「私、クリスマスって、だあいすき!」
そう笑って街中をくるくると踊るように歩く彼女は、まるで子どものようだった。 いや、むしろ子どもそのものだ。 年齢よりもはるかに幼く見える笑顔を振りまいて、いつになく上機嫌だ。 その姿を僕は後ろから眺めては、「はしゃぎすぎて転ぶのではないだろうか」とぼんやりと思っていると、は案の定、こけた。 あまりにも予想通りに起こった展開に驚きつつも、慌てて駆け寄る。 すると顔に怪我は作らなかったものの、転んだ拍子にとっさについた手に擦り傷を負っていた。 大して血は出ていないものの、北風に染みてひりひりする、らしい。
「…はしゃいでいるからだ」
「だ、だって…」
相変わらずぺたんと座り込んで未だに立とうとしないに自業自得だと言わんばかりに溜息をついてやると、じとっと恨めしげに視線が刺さる。 しかしすぐにそれも逸らされて、目を泳がせた。 「なんだ」 「う、ううん。やっぱりなんでも、ない」 そう小さく呟いた後、まるで何事もなかったかのように立ち上がった。
「もう転んでくれるなよ」
「こ、転ばないよ!馬鹿にしないでよね!」
そんなことを言われても、現につい数秒前にそれが起こったのだ。 には悪いが信用出来ない。 しかしそんなことを口にした日には彼女を怒らせてしばらく口を聞いてくれないことは目に見えていたので、そっと心の内にしまっておくことにする。
「…あ」
どうやら彼女の前方、つまりは僕の背後で何かを見つけたらしい。 はじっとそれから目を逸らすことなく凝視していたが、突然ぼんっと耳まで朱色に染め上げた。 一体何だと言うのだろう。
「どうかしたのか、」
「え!?べ、別に!何も!?」
「その割には顔が赤いが。…一体何を見、」
「だ、駄目駄目駄目!ティエリアは見なくて良い!見なくて良いの!
別に何にもないんだから!」
…明らかに何かがある。 隠している。 むしろそれで隠しているつもりなのだろうか、彼女は。 彼女の視線の先に何があるのか気になり振り返ろうにも、はそれを阻止せんと言わんばかりにぐいぐい手を引っ張ってくる。 そしてそのまま「もっと向こうの方を見に行こう」と言ったかと思うと、「その何か」とは反対方向へ歩き出した。 もとい、走り出した。
「お、おい!!」
左手は彼女に囚われたままなので、相変わらず引っ張られたまま。 今だ止まろうとしないに制止の声を掛けるも、まるで彼女はそんなものは聞こえていないと言わんばかりに走り続ける。 「見に」行くんじゃなくて「走りに」行くの間違いではないのか。
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「ふわあ…!び、びっくり、したあ…!」
「…それはこちらの台詞だ」
お互い肩で息をするほどになった頃、大きなクリスマスツリーの前で、ようやく彼女は足を止めた。 何が嬉しくてこんな寒空の下全速力しなくてはならない。 走ったせいで更に北風が身体中に染み込んで、耳がキンキンした。 ふと隣で息苦しそうにしているを見てみると目が合って、「や、やっぱり寒い、ね!」と片言に呟かれた。
ロングコートを着込み、首にはぐるぐるに巻かれたマフラー。 ついでに手袋まで付けているというのに、まだ寒いというのか。彼女は。 そこまで完全防備をしているのでは、手の施しようがないというのに。 しかし長居する理由も無いし、そろそろ帰った方が良いのかもしれない。 風邪を引いては厄介な事になる。 「。寒いなら、そろそろ帰るか」 「え!?や、やだ!」 「しかし、寒いんだろう」 「さ、寒くないもん!」 「……まさに今『寒い』と言ったのはどこの誰だ」 「だから、たった今!寒くなくなったの!」 …訳が分からない。 「だって!せっかくのクリスマスなのに!」
「…ティエリア、クリスマス知らないって言ってたでしょう?だから、私…」
ああそう言えば、そんなことを前に言ったような気がする。 僕は地球では育たず、気がついたら当たり前のようにソレスタルビーイングのコロニーにいた。 だから重力は苦手だし、クリスマスなどのイベント事なんて経験したことがなかった。 …それでも本で読んだことはあったから、全く知らなかったわけではないが。
それにしても、いつ言ったかも記憶にないようなことを覚えていたのか。彼女は。 …だから、はしゃいでいたのだろうか。 僕を楽しませようとして。 それなのに、僕は。 「…すまない」 気付かなかった。 彼女に気を、遣わせてしまった。 「それと、ありがとう」 素直に、嬉しかった。
「…??」
どこかぼうっとしていたを不思議に思って声を掛けると、「ティエリアのてんねん」と小さく呟かれた。 …さて、僕は今おかしなことを口走っただろうかと回想にふけっていると、は僕のコートの裾をぎゅっと握って、これまた更に小さな声で言ったのだった。
「あの、ティエリア。…あのね。あのね。あの……だいすき」
だからね、キスしていいですか。 そう小さく呟いたの顔が真っ赤なのは、寒いからなのだろうか。 真っ白なマフラーをぐるぐる巻きにして顔の半分隠れているというのに、恥ずかしげに更に隠そうとする。 「…ほ、本当言うと、ちょっとね、憧れてたの」 「何を?」 「クリスマスツリーの前で、すきなひととこんなふうに、過ごすの」 「…そんな願いで良かったら、いくらでも叶えてさせてやる」 そう言ってやるとはきらきらと目を輝かせて、嬉しそうに笑った。 そんな彼女が可愛らしくて、人を愛おしく思うというのはこういうことなのだろうかと今更なことを思った。 「…、」
「目を瞑れ。そしたら君にキスをする」
091224 ツンデレヒロインとティエリアがくっついたらどうなるんだろうという妄想の産物。 1期と2期の中間あたりの出来事。意外ときゅんきゅんした。自己満足ということは重々承知している。 ちなみにヒロインが見つけたのはイチャついてるカップル(←)。