「…よく食べれるな」

関心したようにも呆れているようにも取れる実に曖昧な反応をした彼は、そう一言呟いた後、「僕には無理だ」と言わんばかりにコーヒーをすすった。 しかし私からしてみれば、砂糖もミルクも入れないコーヒーを飲むティエリアの方が信じられない。 パフェの隣に並んでいる甘いミルクティーの香りと正反対なこと。 だから私は、相変わらずストロベリーパフェを頬張りながら、「よくそんな苦いもの飲めるね」と返したのだが、「君が甘党過ぎるんだ」とあっさり言われてしまった。

しかし私が思うに、ティエリアはもう少し甘いものを食べた方が良い。 疲れたときに甘いものってさ、言わない? ソレスタルビーイングなんて物騒な組織に所属しているからこそ、肩に荷を背負いっぱなしでしょう。 そんなときには甘いものに限るって。 「食べる?」 生クリームとアイスが乗ったスプーンをティエリアに向けてみるも、「気持ちだけ受け取っておくさ」と遠慮されてしまった。 あら残念、おいしいのに。 そのままぱくりと自分の口に運ぶ。 うん、やっぱりおいしい。

「そもそも僕は、『よくそんなに食べれるな』という意味で言ったんだ。 …前々から思っていたが、君の胃袋はどうなっている」

イコール、お前は大食いだって言いたいのか? ふと改めてテーブルの上を見てみると、今食べているストロベリーパフェのほかに紅茶と空の皿が2つ。 つい数分前までチョコレートケーキとレアチーズケーキが乗っていたものだった。 一方のミルクティーは、相変わらず甘い香りを漂わせていた。 (ついでに言ってしまうと、シュガーを沢山入れたので、とっても甘くなっております。 それこそティエリアが怪訝そうな顔をしていたくらいに)

「私、前世はお菓子の国の女王だったのかもね!」
「ああ、僕もそう思う」

あれ。 真顔で返されてしまったぞ。 「…冗談だよ」 ティエリアの冗談は分かりにくいんだよ。 そうちょっと不機嫌そうにしてみたらティエリアは「すまない」と言って、またコーヒーを一口。 そしてカップをコーヒー皿に置いて一拍置いた後、「それにしても、今日は驚いた」と静かに呟いたのだった。

「何。そんなに私が甘党の大食いだったとは思わなかったと言いたいの」
「そうじゃない。君が僕を誘って地球に下りたことが、だ」

今度は私が驚く番だった。 はて、そんなに意外だったのだろうか。 セラヴィの整備を手伝ったり毎日大変そうだったし、なんだかんだでティエリアは新生ソレスタルビーイングの中心的人物のようなものだったから、気晴らしにと思ったのだけれど。

「…いや、その。てっきり僕は、に嫌われているのだとばかり思っていたから」

…なんでそう思ったの? そう聞き返してみたら、「いや、なんとなくだが」と、ティエリアにしては珍しく曖昧な返答をした。 加えて少し気まずそうな顔をしていたから、これは「冗談」じゃなくて「本音」らしい。 …うーん。

「うん。確かに嫌いだったよ。まあ正確には苦手だったって言ったほうが正しいかな。 口を開けばヴェーダがどうとか、マイスターとしての資格がどうのとか言うし」
「……………………」
「でも今は、全然そんなことないよ」

だからそんな顔しなくて良いって。 そう笑って言ったら、やっと彼は表情を柔らかくさせた。 うん。やっぱり今のティエリアの方がすきだな。 前は眉間に皺寄せて、こんなふうに笑うことすらしなかった堅物だったから。 …前、までは…。 ……………。

「…ティエリアはさ、変わったよね。なんか、羨ましい」

うらやましい。 そんな言葉が自然と出てきてしまったくらい、私はまだまだ子どものままだった。 時は確実に進んでいるし、髪も2年前より伸びたりだとか、外見的にはすっかり変わった。 と、思う。 なのに心は全く成長していない。 そんな気がする。 ティエリアのように変わった人が身近にいると余計そう感じて、どうも焦ってしまうのだ。 …焦っても仕方がないことだと分かってはいるつもりなのだけれど。

「…君は、変わりたいのか」
「…変わりたいっていうか、変わらなきゃいけないって思う。 もう二度と大切な誰かを失いたくないから。 だから、子どものままじゃ駄目なの。 今のままじゃ、全然…」
「…そうか」

「──でも僕は、今の君がすきだな」

ちょっと前までは、「すき」だとかそういうことを、こんなに平然と言う人じゃなかったんだけどなあ。 これもロックオンの影響? だとしても受け過ぎだ。 …なんだか、言われたこっちが照れくさくなってしまう。 「なんだ?」 「…別に、何でもない」 うらめしそうにじっと見ていたのに気がついたらしいティエリアにそうぶっきらぼうに返して、再びパフェを味わう。 あいにく褒め言葉をありがとうと返せる程、私の心は素直に出来てはいなかった。 しかしティエリアはそれを十分知っているので、特に気に留めなかったらしい。 彼は小さく笑った後、コーヒーカップに手をつけた。





ミルクティー

(砂糖はあなたのやさしさに溶かされた)




090731 (福山さんの、だいすきな『ミルクティー』をイメージ。これは最強のティエリアソングだと思います←)