結構仲の良いイザークとディアッカ。
…の、中学の後輩のアスランくん。
…の、幼馴染兼親友のキラくん。
つまり私から言って見れば彼は、友人の友人の友人の位置に値する人なのだ。
これを、世間一般では他人と呼ぶ。
そしてその他人が知り合いにランクアップしたのは、キラくんが私がマネージャーを勤めていたバスケ部に入部してきたことから始まった。
しかし、実は私はこのとき以前から彼の名前は知っていた。
というのも、彼は容姿端麗、成績優秀のスーパールーキーくんで有名で、女子の間では知らない者はいないと言うほど人気があるから。
だから私もキラくんのバスケ部入部は心底驚いたものだった。
そんな彼と付き合うようになったきっかけ。
それは意外や意外、なんとキラくんの一言がきっかけだったりする。
あれは半年前の、私達3年生は最後となる夏休み合宿2日目のこと。
マネージャーである私が部員達の夕食作りに奮闘している真っ只中。
休憩中に、彼がわざわざ調理室までやって来たのだった。
『あれ。キラくん、どうしたの?』
休憩とはいえ、大抵の部員は体育館内で休んでいるのがほとんどだから、彼のこの行動は不思議なものだった。
ドリンクでも切れたのかと思ったが、そんなの1年生とはいえ、レギュラーであるキラくんの仕事ではないはず…。
ならば怪我でもしたのだろうかと思ったが、その様子はまるでないし、そんなの保健室に行けば良いだけのこと。
わざわざ調理室(ここ)に来る必要はこれっぽっちもない。
それに万が一保健室に行ったとしても、その帰りに寄るほどその頃は仲が良かったわけではなく、まぁ用があったらぽつぽつ話す程度だったので、寄り道という線もないだろう。
そう思っていたから。
だからこの後彼が言おうとする言葉なんて、全然気付きもしなかった。
しいて気付いた点といえば、頬を赤めさせ、なんだか落ち着きがないことくらいだったから。
『……あ……と…なんて言うか…その…──先輩!』
『はい?』
『す、すきです!…僕と付き合ってください!』
ダンッ!
『せっ先輩!?だ、大丈夫ですか!?』
キラくんが慌てて無事か否かを確認しているのは、突然の予想だにしていたなかった展開に頭がついていかずに力が抜けて、今までずっと握っていたはずの包丁が見事に落下し、凄まじい音を立ててまな板に突き刺さったからで。
ちなみに当の私はぽかんと口を開けて、今思えばなんとも間抜けな顔で時が止まっていた。
だってキラくんと言えば先程も言ったように女子に人気でぶいぶいで。
でも全然気取ったり偉そうにしないで、むしろ真面目で優しくて、照れてる姿が可愛くて。
才能もあるのに自惚れないで努力を怠らないで、見えないところで必死に練習してて。
そういうところが良いなって、密かに思ってたりしてたけど。
でも、私なんか相手にされないだろうな、とか。
そもそも2つも歳が違うわけだし、きっとキラくんだって同い年か年下が良いんだろうな、とか、そんなふうに思ってて、半ば諦めていたのに。
…そんなキラくんが何てった?
私の聞き間違いか、冗談かしら。
ああ、きっとそうだ、そうに違いない。
それか何かの罰ゲームとか…や、キラくんはそんなことで相手を傷付けたりしないと思うけど…。
聞いてみよう…一応…。
『えっと、それは…じょ、冗談………………じゃあないんですよね、すみません…。』
キラくん…その潤んだ瞳やめて欲しい…。(計算してるのかしら、もしかして?)
