うーん…。 良いのかなあ、良いのかなあ!

ケータイとずっと睨めっこしている私は、果たして背後霊にはどう見えているのだろう。 しかしそんなこと今は構っていられない! ケータイのディスプレイはずっとメール作成画面が映っており、あとは送信ボタンを押すだけのメールがひとつ。 時刻は1月1日午前1時20分。 俗に言う「あけおメール」なるものを制作したのは今から1時間以上前のこと。 それからカウントダウンライブを見ていて、よし0時きっかりに彼に送信しようと意気込んでいたと言うのに。 いざそれが近付くにつれて「果たして本当に送って良いものか」と思い始めてしまい、つまりそれからずっとこうして悩んでいる状態な訳だ。 打ち終わったんならさっさと送れば良いのにと思うかもしれないが、送信相手が相手なだけに、そう言う訳にもいかなかった。 なんせその相手はあの並中最強の風紀委員長・雲雀恭弥さんなのだから。

「(あーもう雲雀さあーん!新年早々あけおメールなんてうざいですか!? ていうか高確率でうざがりそうですね雲雀さんの場合はー! ていうか『年明けただけで何がそんなにめでたいの?』とか言いそう…! でも個人的には送りたいわけで…!でもうざがられるだけのは嫌…! ああもう、私は一体どうしたら…!)」

ばふりとベットに倒れ込む。 本当に、どうしたものか。 そういえば私、雲雀さんにメール送ったことあったっけか。 ぼーっと今までを回送しながら指を折ってその回数を数え始めようと試みたが、どうも無い気がして。 結局折り曲げることのない右手をじっと見て、思わず溜息をついた。 …雲雀さんにアドレス教えてもらったのいつだっけ。 えーと、確か今年、じゃない。去年の5月の半ばだっけか。 …逆に、雲雀さんからメール来たことあったっけ。 いやない。 絶対にない。 あったら私は即座に保護メールとして永久保存している。 それに雲雀さんは用があったらぱぱっと電話掛けてささっと済ますタイプだから、メールなんて機能はほとんど活用していない、する必要がないと大分前に言っていた気がする。

「(…………………………………むー…)」

じゃあ私はどうすれば良いんだ。 どうすれば良いですか?雲雀さん。 電話で済ませろって言いますか? でも私は貴方に電話を掛けるってだけで、覚悟を決める為だけに、今悩んでいる倍の時間と勇気が必要なのですが。 …むー。

「(…あ、そうだ!くーちゃんさんに相談すれば良いんだ!)」

持つべきは雲雀さんの補佐役・副委員長の草壁さん! かなり頼りになります草壁さん! 実は今までも、ちょっとしたことでも相談に乗ってもらって来ましたくーちゃんさんこと草壁さん! あ、でも時間帯的に非常識かな。 でも出来れば今すぐ相談して解決したいんだけどなあ。 やっぱメール? 電話の方が手っ取り早いからそっちのほうが良いんだけど…あ、寝てたら申し訳ないか。 …ん?でも確かいつでも相談乗ってやる的なことを言われたことがあった気がする。 ていうか前回クリスマスの相談したとき言われたよ! そしてそのときは深夜の3時前だった。 え、これはお言葉に甘えちゃって良いのかな?良いのかな?きっと良いよね! だってくーちゃんさんだもん! よーし、そうと決まったら早速お電話を!

即座にメール画面を閉じてアドレス帳からくーちゃんさんの名前を探し、発信ボタンを押した。 とりあえず、第一声はやっぱり「夜分遅くにすみません」だな。 くーちゃんさんが寝てませんように! でも例え寝てたとしても、そんなこと言わなそうだけど。 それにしても、この行動力を雲雀さんに対して使えないものか、私。 もうそれが今年の目標だなあと実現しそうにないことを十分承知で決意してみる。 すると丁度都合良いタイミングで呼び出し音が途絶えた。 留守番電話サービスに接続された雰囲気でもない。 この短い呼び出し時間から推測するに、どうやらくーちゃんさんは寝てなかったらしい。 良かった! でもやっぱり迷惑には違いないだろうと、例の言葉から始めることにした。

「もしもし!夜分遅くにすみません、です」
『そんなの声聞けば分かるよ何やってんの』
えっえっえ? あれ、おかしいな、幻聴だろうか。 この声はくーちゃんさんじゃない気がする。 気がするっていうか絶対違う。 台詞からしても絶対違う! え、も、もしかしてもしかしなくても…!?

「ひっひひひひ雲雀さん!?ななななん、なんでなんでー!?」
『君噛み過ぎだよ、少し落ち着けば』
いやだから無理ですってば! でもどうして雲雀さんが出て…。 考えられることとしてはただひとつ!

「あ、あの!私もしかして、くーちゃんさんと間違えて掛けちゃったんですか!?」
『…別に』
え、は、はい?別に、て、なに?どゆこと?

『君が電話を掛けたのは、間違いなく草壁だよ』
「じゃ、じゃあなんで雲雀さんが出たんですか!ていうかくーちゃんさんは一体いずこ!?」
『僕の隣にいるよ』
……は?

