『駄目だ駄目だ、私は絶対に認めんぞ!』
瞬間、ケータイのスピーカーがキーンとなって耳が痛くなった。 こういう音をハウリングって言うんだっけ。 まあそんなことは今はどうでも良いけど。 ええと、それではここで、私のこの17年間の人生で悟ったことをお教えしましょう。 それは、頑固者な兄に持つと、妹はとても苦労するということです。 そしてその人物が過保護なら、尚更。
どうしてこんな面倒なことになってしまったのか。 もうそれを思い出すだけで嫌になるけれど、現状を整理する為には仕方あるまい。 出来るだけ簡潔にご説明しますから、ちゃんとついて来て下さいね?
その前に、軽く自己紹介から参りましょう、私は・エーカー、17歳です。 出身国はアメリカなのですが、現在は日本に留学中なので、なんとびっくり東京のど真ん中でなんちゃって1人暮らしをしています。 ちなみに日本食が最近のマイブームです。
まあそれは今度詳しく話すとして、実は私には、10歳離れた兄がいます。 歳の差が大きくあるため、兄妹と言うより、親子感覚だと言った方が近いかもしれません。 そんなお兄ちゃんは実はユニオン所属、つまり軍人だったりします。 しかも新部隊の結成で昇進し、高級中尉と言う、今までに比べるとちょっと長ったらしい名前の階級になったらしい。 ん?高級じゃなくて上級だっけ? 中尉じゃなくて大尉になったんだっけ? …まあ良いや。 とにかくそんな報告の電話が来たのが、つい10分程前の出来事。 そしてそのとき私がいた場所と言うのが実は、私の2つ隣の部屋に住む、沙慈・クロスロード君のお家だったりします。
と言うのも、彼のガールフレンドであり私の大の親友のルイス・ハレヴィと言う、ちょっと我が侭だけれどとても可愛らしい女の子がいるのですが、そんな彼女のお母さんがつい先ほどまで、この日本に来ていたのです。 なんでもこの間の同時多発テロで色々物騒だからと、娘を心配してわざわざやって来たらしい。 しかしそんな娘想いのお母さんも、ついさっきスペインへ帰ってしまいました。 そんな訳で母親を淋しがって元気の無いルイスを見かね、沙慈君は私を招いたと言う訳です。
そしてそこへ、まあ絶妙なタイミングで掛かって来たグラハムお兄ちゃんからの電話。 父性本能を持て余してるんだかなんだんだかのこの兄は、少々過保護な所がありまして。 ここまで言ったら分かるでしょうか。 はいそうですそういうことです。 何故かお兄ちゃんは、本人の私が何度も「違う」と言って否定しているにも関わらず、沙慈君との関係を誤解し始めて、けしからんと怒り出したのでした。 …何を勘違いしているんだこの兄は。 大体、沙慈君は私のタイプじゃないんですけども。 (でも本人が目の前にいるから言えない)
「あのね、お兄ちゃん。何度も言うようだけど、沙慈君はルイスのボーイフレンドで」
『なっ!恋人がいるにも関わらず手を出してくるのか!?
何と言う奴だ…!
、そいつに替われ!』
「だから違うってば!ただの友達!もー、何度も言わせないでよ!」
こんな会話をエンドレスリピートし続けている私達兄妹を、他の人はどう思っているのだろう。 ああ、でもルイスは相変わらずホームシックならぬマザーシックになって泣いているし、沙慈君はそれをなだめてるから、私はただその場をある意味で賑やかにしている人としか認識されていないかもしれない。 て言うかこれ放置状態? …うん、でも状態が状態だから気にしないけど。 ああ、でもこの部屋にいるのはそれだけじゃなくて、心底帰りたいと顔に書いてある、私と沙慈君のお隣さんの刹那君もいるな。 完全に傍観者だけど。 しかもこうやってちゃんと顔見るの初めてだけど。
それにしても、こんな兄が軍人で良いのだろうか。 大丈夫なのか、世界は。 これはソレスタルなんちゃらよりも大問題だと思うんだけど。 しかもお兄ちゃんはユニオンのエースパイロットだとカタギリさんに聞いたことがある。 …世も末だ。
『…コホン、いやすまない。私も取り乱したな。
そうだな、は友達想いだからな、そういう状況もありえんこともない。
…ええと、じゃあその場にいるのは女友達と、その彼氏だけなんだな?』
「え?あー、いやあ…」
刹那君が。しかしこの一瞬の躊躇を兄は見逃さず、ようやく落ち着いて来たと思われたのに、また先程に逆戻りとなってしまった。
『他に男がいるのか!?誰だ替われ!今すぐ替われ!』
…しまった、何を馬鹿正直に反応しているんだ私!
