「………何のご用ですかロックオンさん」
顔を引きつらせ目を泳がせ、しまいには心底ここから立ち去りたいと言わんばかりの表情をしている彼女に、落ち着きというものは存在しない。 隙あらば今すぐ逃げてやろうとそわそわしているように思える。 いや、実際今の今まで逃げられていた訳だが。 しかし俺には、穴が開くほどガン見される理由も避けられる理由もさっぱり分からなければ、検討もつかない。 だからぱぱっとそれを教えてくれれば良いももの、はその頑固な性格が邪魔してか、なかなか口にしようとはしない。 彼女を刹那の所で捕獲して、早30分が経過しようとしていた。
遠回しの××
先程のようにセクハラだのストーカーだのと叫ばれて他のクルーに誤解を招かれるのは勘弁なので、こうして俺の部屋に引っ張って来てをベッドに腰掛けさせは良いものの…どうしたものか。 の向かいにある椅子に座りつつ、俺は腕を組みながら頭を悩ませていた。 と言うのも、はちろちろとこちらの様子を伺いながらも、俺と目が合えば、すぐに目を逸らしてしまうのだ。 そうしてぎこちなさを覚えたのか、はぶつぶつと「うー」とか「スメラギさんの馬鹿ー…」とかぼそぼそと呟くのだから、これを不思議と言わずして何と言おう。
逃走する前にもは、ミス・スメラギに変なことを言われたと白状していたし、こんな訳が分からない鬼ごっこが始まったきっかけとなったのも、確実にあの戦術予報士なのだろう。 だからの姿を見失った後、真っ先に事情を知っているであろう彼女の所に行ったと言うのに、『それは直接に聞いてちょうだい。悪いけど私、予報はするけど助言はしない主義なの』とあっさり返されて終わったのだった。 …予報も助言も似たようなものだと思うのだが。 まあどちらでも良い。 結局は自身から聞けば良いだけの話だ。 俺も影でこそこそと手を回して事情を知るよりも、本人の口から言ってもらった方がすっきりする。
「…なあ、」
「やだ」
「まだ何も言ってないだろ」
「言ってるじゃん。今まさに言ってるじゃん。それともこれはテレパシーか何かですか」
また減らず口を。 …このやりとり、一体何回繰り返しただろう。 なのに一向に進もうとしない会話。 …ミス・スメラギよ。 あんたの予報では、俺はから無事に避けている理由を聞き出しているのだろうか。 ああ、思わず溜息が漏れてしまった。 それにしても、どうしてはこんなにも俺から逃げようとするのだろうか。 昨日まで普通に接していたと言うのに。 乙女心程複雑で変わりやすいものはないってか? …ああ。 もしかして嫌われたんだろうか。 ただ単に俺が気付いていないだけで、何かしでかしてしまったとか。 それならば納得がいく。
「…」
「な、何よ!私は何も言わないんだからね!言わないんだから!」
「ああ、お前は何も言わなくて良い。俺が勝手に話してるだけだから。でもとりあえず、話を聞いてくれ」
するとはきょとんとして、少しだけ大人しくなった。 かと思えば「聞くだけだからね!私は何も言わないんだから!」と言って来たものだから、あまり先程の状況と大差ないような気がしてならい。 しかしとりあえず聞く耳を持ってくれたらしいから、まだ前進したか…。 相変わらず目を逸らされたままだが、もうこの際気にしないことにした。
「…俺が気付かないうちにに不快な思いをさせていたのなら、謝るよ。
悪かった。
でも俺達は、同じガンダムマイスターなんだ。
ミッションプランによってはチームを組んで武力介入することもあるだろう。
マイスター同士のいざこざは、少なからず連携プレーに支障が出る。
俺としては、出来る限りそういうことはなくしたい。
だから、俺を嫌いになった理由を教えて欲しい。改善するから」
「…………………は?」
随分な間をもって、の素っ頓狂な声が返って来た。 やはり、「何も言わなくて良い」と言っていたのに、意見を求めてしまったからだろうか。 しかしの表情は、俺の発言の矛盾に対しての不満を表しはいない。 むしろ、思ってもみなかったことを言われて驚いている様な顔に見える。 久しぶりにの目をちゃんと見た気がした。
「ちょっと待ってロックオン。どうしてそういう結論になる訳?」
「え?だって、そうとしか考えられないだろ」
じゃなきゃ、逃げ惑われる意味が分からない。 「それとも違うのか?」と不思議そうに尋ねると、は口を魚みたいにぱくぱくさせていた。 、お前本当に大丈夫か?おーい。 「……別に…そういうことじゃないよ」 ん?何だって?
「だから、ロックオンのことは…き……嫌いじゃない……から。 …て!言ったの! ただ本当に…どうでも良いこと、を、思い出して、逃げちゃった、だけで。 …そ、そんだけだから!」
折角ちゃんと目を見て話してくれていたと言うのに、徐々にはどこか罰が悪そうに目を泳がせて行ってしまって、しかも途中、ぼそぼそとして聞き取りにくい。 (聞こえたけど) しまいには、決して目線は合わせてくれない状況に逆戻りしてしまった。 加えては心なしか、ひどく恥ずかしそうだ。 その様子がおかしくて思わずふっと笑ってしまうと、それを目ざとく見つけたは、「な、何笑ってるの!」と不機嫌そうに問うのだった。
「や、嫌いじゃないっていうのが微妙だなあって思ってさ。俺は結構好きだけどな、お前のこと」
「んな!?ば、馬っ鹿じゃないの!」
早口にそう言ったと思うと、はばっと勢い良く俺に背を向けてしまった。 なので今彼女がどんな顔をしているのか、全くが分からない。 しかしどうせいつもの減らず口を叩いた後のような不機嫌そうな顔をしているのだろうと予想していた俺は、そのときが耳まで真っ赤にしている事実に気付くことはなかった。
080803 (例え「友達として」の意味だったとしても、ロックオンにそんなこと言われたら私は間違いなくキュン死で即死します)