今日、付き合ってよ。そう会って早々沖田さんに言われたのが全ての始まりだったように思う。どうやら私と彼の休みが被ったらしい。折角のお休み。ひとまず主だった家の用事も家事も全て済ませたし、暫くはの側にいられると、いつもの川原にやってきたのが間違いだったのだろうか。見事に彼に捕まってしまった。しかし彼の姿を見つけたは嬉しそうに、にゃあーと鳴く。どうやらこの子猫は相変わらず沖田さんがだいすきらしい。なんて正直な子。

それにしても付き合ってって、どこへ?そしてそれに付き合うのが何故私?新選組の誰かとかでは駄目なのだろうか。色々な疑問が頭を駆け巡っていると、それを察したのか彼は、『だって君、賭けに負けたじゃない』と言う。賭け。と、言われても。私は博打なんてした覚えはないし、そういう趣味もないのですが。ますます分からないと首を傾げていると、沖田さんは『分からない?』と意地悪そうに笑う。…とりあえず、あまり良くないことだという事は分かりました。『君ってさ、実は物覚え悪いんだね』…そっ、そんなことないです…っ!

『…ほら、これこれ』

そう言って彼の懐から出した物を見せ付けられる。それは私も見覚えがある、彼のお財布だった。これの何が…。………。賭け。財布。もしかして。私の中で点と点が線になった瞬間、分かりやすく顔に出てしまったらしい。沖田さんは『思い出したみたいだね』と満足そうに笑う。一応笑顔ではあるけれど、『じゃあ分かったでしょ、君に拒否権はないから』と言わんばかりの雰囲気だった。

…確か私の記憶が正しければ5日前、屯所まで財布を届けた私に彼は言った。賭けは僕の勝ちだよね、負けたちゃんには何をしてもらおうかなあ。と。…まさか。…いや、確実に彼の言う賭けとはあのときのことを言っているのだろう。しかし賭けとは銘打っているが、実際は彼が故意に財布を忘れたのだから、私が屯所にやってくるという予言は有効なの?…うん、やっぱり無しだと思う。

『…で、でもでも!やっぱりあれは無効だと思います!あのときも言いましたけど、私は賭けに応じるとは言ってませんし…!そもそもあれは沖田さんが無理矢理と言うか、勝手にというか、その、ええっと…!…そう!お財布届けたってことで、あれはチャラなのです…!』
『ふうん。…僕、約束を破るような子は嫌いだなあ』

小さく独り言のように呟かれたそのたった一言に、私は思わず泣きそうになってしまった。何故でしょう?賭けを約束と言い換えられて、ずるいと思ったから?それとも嫌いと壁を突き立てられて、まるで自分を拒絶されたように思ったから?…いや、きっと前者だ。そうに違いない。その証拠にほら、こんなにも胸がざわついている。きっと自分の自尊心を触発されたんだ。そうに違いない。ただどちらにせよ、そのような言い方をされてはこの誘い、断ることが出来ない。むしろ、そうしてはいけないような響きをちらつかせていた。ような気がする。少なくとも、もう1人の私の中の私がそう判断したのです。ことわっちゃだめ、と。

『……沖田さんは、ずるいです。約束なんて言われたら私、断るに断れません…!』
『…そっちなんだ?』

沖田さんは苦笑する。そっちって、どっちですか。意味が分からず背の高い彼を見上げる。するとそれに気付いた彼は誤魔化すように笑い、『なんだと思う?』とこれまた意地悪な返答を寄越してきた。…もう良いです。沖田さんにちゃんとした説明を求めた私が間違っていました。

『でも僕は、約束をちゃんと守る子はすきだよ』
『…そうですか』
『うん』

だから僕は、ちゃんと君がすきだよ。そう笑う彼に、一瞬私の時が止まる。息をするのも忘れてしまった。きっと彼に深い意味はなかっただろうに。私は一度確かに何か言いかけて口を開けたはずなのに、だけど何を言ったら良いのか分からず、何も音に変換することなく閉じた。今にして思えばあのとき、どう反応したら良かったのだろう?急激に火照る頬も、何故だか潤んできた目も、それが何を意味しているのかちっとも分からなかったけれど。だけどこんなこと彼に見られたくなくて、悟られたくなくて、八つ当たりするように『か、からかわないで下さい…っ!』と大きな声を上げてしまった。けれど彼は決して気にする素振りを見せることなく、むしろなんで怒ってるのさとけろりとした顔をしていたけれど。

…『怒ってる』…?私、怒っているの?そうか、だから心はこんなにも大きくざわめいているのね。


20110316 みなさん、どうか猫の存在を忘れないでやってくださいね^q^笑