例えばの話です。 例えば今まで傍にいてくれて、自分のことを「すきだ」と言ってくれただいすきな人が、突然何の前触れもなく消えてしまったら、あなたはどうしますか。 誰よりも争いの無い平和な世界を求め、誰よりも優しかったあの人を、忘れることは出来ますか。 私はどんなに時が流れ、人々の記憶からあの人が消え去ったとしても、忘れることは出来ません。 例えいつの日かあの人ではない他の誰かを愛するようになっても、あの人の存在はいつまでも心にあり続ける。 そう思っていたのに、どうしてでしょう。 段々段々、消え失せていく。 愛しいはずの、貴方のこと。 しあわせだった、貴方との記憶。
届かぬ声、消え行く世界
「なんだ?ティエリアと言い、今日はソレスタルビーイングの落ち込みデーか?」
「ロックオン…」
よ、と軽く手を上げたロックオンは優しい笑みを見せていて。 そんな彼を見ただけでどこか安心出来るのはどうしてだろう。 やっぱり兄貴分だからだろうか。 それとも、だいすきな人だからだろうか。 …て言うか、落ち込みデーって何の話。 そもそも私、落ち込んでなんかいませんから。
「嘘言え、明らかに負のオーラ放ってただろうが」
「放ってませんー!
ロックオンの錯覚…じゃない、痴呆だと思いますー!」
「痴呆って、お前なあ!」
俺はまだ24だっての!と言って来たので「だって私より年上だしね」とついでに呟いてみる。 すると、「お前、全世界の24歳に謝れ」と返された。 「違うよ、それはロックオン限定の話だから、謝らなくて良いですー!」 べーっと舌を出して対抗するなんて、こんなのただの意地になっている子どもだよ、なあ。 『素直なのはの長所だよ』って、大分前に貴方は言ってくれたけれど──。
「……え、!?」
突然ぎょっとした様な声。 私の心の悲鳴は、そんなロックオンの言葉で気付かされた。 無重力な宇宙間に広がるのは、何故か小さな水の粒達で。 一体全体、どこからこんなものが。 そんな疑問が解かれるのは時間の問題だった。 これは私の涙ではないか。 …私、なんで泣いているんだろう。 ぼんやりと宙に浮く水滴を眺めていると、ロックオンはまるで子どもをあやすかの様に、ふわりと私の頭を撫でた。
「…やっぱ何か無理してたんだろ、お前」
「してないもん。これはあれだよ、ほら、えーと…」
「何だ?言ってみろ」
残念ながら、「言ってみろ」と言われてすぐに言い訳が思いつく程、私は頭が回る訳でもなければ器用でもない。 「コンタクトがずれたんです」と言う定番な理由も、私がコンタクトユーザーではないので使えない。 ああ、どうしたものか。 返答に困って口篭り目を泳がせれば、ロックオンは困った様に、だけど優しく笑い掛けた。
「。何か、あったのか?」
「……だから別に、何も」
「だから、何も無いのに泣く訳ないだろ」
「何も無いのに泣いた奴が、目の前にいるでしょ」
「…強情だなあ、お前も」
「ティエリア程じゃないよ」
そう言えば、ロックオンはそりゃそうかとまた笑う。 …どうして笑っていられるの。 強情なのは私じゃなくて、ティエリアでもなくて。 むしろ今目の前にいる、貴方。
「……何かあったのは、ロックオンの方でしょ」
そう言ってのけたならロックオンは、「一体どこが」と言わんばかりの顔をした。 …そんなの、聞かなくても分かるでしょう。 こんな風に人のこと気に掛けてる暇があるなら、自分の怪我の心配でもすれば良いでしょって話だよ。 何よ、眼帯なんかしちゃってさ。 治療はしないって、なんですか。 そんな状態で戦う気? 死に急ぐ様なものでしょう。 お願いだから、自分の事を第一に考えて。 他の人なんて、どうでも良いから。
「……ロックオンは…なんで?なんでそこまでして、たたかうの…?」
そこまでして手に入れたい世界だと言うのですか。 確かに戦争根絶は私達ソレスタルビーイングの目的。 私も貴方も求めている世界。 だけどそのせいで貴方が傷付くというのなら、私はそんな世界、いらない。
「こらこら、落ち着けって」
そうして遂には完全に泣き出してしまった私を抱き締めて、いい加減泣き止めよと呟く。 私が素直になれず、いつも減らず口を叩いてしまうのは、きっとロックオンが優し過ぎるからだよ。 ほらまた涙が溢れてきた。 きっともう、止まらない。 抱き締めてくれるあなたの背中に腕を回して、今度は私が抱き付いた。 だってなんだか、凄く凄く嫌な予感がするのです。 もう、二度と逢えなくなるような気がしてならないのです。 不安で不安で、仕方がないのです。
「ねえニール。いなくなっちゃ、やだからね」
「…ああ」
「わたしよりさきにしんだりしたら、ぜったい、ゆるさないんだから。だからぜったいむちゃ、しないで。おねがい」
「…ああ、分かってる。俺はお前より先に死んだりしねえよ、約束だ」
ロックオン、あの日の約束、貴方は覚えていますか。 今、どこにいますか。 悲しくて泣きたいときはいつも傍にいてくれたと言うのに、もうどんなに泣きながら名前を呼んでも、私の目の前に現れてくれないのは何故ですか。 どうしていなくなったのですか。 無茶はしないでって、あれ程言ったのに。 それとも約束は破る為にあるとでもお思いですか。 星になって見守っているからとでも言いますか。 どちらにせよ、貴方がいなくなったこの世界で、私はこれから何の為に生きて行けば良いですか。 どうか答えを教えて下さい。貴方の声で、今すぐに。
080316(だいすきです、だいすきです。…本当に、心から。だからどうか、逢いに来て。私はここにいるから)