俺の好みのタイプは、年下で、背が低くて、どこか抜けている子が良い。 ひょこひょこと俺の後ろをまるでひよこのように付いてくる、そんな可愛らしい子が良い。 だから同い年になんて興味は無いし、ましてや年上なんて論外だ。 そう思っていたのに。
「あ、たいちゃん。やっぱり来た」
そう、予想通りとでも言いたげな顔で言ったのは、俺より1つ年上の、先輩。 彼女とは小中とずっと同じ学校で、そして今、同じ聖秀に通っている。 ソフト部に所属しているから姉貴とも仲が良いようだ、つまり、そんな仲介で俺達は知り合ったと言うわけで。 いや、今はそんなことはどうでもいい。 どうも今この状況が彼女の思い通りだと言うこと以外は。 それがなんとなくこちらとしては腑に落ちなくて、俺は少し不機嫌そうに返した。
「…偶然です」
「あはは、そっか。でも偶然でも会えて嬉しいな」
その台詞、まんま口説き文句じゃんか。 しかしさんはそんなことに気付くはずも無く、「そういえば、ここんところ毎日通ってくれてるよねえ」と、笑いながら、大分お店に貢献して貰っていることを喜んでいた。 …一向に気付きもしないこの鈍感さ、いい加減自覚くらいしてはくれないものか。
「たまたま借りたいのがあるだけっすよ。…返却お願いします」
「はい。少々お待ち下さい」
そして営業スマイルを浮かべてマニュアル通りの対応…かと思いきやそれはそのときだけだったらしく、次の瞬間には既に客と店員ではなく、後輩と先輩の話し口調となっていた。
それにしても、本当にこの人は、よく笑う。
初めて逢ったときもこんなふうに無駄に愛想良くにこにこして、ときには何故かその態度に酷くイラつきさえ覚えていた。
そうだ、どちらかというと嫌いの分類に属されていたはずなのに。
なのに何故、こんな感情持つようになったのだろうか。
気付かれない程度にさんに目をやってみると、彼女は手馴れた手つきでレンタル品を確認していた。 そう言えばもうこのレンタルショップでアルバイトを始めて1年が経つと、この前言っていたっけ。 最初は慣れない手付きで作業スピードは遅く、本当に大丈夫かと思ったが、今ではその影すらない所から見て、すっかり仕事に馴染んだらしい。 その甲斐あってか時給も少し上がったんだと嬉しそうに話していたような気がする。
そんなことを思い出しているうちに、確認作業は終わったらしい。 「ご利用ありがとうございました」だかなんだかお決まりの台詞を口にした後、「そういえば、たいちゃん」と話し掛けて来た。 バイト中に話して良いのかとも思ったが、辺りを見回してみても、俺以外の客は見当たらなかった。 それはここが大型レンタル屋ではないからか、それともクリスマスだからか。 いや、後者ならむしろ家でまったり映画でも観ようと言う奴もいるだろうし、ただ店が流行っていないだけなのだろう。 よってさんは、よほど暇らしい。 そして俺は急いでいる訳でもないし、むしろ彼女と話せるのは嬉しい。 ここは素直に話し相手になろうかと思う。
「たいちゃんこの間もこのドラマの続き借りてたよねえ。どうだった?面白いの?」
「…別に、普通じゃないすか?」
ああ素直になれないこの口めと自分を引っ叩いてやりたい。 しかし彼女は俺がぶっきらぼうに言ったにもかかわらず、「そっか、面白いのかあ」と1人で納得し、「今度私も観てみよう」と呟いていた。 毎度のことながら、こんな風に俺のお世辞にも良いとは言えない口を気にせず、自分で変換して考えられるのも彼女くらいだ。
──でも本当は。
『たいちゃん』なんて、そんな子供っぽい呼び名は嫌いだ。 よく親戚のおばさん達なんかもこぞってそう呼ぶけれど、本当は嫌だった。 このことは、誰にも一度も口にしたことは無いけれど。 だって、まるで子ども扱いされているみたいじゃないか。 ただでさえ身長が同い年の奴らより低いことを気にしているというのに。 まるで神経を逆撫でしているようにしか思えない。
『可愛い』なんて、褒め言葉なんかじゃ、ない。
「ねえたいちゃん、もうすぐバイト上がるの。一緒に帰ろう?」
だからって、『格好良い』って言われたいわけじゃない。 そんな言葉より、ただ。
「…別に暇だし、しょうがないから待っててあげますよ」
「あ、優しい!だからたいちゃんだいすきなの!」
ただ聴きたいのは、俺にだけへの『特別』な言葉。