本当に、どうしたら良いのだろう。 普段なら絶対縁の無いであろう場所に、遂に辿り着いてしまった。 絶対に行きません、そう川原で豪語していたときがもはや懐かしく思える。 あのとき沖田さんが自信満々にしていたのはこういうことだったのかと、半ば睨むように小さな巾着袋を見てやる。 それを見事に川原に置いて行ったのは、言うまでもなくあの人物だった。
「(本当にあの人は、何を、考えて……!)」
沖田さんの代わりに、あの川原に残されていた小さな巾着。 少し振ってやれば、独特な音がした。 まさか…と思って中身を確認したら…案の定、だ。 …大事な銭入れを置いていくなんて、私が気付いたから良かったものの、もしそのまま放置されていたらどうするつもりだったのだろう! しかし気付いてしまった以上、そのまま見過ごす訳にも行かない。 そのままにしていたら確実にスられてしまう。 かと言って私が預かるのも、どこか気が引ける気がする。 もし万が一本当にただ落としただけだったら、困るだろうし…。
そこで見回り中の隊士の人に頼もうと思ったものの、全く見当たらなかったのだから絶望だ。 仕方がないから屯所に直接行って、見張りの人にでも頼んでおこう。 そう考えていたのだけれど、その門構えには誰もいやしない。 いくら京都守護職お預かりの身とは言え、なんて無用心なのだろう。 ……ええと、ここは「すみません」と言って、誰かを呼ぶべきなのだろうか。 でもなんでお前が組長の銭入れを持っているんだと言われたら──
「新選組に何か用かね?」
「きゃあ!?」
後方から突然声を掛けられ、思わずびくんと肩を震わせる。 恐る恐る振り返ると、左腰に刀を2本差している殿方が立っていた。 てことはこの人も、お、お侍、さん…? するとその殿方はまさか驚かせるとは思ってもいなかったようで、申し訳なさそうな顔をした。 どうやらとても人情深い人のようだ。 「いやはや、申し訳ない。驚かす気はなかったのだが」 「い、いえ。大丈夫、です」 未だにばくばくと騒がしい胸を押さる。これは心臓に悪い。 もしかして私、小心者なのかな。 …あれ?新選組の屯所前で声を掛けられて、なおかつ刀を持ってるってことは、もしかして…。
「あ、あの、すみません!つかぬことをお伺いしますが、もしかして新選組の方…ですか!」
「え?あ、ああ。そうだが」
「良かったあ…!…あ、あの!私、沖田総司さんのお忘れ物を届けに来たんです。
お手数ですが、お渡ししておいて頂けませんか」
「忘れ物?」
「はい」
巾着を目の前に差し出せば、「ああ、確かに総司の銭入れだ」と納得した顔を見せた。 総司、と呼び捨てにしているところからみて、かなり親しい間柄なのだろう。 良かったあ。 ほっと一息ついていると、お侍さんは「もしかして総司の友人の方かな?」と笑った。 友人というよりただの猫仲間というか、顔見知りという間柄がしっくりくるような気がするけれど、ここで否定するのも違う気がするし、「ええまあ」と曖昧に濁す。 すると「そうかそうか」と嬉しそうに顔を綻ばせた。 (もしかして、沖田さんのお兄さんみたいな人なのかな。) …さて、用件は済んだことだし帰ろうか──
「…つかぬことをお聞きするが、もしかして君、かね」
「は」
あれ?え?なんで初対面のはずのお侍さんが私の名前を? きっとそんな顔をしていたのだろう。 彼は「やはりそうだったか!」と納得した様子だ。 え?え?な、なんだろうこの展開は。頭が付いていけないのだけれど、これは私だけ?
「お話は、いつも総司から聞いておりますぞ!」
「え?え?は、話?て?」
「そうだ。せっかく来たのだから、総司にも会ってやってくれ!きっと総司も喜ぶ!」
「ええ!?い、いえそんな。い、色々と忙しいでしょうし、遠慮しておきます!
(むしろつい先刻会ったばかりですとは言えない!何か誤解を生みそうで!)」
「そんな遠慮せずに!今日は非番のはずだから、きっと暇を持て余しているに違いない。
それに俺も以前から、君と会って話がしたいと思っていたのだよ!」
「(何この展開…!)」
100426 まあ局長がそんなホイホイ屯所内に入れちゃうくらい、沖田さんの友人(※近所の子ども以外で)は大変希少だということなのでしょう(←)