…いい加減カミングアウトしても良いだろうか。 先程から真正面に座っている少女からの目線が突き刺さって仕方が無いことを。 痺れを切らせて「俺の顔に何か付いているのか」と本人に聞いてみたら、「うん、目と鼻と口が」と、相変わらずの減らず口を叩かれた。





何故か直視できない瞳に僕は





一体なんだと言うのだろうか。 普段ぱっぱと平らげてしまうのトレーも、今日はまだ半分も減っていない。 むしろほとんど手をつけていない状態で、普段食欲旺盛なが一体どうしたと疑問を覚えたクルーは、きっと俺だけではないはずだ。 そしては食べずに一体何をやっているのかと言うと、誰かと雑談を交わしているわけでもない。 ただじっと俺を凝視して来ているのだった。 それも彼女がこの食堂コロニーに来たときから。 …何故だ。 しかも時より、「……いやあ…うん。やっぱりないわあ…。うん、ないない」と意味不明としか言えない台詞を小さく呟き、1人頷いている。 …本当、なんだってんだ。 俺なんかやったけ?思い当たることはねえけど。

「なあ。さっきから、なんなんだ?人の顔じーっと見て」
「え!?べ、別にロックオンのことなんか見てないもん。 向こうの壁見てただけだもん。 ロックオンて、自意識過剰なんじゃないの?」
「な訳あるか」

なんだその子どもじみた言い訳は。 …まあ100歩譲って壁を見ていたとしよう。 その中点にいる俺は、どうやったって気になるだろう。 大体何を思って壁なんか見てたんだよ。 「いやあ、ロックオンの守護霊は疲れた顔してるなあって。ほらまた壁に寄りかかって溜息ついてる」 …おい。

「良いから本当のこと話せって」
「や、やだ。本当になんでもないもん、気にしないでよ」
「…
「…もー!やだったらたらやなの!それになんでもないって言ってるでしょー!」
「あ、おい!?」

何故か酷くご立腹となってしまったはまるで捨て台詞の様にそう吐いた後、素早くその場を去って行ってしまった。 待てと言う意味合いを持って伸ばした手がむなしい。 そしてふと今しがたまでがいた向かいのトレーを見てみれば、やはり手付けずの食事トレーがちょこんと置いてあるだけだった。 そんな一部始終を見、なおかつこの現状を奇怪に思ったらしいティエリアが、普段通りの冷静な声で呟いた。

が、食事をろくに食べずに去るとは…不吉すぎる。 何か良からぬことの前兆だ。 ベーダの計画に支障を来たす恐れがある。 …ロックオン」

行け。追え。そして全てを終わらせろ。

そう目で語ったティエリア。 …一体どんだけだよ。 だって女の子なんだから、ダイエットでもしていたんじゃないかという発想はどうやら浮かばないらしい。 そしてティエリアに加え、その場に居合わせた他のクルーの視線も突き刺さって来た。 …なんだよお前ら。 別に俺が原因でこうなったんじゃねえぞ? や、本人が理由を話さないから分からねえけど。 …数秒続いた無言の圧力。 折れたのは俺の方だった。 「…ったく、本当なんだってんだよ」 俺もまだ食い終わってねえってのに。 しかし気になるのも確かだし、を追うことにした。

「それで良い。それでこそガンダムマイスターだ」

…訳分かんねえよティエリア。


***


「やっぱり絶対ないですよスメラギさん!その線だけはない!断じて!」
「あらそう?この予測は絶対自信があるのに。 本当はロックオンのことがすきなんじゃないの? いつもロックオンに減らず口叩いちゃうのはその証拠よ。 素直になれない恋心ってやつ?」

だから違いますからー! 私は決して!ロックオンのことなんてすきじゃありませんからー! ていうかそのスメラギ恋愛法則でいくと、私はもはや小学生レベルじゃないですか。
食堂コロニーから逃げる様に去った後、やって来たのはスメラギさんのプライベートルームだった。 だって元を辿れば、スメラギさんがこんな変なこと言って来たからロックオンを凝視してしまったわけだし! それにしても…当たり前かもしれないけれど、ロックオンてば不思議がってやたら食い付いて来たなあ…。 だああ、もう会わす顔がない! しかし私がこんなにも悩んでいるというのに、そうさせた張本人は今、まるで面白いものを見ているかの様にクスクスと笑っている。 ………もしかして。

「…スメラギさん」
「あら、なあに?」
「…楽しんでませんか」
「やあね、そんなことないわよ?」

…そんなことを笑いながら言われても、全く信用出来ないんですがねスメラギさん。 「まあそう拗ねないで」 無理ですよ、拗ねたくもなりますよ。 は当分スメラギさんと口聞きません。 今そう決めました。 「あら、それは困るわね」 …どうせまた、それも嘘なんでしょスメラギさん。

「そんなことないわよ。 が私と話してくれなくなったら、この予測が合っていたのか、はたまたその結末がどうなったのか聞けないじゃない? これじゃ、気になって夜も眠れないわ」
「もー!スメラギさんの意地悪ー!もう行きますよ私はー!行っちゃいますからね!」
「はいさよなら」