ここで「うんそうなの」と頷いておけばそれで話が終わったと言うのに何たる失態!
あああ更に面倒なことになって来た…!
『替われないのか?替わったらまずい相手なのか!?、誰だ?誰なんだ!?どこのどいつだ!?』
「(うわーまた食い付いて来たー…!)え、と。私のお隣さんだよ。
沙慈君が、人数の多い方がルイスの気も紛れるだろうって、彼も誘って…」
『なっ!「彼」だと!?』
えええ、どこに反応してんの!?
『私は交際など認めんぞ!』
──で、冒頭に戻る。 まったく勘違いも良い所だ。 刹那君も良い迷惑だろうに。 いやあ、どうもすみません。 それにしても、私も誤解を解くの面倒になってきたなあ…電話、切っちゃ駄目かな。 でもそれはそれでまた更に大事(おおごと)となって返って来そうだしなあ…。
そもそもお兄ちゃん…今お仕事中なんじゃないの? 良いの?こんな電話してて。 確かに今日は休日だけど、軍人に休みも何も無いよね多分。 てか確かそうだ。 前にお兄ちゃんが、「ただでさえ休みが取れにくいと言うのに、ソレスタルなんちゃら(あれなんだっけ、名前忘れた)のせいで、更に拍車が掛かった」と言っていた気がする。 そもそも休みがある度に妹の様子を見に、わざわざ日本までやって来るてどうなんだろう。 別にいやじゃないけど、カタギリさんも呆れていたじゃないか。 きっと部下からも、「何やってんだこの上司」と思われているに違いない。
『ああ、いたいた。探したよグラハム。やっぱりちゃんに電話してたのか』
こ、この声はもしかしてもしかしなくても!
私が今誰よりも来て欲しいと願っていた、あの…!
「カ、カタギリさあん…!」
遂に救世主到来だ! さあまた手をお貸し下さい! そして何とかして下さい、この変な方向に暴走し切っている兄を! そんなお兄ちゃんは、カタギリさんの姿を見るや否や「一体何の用だ」と言って、ちょっと不機嫌そうな顔をした。 そして一方のカタギリさんは、ちょっと困ったように笑う。(うわあ大人!今の私には、カタギリさんが輝いて見える!) うーん、テレビ電話だとこういう表情とかすぐ分かるよね。 てかお兄ちゃんも、軍人なんだから、もうちょっとポーカーフェイス上手くなった方が良いんじゃないかなあ…。
『何の用って、フラッグファイターの初顔合わせがあるってこと、忘れたわけじゃないだろう。
すぐに戻ると言っていなくなってから一向に戻って来ないものだから、探しに来たのさ。
皆君を待っているよ、グラハム。
何より隊長の君がいなくては始まらないだろう』
な、お兄ちゃん!?仕事サボって電話して来てたの!?
しかも部下達を放って置いて!?
いやいやいやいや、仕事やろうよちゃんと!
わっるい上官だなあ、もう!
それで良いのかユニオン!
『し、しかし、私はまだに話が…!』
『あーはいはい、また今度ね。それじゃあちゃん、元気でね』
「はい、カタギリさんも!」
『ちょ、カタギリ!人のケータイを取るな!…切るなよ?切るなよ!?』
………切れた。 ツーツーツーって電子音がする。 とりあえず、きっとカタギリさんがお兄ちゃんにフォローを入れてくれるだろうから、これでもう安心だ。 やれやれ。 ピッと終話ボタンを押して、ケータイをしまい込むと、思わず溜息がこぼれてしまった。 ふとルイス達に目をやるとやっぱり相変わらずの状態で、何も状況は変わってはいなかった。 そしてこれまでの論争?の始終を見ていた刹那君は、じっと私を見、呟いた。
「……平和だな、ここは」
「うん、本っ当にね。嫌になっちゃうくらい」
でも私は、そんな世界がだいすきだ。
080131(こっそりとゆいちゃんに捧ぐ!)