「…だ、だーれだ!」
そう声がしたかと言うところで、視界真っ暗になった。 …とまではいかず、指の隙間から相変わらずの世界は見える。 何を思ったか突然後ろから己の両手で目隠しをしてきたと思われる少女の声は、まるで子どものように弾んでいた。 一瞬誰だと思ったが、確か聞き覚えがあるような。 確か昨日初めて会ったばかりの、5人目のガンダムマイスターだ。 ええと。名前、は…。
「……えーと、確か・、だっけ」
「え!…覚えてたんだ…」
うろ覚えながら昨日名乗られたコードネームを口にすると、俺の視界を奪った少女は「まさか覚えられてるとは思わなかった」と驚いているようにも関心するようにも取れることを言って。 しかし自身の名が呼ばれたことにより、素直に俺の両目を覆っていた手をどけた。 そしてようやく自由になった俺は、依然背後にいる少女へと振り返る。 当たり前かもしれないが、彼女は昨日と全く様子が変わらない。 …決して戦争根絶なんて大それたことを計画している組織のメンバーだと感じさせない雰囲気を辺りに漂わせていた。 普通にどこにでもいる女の子そのもの、だ。 いや、目隠しなんてしてくるのだから、少し子供染みているのかもしれない。 悪戯好きってか。 なら俺も少し意地悪口でも叩いてやるか。
「そういうお前は、俺のコードネーム覚えてんのか?」
そう言ったなら、は「知らないよ」とあっさり答えた。 おいおい、お互い顔は知っているとは言え、名前も分からない相手に悪戯してくるってどうなんだよ。 これは予想していなかった展開だ。 「だって私、あなたの名前教えられてないもん。知る訳ないじゃん」 あれ、そうだっけ。 しかし思い返してみれば、確かにそうかもしれない。 昨日の俺はMSのトレーニングやらで立て込んでいたし、はで女子のクルーが増えたと喜んでいたクリスティナにあちこち連れ回されていたようだったから、彼女の名前も人伝えで知ったようなもの同然だった。 一応顔は合わせたけれど、きちんと自己紹介する時間はなかった…ような気がする。
「じゃ、改めて自己紹介だ。俺の名前はロックオン・ストラトス。
GN-002のガンダムマイスターだ。よろしく」
「ふーん、『ロックオン』…変なコードネーム」
がぼそっと呟いた台詞に、思わず顔を引きつらせる。 成る程、彼女は正直者らしいが、どことなく台詞に棘を感じる。 それにしても外見から察するに、彼女は刹那とさほど変わらない年齢なのだろう、まだどこか幼い表情が垣間見える。 …彼女もまた、俺と同じ様に固い覚悟を持ってソレスタルビーイグに入ったんだ。 今更とやかく言う筋合いも無ければ、俺にその権利すらない。 だけどこんなにも幼い少女がガンダムに乗り、戦場に出るのか。 これが今人々が、そして俺が生きている世界、なのか。
「…な、何!」
内心を察したのか、それとも思ったより時間が経ってしまっていたのか、は人の顔を見るなと言わんばかりに突っぱねて来た。 照れ屋なのだろうか、心なしか顔が赤い。
「あ。いや悪い、何でもないさ。
それより、何か用があったんじゃないのか?」
「え?…あ、そうだった。
えっとクリス、が、クルーが全員揃った事だし、交流会しようって言ってて…」
「あー…」
そういえばそんなことを言っていたかもしれない。 刹那は「俺は行かない」とあっさり断っていたが、発案者のクリスティナとしては腑に落ちなかったのだろう。 結局参加が少人数でも開催することにしたんだとか。 そしてはその人集めに借り出されたらしい。 そんなときたまたま俺の姿を発見して声を掛けたという訳か。
「とりあえず今のところ、刹那とティエリア以外のクルーは参加するって。
あと食べ物も結構用意するって言ってた、し。
皆との親交を深める良い機会だって、スメラギさんが。
だから、その…」
「?」
「ロックオンも、来たかったら…来れば?」
先程の様子とはまるで違い、ひどく恥ずかしそうだ。 目すら合わそうとしない。 とても悪戯した少女と同一人物とは思えなくてつい笑ってしまうと、(予想はしていたが)の顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまった。
「何よ!人を見て笑うなんて、失礼な人なんだから…!」
「いやごめんごめん。別にそうじゃなくて、可愛い奴だなあと思って」
「な!?ば、馬鹿にしないで!」
どうやら本格的に怒らせてしまったらしく、先程とは比べ物にならないくらい顔を真っ赤にしている。 全く年頃の女の子ってのは扱いが難しい。 しかし思わず笑みがこぼれる。 性格はまるで違うが、テロで両親と一緒に死んだ妹に少しだけ似ている気がして。 まるで、平和だったあのときに戻れたみたいで。 それが少しだけ、嬉しくて。 しかし俺が暫し思い出に浸っている間に、は「もう知らない。それじゃさよなら!」と言い残し、とっととこの場を去っていた。 ついさっきまで目の前にいたのに、今は背中を見せて遠ざかっていく。
「(……………)」
その姿をじっと見ていたが、ついに俺も先程のと同じように、とんっと床を蹴る。 最初は戸惑っていた宇宙も、慣れてしまえば楽だ。 だって、こんなにも少し反動をつけるだけで前に進むことが出来るのだから。 しかし一方のは未だに無重力空間に慣れていないらしく、距離はあまり進んでいなかった。 だから、俺が彼女の隣に並ぶのも時間の問題だった。
「ほらほら、待てよ」
「な、何よ!話は終わったんだから、ついて来ないで!」
「でも俺、歓迎会どこでやるのか知らないし。
お前も行くんだろ?だったら一緒に行こうぜ」
「だったらメインルームのBだから!場所は分かるんでしょ?1人で行ってよ!
大体、お前って呼ばないで!失礼でしょ!」
「ん?メインルーム…B?」
ここは本来、不快にさせてしまったに謝罪するべきなんだろう。 いつもの俺なら、間違いなくそうしていたはずだ。 しかし今日はそうしなかったのは、違う箇所で気がかりな点があったからで。 俺の思い違いだろうかと立ち止まって改めて考えてみるも、やっぱり発見してしまった間違いは間違いのままだった。 急に俺が隣から姿を消したことを不思議に思ったらしいも、とんっと壁に手をついて勢いを殺し、振り返る。 ……さてこの指摘、するべきか。 いや、いつかは彼女もそれに気付くだろうから、早いうちにしてやった方が得策だろうと結論付けて、口を開いた。
「…、」
「な、何」
「その部屋の場所と今の進行方向、逆だけど」
「……………っ!………し、知ってるからそんなこと!誰がすぐ行くって言ったの!」
その慌てよう、やはり気付いていなかったらしい。 おそらく、昨日来たばかりだから、流石に艦内の地理を完全には把握し切れていなかったのだろう。 …俺が通り掛からなければは迷子になっていたんじゃないかと思ったが、そんなことを言ったら間違いなく口を聞いてくれなくなるのは目に見えているので、心の内に閉まっておくことにした。
ファーストコンタクト
「あー、はいはい。うん、そうだよな。分かってる分かってる」
「ちょ…!頭撫でないで!子供扱いしないでってば!」
081012 セカンドシーズンは始まりましたが、ここはやっぱりニールで!