お陰で言いたい事も聞きたいことも言えずに、結果的に1人自己完結な会話に(そもそもこれは会話と言えるのかは分からないけど)なってしまったじゃない。
いや違うの、告白してくれたことはものすごーく嬉しいんだ。
だけどそれより信じられないことの方が大きくて、言うべき言葉も思いつかなくて。
私はずっと黙ったまま。
キラくんも、ずっと、何も言わないの。
だからこの部屋にあるのは沈黙だけ。
──違う、こんなにグランドの声が聞こえるから。
あ。鍋もぐつぐつ言ってる…そろそろ火、止めないと。
…時計の音ってこんなに大きかったっけ。
なんでだろう、動けない。
まるで私達ふたりだけ、時が止まったみたいだよ。
…ねぇキラくん、休憩時間、そろそろ終わっちゃうよ?
遅れたら、部長のイザークに問答無用で怒られちゃうよ?いいの?
でも黙って、ずっと私を見つめるだけで、貴方は立ち去ろうとはしないのね。
今ここで、返事を頂戴って、こと?
だったら答えは決まってる。
だけど聞きたいことがあったから、今は言わないままで。
『……私のどこがすきなの?』
『え?』
驚いたように聞き返したキラくんはなんだか、どうして聞くのと言いたげだった。
でも、だって。
やっぱり気になるじゃない。
だけどちゃんと彼を見て言う、なんてことは無理だったから、目を伏せながら、だったけれど。
それでもキラくんは、一生懸命答えてくれた。
『…えっと、先輩は覚えてないかもしれないけど…中学のとき1回だけ逢ったことがあって。
あ。逢ったっていうか、見たって言った方が正しいのかもしれないけど…。
そのとき、すごく楽しそうにクラスメイトと笑ってたのが印象的で…。
…で、実際話したりして先輩のこと知ってみたら、優しい人だなって思って…そ、それから…です…。』
恥ずかしそうに言う彼の姿。
だけど私も顔が熱かった。
込み上げて来る何かのせいで、目が熱くなって、喉も痛くて。
『…私…2こ年上だよ…?』
『…はい。』
『それでもいいの…?』
『はい。』
はっきり答えてくれるのが嬉しくて。
だって絶対叶うことは無いと思っていたのに。
声も震えて、まともに言葉に出来なくて。
だけどこれだけは言わなくちゃって、必死に何度も何度も頭の中でリピートしてたこと。
『…わ、たしで良かったら…お…お願いします…。』
『はい!』
そう言って見せた笑顔は、今でもとっても印象に残ってる。
嬉しそうに笑うキラくんに、私は正直見とれてて。
キラくん以外のものは何かにぼかされたみたいにほとんど入ってこなくて。
運動部の声はさっきよりぼんやりとして、何処か遠くで鳴り響く、汽笛みたいに聞こえた。
私18歳、彼16歳。
このふたつの歳の差は、大きいようで、小さいようで。
だけどやっぱり大きかったりする。
なぜって、実は1年生と3年生の教室は、校舎をまたいだはじっことはじっこ。
だけど昼休みになればお昼を一緒にとることもできたし、部活も同じだったから、一緒に帰ることも出来た。
キラくんも、すれ違ったり姿を見つけると、別に何の用もないときでも駆け寄って来てくれたし。
それでも時間というものはおそろしいもので、私はあっと言う間に本格的な受験シーズン到来。
当然夏休み明けには引退し、勉強に時間をさかねばならなかったから、逢う時間も減っていった。
キラくんも私に気を遣ってメールとかも控えてくれてたし…。
デートだって、ほら。
今日みたいに図書館だとか、そういう勉強の出来る所だったりするのもしょっちゅうで。
まぁ気分転換に映画とか遊園地とか行ったりするけれど、やっぱり以前に比べてそういう所に行く率はぐっと少なくなってきた。
一緒にいられるだけで十分嬉しいし、幸せだけど…。
大学進学の私。
そして高校生のキラくん。
これから更にこの問題が深刻化することは目に見えている。
だから本当はすごく不安なの。
キラくんは格好良いから、何もしなくてもすぐにまわりに女子が集まってくる。
まぁ今までだってそうだったけど。
でも、やっぱり距離が離れちゃうから。変わってくから。
…淋しい。
とは心の中で言ってみるものの、別れるとか、そんなことは絶対嫌。
なんて自己中心的で我侭なのだろう。
でも、時々思う。
もし私が2年遅く生まれてきていたら。
もしくは彼があと2年早く生まれてきていれば。
こういう状況でも一緒に頑張っていけたのに、って。
そうしたら、もしかしたらクラスが一緒になれたかもしれないし、そうじゃなくても学年が同じなら階も同じなわけだから、何をしているのかもすぐ分かるし、きっと今より安心できるのに。
キラくんもああは言ってくれたけど、本当は同い年のこの方が良いって思ってたりするのかなって、時々考えたりする。
…あーあ…神様って、妙な所で意地悪なんだから。
でもキラくんとこうして付き合えてるだけで人生の運使い果たしちゃった気がするし、贅沢な悩みなのかな。
「先輩?どうしました?」
キラくんの声に、はっとした。
なにぼーっとしているんだ、自分!
