「…さっきからじーっと人の顔見てるけど、僕の顔に何か付いてる?」
「!あ、いえ!そ、そんなことは!」

き、気付かれてた!慌ててぶんぶんと手を振って否定するも、「ふうん?その割には随分見てきてたみただけど?」と悪戯っ子のような笑みを浮かべられる。ぜ、絶対最初から気付かれてた…!思わず全身がかあっと火がついたみたいに熱くなって慌てて言い訳を考えるも、完全に動揺しているからか全く浮かばない。え、いや、その、だとか、そんなたどたどしい言葉ばかり漏らしてしまう。

「うん。なあに?」

そんな反応が彼の好奇の縄に掛かってしまったのか、ずいっと顔を覗き込んではにやにやと笑っている。急に近くなった彼の顔を直視出来なくて、思わずぱっと目を逸らした。すると、なんで逸らしちゃうのさ・とまた意地悪気に言ってくるけれど、どうしてなんて聞かなくても分かっているに違いない。きっと面白がられている。
だから弱気だったり動揺した態度は見せちゃ駄目。そうしたらきっともっとからかわれる。そんなことは百も承知のはずなのに、いざ彼の目を見たらそれが出来ない。…う、うわ…っ!

「あの、ち、近…!近くないです、か…っ!」
「んー?そうかなあ」

そうです!と、声を大にして言い返してやりたい。だけど出来ない小心者の私。小心者というか、動揺しすぎなのかな。本当に急に、どうしちゃったんだろう、私。そんな私をじっと逸らすことなく視線を注ぐ彼をもう一度見たら問答無用で目が合って、また全身が熱くなった。

「──ふ、副長さんからのお呼び出し!だ、大丈夫だったのかなあって!お、思いまし、て…!それで、その…っ、!」
「…土方さんからの呼び出し?」

咄嗟に口から突いて出た誤魔化しはとても早口で、私の必死な心情を滲み出しているようだった。けれど沖田さんは「ふうん」と納得したようで、執拗に覗き込ませるように近かった顔もようやく離れてくれた。ほっと胸を撫で下ろすも、相変わらず鼓動は鳴り止まず、相変わらず五月蝿い。

「土方さんが用っていうのはね、大丈夫大丈夫。大した用件じゃなかったから。また勝手に句集がどうのって話だったし、君は気にしなくて大丈夫だよ」
「…く…クシュウ…?」
「そう。句集」

そうして「土方さんも、読まれるのが恥ずかしいなら俳句なんて書かなきゃ良いのにさ」、なんて面倒臭そうに沖田さん言っているところから推測するに…えっ?俳句をやっているのはもしかしてもしかすると、土方副長、さん!?え、嘘!

私も実際にお会いしたことないからなんとも言えないけれど、新選組副長土方歳三と言えば、冷血非道な鬼の副長だって聞く。そんな人が、俳句。なんだか全く想像がつかないというか、失礼を承知で言ってしまうと、正直釣り合わない気がする。予想外すぎる真実だ。「まあ土方さんなんかのことはともかくさ」話の切り出し方に毒が見えるのは気のせいかなあなんて思いながら、右隣を歩く沖田さんは続ける。

「良い人だったでしょう。近藤さん」

どこか嬉しそうに尋ねる沖田さんに、今度は私も素直に頷いた。新選組だとかお侍さんだとかそういうことがなしで、これは素直に思ったこと。すると沖田さんは、「そうでしょ!」と心底嬉しそうに笑うから、思わず心臓が高鳴った。「なら、きっとそう言ってくれるって思ったんだ。近藤さんはね、本当に凄い人なんだよ」そう珍しく口早に話す彼の目はキラキラと輝いていて、まるで夢を語る少年のように見える。…こんな顔も、するんだ。初めて、見た…。

「だから、どうしても君に会わせたかったんだ。…僕の大切な人のこと、知っておいて欲しくて」

…本当に近藤さんを慕っているんだなあ。まるで年の離れた兄弟みたい。だけど、どうして私を近藤さんに知っておいて貰う必要が…?彼にとっては大切な人というのは分かったけれど…。いまいち意味が分からずきょとんと首を傾げていると沖田さんは、「あのさ。君、意味分かってないでしょう」と苦笑した。

「そ、そんなことありませんよ…!えっと、つまり…沖田さんにとって近藤さんは大切な人で。だから猫友達?の私を、近藤さんに知っておいて貰いたかったってこと、ですよね…?」
「…………。それはそうだけど、今僕が言いたいことと違う。…君、いちいち主語を入れて話してあげないと分からないわけ?」
「え?な、何がですか?い、 言っている意味がいまいち分からないのですが…!」
「…さあね。教えてあげない。…自分で考えれば?」
「ええっ!?」

ここまで来てはぐらかされた!沖田さんはやっぱり分からない人。そして少しいじわるだ。そんな不機嫌になるくらいなら、教えてくれたって良いのに。「そうだけどそうじゃない」って、何?考えれば考えるほど全然分からない。そして分からなければ分からないほど気になってしまう。

「…あ、そうそう。賭けは僕の勝ちだよね?」

思い出したように唐突に言われた台詞に、また私は首を傾げるだけだった。賭け?なんのこと?沖田さんの言っていることが分からなくて「何がですか?」と正直に聞いてみることにする。すると彼は笑いながら「忘れちゃったの」と言ったから、ますます分からなかった。

「だから、君が屯所に来るか来ないかって話」
「屯所…?…あ!」

──『でも、君は僕に会いに来るよ。しかも今日。…断言する。なんなら賭けようか』

蘇るのは、数刻前に彼から言われたあの台詞。もしかして、このこと…?ていうか、きっとそうなんだろう、沖田さんは「その様子からすると思い出したみたいだね」と意地悪に笑っている。思い出した、というか、あれは賭けと言える代物だったのだろうか。確かに彼は「賭けようか」とは言っていたけれど、厳密には「賭ける」と断言してないし、そもそも私もそれを承諾してはいないのだから。

「あ、あんなの!か、賭けなんかじゃありません…!」
「さあて。負けたちゃんには何をしてもらおうかなあ」
「だ、だからですね…!」

ああもうこの人は。抗議の声も全く聞いちゃいない。…ま、まさか、これがしたかったがためにお財布を忘れたんですか!?「んー?何のこと?」沖田さんはそう言って、また口を三日月にしたご機嫌な笑みを見せた。ま…またはめられ、た!


20101108 「分からないから気になる」って、一体どちらのことを言っているんでしょうね。えへえへ!^q^←