そうあっさりした見送りの言葉を送りながら手をひらひらと振っているスメラギさんは、言わずとも分かるかもしれないが笑顔だ。 なので「口聞かないどころか、今度のミッション、ボイコットしちゃいますよ!」と告げてみたら、「あら大変。プランの大幅な修正が必要だわ」と冗談めいて言って来た。 間違いない、私は完全にからかわれている。 結局部屋を出るまで、彼女の小さく笑う声が途絶えることはなかった。 ちっくしょー!と思いつつ、場所は長い廊下へと移動する。

…宇宙って、走れないから不便だよなあ。 いや、別にふよふよ浮くの面白いけど。 ふいーって進むのすきだけど。 そしてスメラギさんの部屋を出て最初にある角を曲がった所で、ある人物にばったりと出くわしてしまった。 そのせいで、私が顔を引きつらせてしまったのは言うまでもない。

「あ、いた。!」
「げ、ロックオン!」

何故ここに! 今1番会いたくない人物ぶっちぎりナンバーワンなのに! しかもどうやら私を探していた様子。 放っておいてくれて構わないのに、どうしてそうしてくれない。 確かに穴が開く程ガン見して、その後逃げる様に(ていうか逃げたんだけど)その場を去ったら気になるかもしれないけど、さ! 困ったぞ、どうしようか。 しどろもどろしていると何気なくロックオンと目が合って、次の瞬間、ぽんっと先程の台詞がよみがえった。

『本当は、ロックオンのことがすきなんじゃないの?』

「ぜ、絶対違うから!」
「は?何がだよ」
「(し、しまった!回想が入って…!)」

やってしまったあ! それもこれも全部全部ぜーんぶスメラギさんのせいなんだから! うわあんと泣き叫んでしまいたい! もーっ!ロックオンのこと、変に意識しちゃうじゃないか…! 目も合わせられない! ティエリアの台詞を借りると、これは万死に値しますから後で覚えておいて下さいねスメラギさあん! …でもとりあえず、今は逃げ! 回れ右!

「な、なんでもない!本当になんでもないから!気にしないで!じゃ!」

そうしてロックオンに背を向けた瞬間、「ちょっと待て」という台詞が聞こえたと思ったら、パシリと左手を掴まれた。 …素直に見送ってくれれば良いのに。 普段は相手が嫌がっていれば決して踏み込んでこないのに。 どうしてこう言うときに限って気に留めるんだろうか、彼は。 それにこれじゃ逃げるに逃げられないじゃないか! は、離せー!

「セ、セクハラー!ロックオンがセクハラをー!きゃー!誰か助けてー!」
「おいこら変なこと言うな!誤解招くだろ!」
「だったら離してよ!」
「離したら逃げるだろ、現に今逃げようとしてただろ!」

掴まれた左手を引っ張られたと思ったらぐるっと180度コマの様に回されて、またロックオンと対面状態に元通りになってしまった。 そしてやっと手が開放されたと思ったら、その代わりにがしりと両肩を掴まれて、今度こそ逃げられない状況。 何故今日のロックオンはこうもしつこいんだ…! 「また小娘がうろちょろしてるよー」って思って良いから、今回ばかりは見逃して欲しいのに!

うう、心臓五月蝿い!顔熱い! もう見ないでー! 私はロックオン見ないぞ! ていうか何故か恥ずかしくて見れない! それでも盗み見る様にちろりと目をやってみたらやっぱりロックオンがいるわけで、じっと逸らすことなくこちらを見つめていた。 …い、言えば良いんでしょ、言えば!

「ス、スメラギさん、が!スメラギさんが変なこと言うから!そ、それ、で…!」
「変なこと?…て、何だよ」
「な、何だって良いでしょ!ロックオンには関係ないじゃん!」

『いつもロックオンに減らず口叩いちゃうのはその証拠よ。素直になれない恋心ってやつ?』

だああ、違う!決して違う!断じて違う!違う、違うー! もう何も考えるな! 無心に! 無心になるんだ! ぎゅっと目を瞑る。 あ、真っ暗。 まあうん、当たり前だけど。 よし、とりあえず落ち着かせるために、円周率のことでも考えよう! …えーと、3.1415926535…あれ、なんだっけか。 そもそもこれで合ってるっけ? わ、分かんない…!

うーわ、円周率は失敗だったと悔やみながら、そっと目を開けた。 ん?開け…て、意味無いじゃんか! ぎゃ! 相変わらずロックオン目の前にいるし! 肩も掴まれたまんまだし! だ、駄目だ、やっぱり意識してしまう…! するなって言う方が無理な話だってこれ…!

「…あれ、お前顔赤くないか?風邪でも引いたか?」
「…も、もーっ!知るか馬鹿!」
「な!?」

もはや「どういう意味だよ」と詰め寄るロックオンを直視することすら出来ず。 「もう知らない!」と言い残し、手を無理矢理ほどいて再度逃走した。 ら、追っかけて来た。 ひいい!

「なんで追い掛けてくるのー!ロックオンさん、ストーカーはやめて下さーい!」
「お前が逃げるからだろ!」

だあああ!このしつこさ尋常じゃない!


080321(それから約10分間、コロニー内で鬼ごっこが続きましたとさ)