何処か具合でも、と心配そうに尋ねるキラくんに本当のことは言えなくて、何でもないと誤魔化しても。
それでもやっぱり心配そうに窺うキラくんに、私はなんだか罪悪感に似た感情を覚えた。
だけどキラくんは、私が上の空だったのは、受験の不安からだと思ったのだろうか。
優しく、だけど元気付けるように言ったから。
「僕…ありきたりな言葉で励ます事しか出来ないけど…。でも。先輩は絶対大丈夫です。自信、持ってください。」
…何でだろう。
キラくんがそう言ったなら、本当になんでも出来るように思えてくるの。
不思議…。
「キラくん。」
「あのね、ちょっとお願いがあるんだけど…。そしたら私、もっと頑張れるような気がするの。」
「…僕に出来ることですか?」
「うん。ていうか、キラくんにしか出来ないから。…協力してくれる?」
「はい。勿論です。」
キラくん、その表情(かお)に私が弱いって知ってるのかなぁって、そう思ったりした。
だって、とびっきり素敵な笑顔で、嬉しそうに言うから。
あの日想いを伝えてくれたときに見せてくれた、あの笑顔とそっくりだったから。
だけどそのことは言わないで、代わりに両手を差し出す。
何も言葉はなかったけど、それでも手を握ってって分かったらしい。
少し恥ずかしそうにしていたけれど、手を重ねてくれたから。
視線がぶつかれば、微笑んでくれる。
そういう何気ないことが、私をすごく嬉しくさせる。
だから。
「ねぇキラくん。」
背伸びして、キスした。
目を瞑っているから表情(かお)までは分からないけれど、きっとびっくりしているのでしょう。
静かに離して彼の瞳を覗いて見たなら。
そうしたら、いつもね?
貴方はいつも顔を赤くして、ちょっとだけ俯いて。
そして、繋いだ手をぎゅって、強く握ってくれるの。
まるで女の子みたいって思ってたりするその仕草、とってもいとおしくて、だいすき。
「キラくん、ありがとね。お陰で明日、頑張れそうな気がする。充電完了です。」
そう言ったらキラくんは、更に顔林檎みたいに真っ赤にさせて。
「…先輩…ずるいです。」
「なーにがぁ?」
元気はもらえたけど、それでもまだ手は離さないまま、このままでいさせてね。
だって、歳の差なんて関係ない。
どんなことをやってみたって、きっとこの『すき』って想いだけは、誰にも止められないから。
だって貴方は、とってもとってもだいすきで、とってもとっても可愛い自慢の彼氏。
*posyscript*
キラに「頑張れ」なんて言われたら、頑張るしかないでしょう!きっともう寝る間も惜しんで勉強するでしょうねぇ、私(笑)。
それでは遅くなりましたが、これから受験本番の方!頑張ってくださいね!…そして…ありがちな話ですみませんっ!
up日:2007.01.19