5月5日は何の日ですか。 もし誰かにそう尋ねられたなら、私は真っ先に「雲雀恭弥さんの誕生日」と即答するに違いない。 決してカブトや鯉のぼりなどを飾って柏餅を頬張る日なんて答えません! 断じて! でも柏餅は食べたいな…てそれはとりあえず置いといて話を戻しますと、ま、要するに雲雀さんの誕生日は5月5日、世間で言う子どもの日と言う訳です。 今日は5月の2日な訳です。 世間一般で言う所のゴールデンウイークの前日です。 みんなは連休だなんだとはしゃいでいたけれど、私はちっとも嬉しくありません。 何故なら雲雀さんにも会えないからです。 このままでは雲雀さんにお祝いすることが出来ません。 でもやっぱり私はお祝いしたい訳です。 さてこの悩み、どう駆逐すれば良いですか!

…なーんてこと、誰にも言えやしないし相談も出来ない…。 だって友達は私と雲雀さんのことは一切知らないし、むしろ関連なんてないものだと思ってるから。 なのでこの学校で唯一それを知っているのは、風紀副委員長のくーちゃんさんだけだったりする。 (あとはまあ、何故かうちのおじいちゃんも知っている。…どこからそんな情報を!?) あーあ、本当にどうしよう。 やっぱり誕生日なんだし、何かプレゼントした方が良いんだろうか。 や、むしろ個人的にしたいだけなんだけど。 あ、でも雲雀さんの好みも欲しい物も知らないしなあ…。 むー…あ、もしかして新しいトンファー? うーわ言いそうだ。 いや待てよ。 そういうのって、一体どこへ行ったら買えるんでしょう。 お店? ん?そういうの売ってるお店なんて見たことないけど…。 ど、どうしよう!

そもそも男の人と言うのは、誕生日に何貰ったら嬉しいと思うのだろうか。 でも男の人にはおじいちゃんしか…あ、違う。 お父さんもあるな。 まあ幼稚園が最後だけど。 つまりは今まで家族にしかプレゼントなんてあげたことないので、やっぱり分からないという結論に戻る。 むー、またくーちゃんさんに相談してみようかなあ…。 やっぱり副委員長さんで私より雲雀さんとの付き合いが長い訳だし。 でもことあるごとにいっつもいっつも相談に乗ってもらってるから、「またかよ」って思われるよなあ…。 あーあ、どうしたら…。

「…ねえ。さっきから君、何?」

は、はい? それまで静寂だった応接室に、突然雲雀さんの声が響いた。 ここには高級そうな机で委員の仕事をしている雲雀さん(なんでも仕事が溜まっているらしい)と、ソファーに座りながらそんな彼を凝視して考えごとをしている私しかいない。 てことは私に話し掛けているんだろうか。 え。 「何」ってなんです、か…?

「…さっきから、やたら視線が刺さって気が散るんだけど」

す、すみません。 そう苦笑いをして言うしかない。 そりゃあ応接室に来て早々じーっと目をそらすことなく自分を、しかも大嫌いな草食動物(私は雑食だと思ってるんだけど)が見ていたら目障りだろうなあ…うん。 でも一応見苦しい言い訳をさせて頂くと、私だってこうしたくてこうしてるんじゃないんです。 私だって、さらっとテキパキ何でも出来ちゃう格好良い人に、なれるものならなりたいです。 でも無理なんです。 雲雀さん、あなたに関わることとなると私、全然駄目になっちゃうんです。 「…すみません」 もう一度そう小さく呟くと雲雀さんはふうと溜息をついた。

「君からは、謝罪の言葉しか聞けない気がするよ」

私も、雲雀さんにはずっと溜息をつかせるしか出来ない気がします。 これはもはや、ある種の才能だと考えるべきなのかしら。 でもそんな呆れたような視線も声も、そして溜息ですら、私を虜にして仕方がないのです。 あなたは私をどうしたいんですか。 「あの、雲雀、さん」 うわ、我ながらたどたどしい。 これはイラつくよなあと思いながらちろりと雲雀さんに目をやれば、案の定もっとハキハキ話せと言わんばかりの顔をして、「何」とだけ返してきた。 「えっと、5日…お、お誕生日って、聞いて。それで…」 すると雲雀さんは、ああ、と納得したような顔をして、だけどまたすぐ呆れ顔に戻ってしまった。 「…ずっとどこかネジが外れている子だとは思っていたけど、まさかここまでとは思っていなかったよ」 どうしよう、雲雀さんにそんなこと言われたら私、なんだか泣きそうなんですが。 もし今泣けと言われたら、確実に5秒で出来るに違いない。

「僕は誕生日だなんだと言って、無駄に騒ぐ草食動物は嫌いだよ。 …咬み殺したくなる」

それはイコール、私を嫌いだと言っているでしょうか。 消え去れと遠回しに、いや、これは直球なのかしら。 ともかくそう言っているようにしか聞こえない。 「しかし今は、猫の手も借りたい程忙しいときている」 そう言ったかと思ったら、雲雀さんはそれまで腰掛けていた椅子から腰を上げた。 そのせいで一度、ギシッと軋むような音がする。 そして台詞の意味をよく理解出来ないでいる私は、彼の言うとおり、本当にネジが抜けているのかもしれない。 何故彼がこちらへやって来るのかすら、さっぱり分からないのだから。

遂に目の前にやって来た雲雀さんを見上げると、そこには相変わらず真っ直ぐな瞳が向けられていた。 ああそうだ。私はこの人の強い瞳に憧れたんだ。 「君は確か、雑務くらいは出来たよね」 そう呟かれた言葉によって、頭はようやく先程の台詞の意味を理解し始めた。 要するに、誕生日プレゼント代わりに仕事を手伝えと言うことなのかなあ。 そう予測を立てながら相変わらずぼーっと聞いていた私の頭は、次の瞬間、完全に目を覚ますこととなった。

「ねえ。君の時間を、僕に頂戴?」

突然ふいに見せられた柔らかい表情に魅せられて、「勿論です」。 そんなたったの一言を言おうにも、まるで時が止まったかのように動かない。 それに時間を頂戴って、なんだかプロポーズみたいじゃないですか。 や、彼は決してそう言うつもりで言った訳じゃないというのは分かっているけれど。 ただ忙しいから人手が欲しいと言う意味だと理解しているつもりだ。 それでも先程とは正反対の意味で、やっぱり私、泣きそうです。 こうして随分な時間差を掛けながら私が肯定の意を示せすより先に、痺れを切らしたらしい雲雀さんから「返事が遅い」と怒られた。



僕的間接話法

(その意味は、「君と過ごしたい」)


080512 1週間遅れでお誕生日な委員長様!