『この時間帯は並盛神社に参拝者が大勢来るからね。 大抵その中には風紀を乱す輩も少なからずいるものだよ。 だから警備がてら見回りをね』

成る程、そういえば雲雀さん、そんなことを言っていたかもしれない。 それにしても雲雀さん、本当に並盛がだいすきなんだなあ…。 しかしこれは心臓に悪すぎる。 一体何故新年早々こんな目に。 いやでも声が聞けて嬉しんだけど。嬉しい誤算てやつなんだけど。 でも二度目はきっと心臓がもたない。 まさか雲雀さんにどっきり仕掛けられるとは思ってもみなかった。

で、話は戻りますが、結局の所、何故くーちゃんさんのケータイに雲雀さんが出たか分からないままなんですがね雲雀さん。 あ、くーちゃんさんは今電話に出られないくらい忙しい状況ってことなのだろうか。 それで雲雀さんが代わりに出たのかな? ん?雲雀さんて忙しくしている人の為に、代わりにケータイにわざわざ出てあげるとかそう言う几帳面なキャラだっけ? まあ良いや。しかしこれからどうしたら良いのだろう。 今更「くーちゃんさんに替わって下さい」なんて言うのもなあ。 それに隣にいると言っていたし、本人がいながら相談するのも変な感じ。 そもそもそれじゃくーちゃんさんが大変だ。 じゃあとりあえずお仕事の邪魔しちゃいけないだろうし切った方が良いのかな。 そう思ったそのとき、雲雀さんの声が受話器越しに聞こえた。

『君が聞きたいことはそれで全部?…じゃあ今度は僕の番だ』
え、なんですか。 やっぱり、「ただ1年、地球が365回転しただけなのにどこがそんなにめでたいんだ』とかですか。 いやーそんなこと聞かれても私には分かりませんよ。 社会学とか宗教学とか専門にやってる人に聞いたほうが良いんじゃないですかね。 しかし雲雀さんの聞きたいこととは、そんな予想とは180度ぐるりと違うものだった。

『なんで新年早々草壁に電話したの?』
「え?や、それは…」
思ってもよらなかった質問に、思わず言葉を濁す。 そんなの「貴方にメールを送ろうかどうしようか相談しようと思ったからです」なんて、恥ずかしくて言える訳ないじゃないか。 ここは適当にあやふやに言って誤魔化そう。 うん、もう私に残された手段はそれしかない。…よし、頑張れ

「ちょっと、相談事がありまし、て…。え、えへ…」
『ふーん、相談事って何。言わないと咬み殺すよ』
「え!?」

しまった墓穴を掘ってしまった! しかも咬み殺すって、落ち着いてくださいよ雲雀さんと言いたいけれど、電話越しにビシビシと伝わってくるこの冷たい空気は一体なんだろう。 思わず背中がぞくっとしてしまった。 ひええ、まさしく蛇に睨まれる蛙状態。 いや実際目の前にいる訳じゃないから睨んでるのかどうかは分からないんだけど。 そもそも私は雲雀さんがいくら睨んだって全然怖くも何ともないんですが。 しかしそれにも関わらずこの緊張した空気は一体…。 ていうかもしかして、雲雀さん怒ってる? な、なんで? 私なんかしたっけ!?

『…もう良いよ。ところで君、今どこにいるの』
「え、家、ですけど」
『ふーん…てことはここまで走って15分てとこか』
えっまさか本当に咬み殺しに来るの!?わざわざ!? しかも走って!? 雲雀さんが走る姿なんて想像も出来ないんですが…! 普段バイクに乗るから…。 むー。走る雲雀さんもちょっと見てみたい気が。 しかし「ここまで」って何だろう? 「ここから」じゃなくて「ここまで」? ん?まさかとは思いますけど雲雀さん。

『今から10分以内に並盛神社の鳥居前』
「(やっぱりー!?)い、今から!?しかも10分て絶対無理…!計算合わないじゃないですか!大体私今パジャマだから着替」
『1秒でも遅れたら分かってるよね?…じゃあまた後で』

そう言い残したすぐ、雲雀さんは終話ボタンを押したらしい。 ツーツーツーと空しい電子音が木霊(こだま)した。 ああ、あの声から察するに、あの人は本気だ間違いない。 でもそんな強引な所もすきなんです…って今はそんなの関係ない! あとタイムリミットまで9分45秒…。ま、間に合うだろうか。 ていうか間に合わせなければ! そもそも遅れたら一体どうなるんですか雲雀さん! せめて彼女にはもっと優しくしてやってくださあい!

慌ててデニムに履き替えてコートを羽織り、ばたばたと急いで階段を下りた。 その慌しい足音に気付いたおじいちゃんは、まだ行き先も告げてないと言うのに長年の人生からそれを悟ったのか、「恭弥君によろしく言っておいてくれ」と笑顔で見送っていた。 とりあえずドタバタながら返事をするも、すぐに「行って来ますー!」と言って、飛び出すように家を出る。 …ああ。やっぱり今年も、私はあの人中心な年になるのね。 ていうか雲雀さん、なんであんなに怒ってたんですかー!




誰よりも最初に君の声が聴きたい
(…なんてことは、僕は口が裂けても言ってやらないけどね)




080101 実はくーちゃんさんのケータイのディスプレイにヒロインの名前が見えた瞬間にケータイを奪い取ったひばり君