藤堂平助。中学3年生。夏。生まれて初めて告白して、生まれて初めて彼女ができた。ゆえに。

「(どうしたら良いのか全っ然分かんねーっ!)」

メールは毎日するもんなのか!?どれくらいの頻度で返信すれば!?そもそもそんな毎日メールするほどネタねえよ!俺ももそんなマメなタイプじゃねえし!ていうか毎日教室で顔合わせてるし!一方的に送りすぎたらウザく思われねえのかな…!勢い余ってメールするからって言っちまったけど!

タイミングも度胸も揃わず手も繋げなかった3時間前。夏祭り。あまつさえ目を見て話すことすら気恥ずかしくて、ずっと顔を逸らしたままだった。いつもなら賑わう屋台にはしゃいでいただろうに、の前でガキだと思われたくなくてらしくもなく我慢した。だけど格好良く振舞うことなんて出来なくて、「結構人いるなー」とか、そんなどうでもいいことを繰り返し話すことしか出来なかった俺を殴りたい。両想いの子と一緒に祭りに来て嬉しいはずなのに、なんだか情けなくなって無性に逃げ出したくなった。

「(…やっぱだめだよなあ…これじゃ…)」

しかし彼氏彼女って肩書きはどうもくすぐったい。多分誰かに言われたら恥ずかしさのあまり爆発するだろうなあ、俺。…て、それじゃ駄目だって!いい加減ガキ卒業しねえと!よし!…思い立ったらすぐ行動っていうのは俺の長所だと思う。まあ思い立つまでが長かったりするけど。結構無計画に突っ走って撃沈することもあるけど。

とりあえずにメールすっか!話題なんてまあどうにかなるだろ!考えすぎたら出来るもんも出来ねえって!さっきの祭りがどうのとか話せばいっか。よし!とりあえずアドレス帳開いてを探し出す。ほかに登録されてる奴らの名前で埋もれているはずなのに、の名前だけはすぐに見つけられるのはなんでだろう。

「(で、えーっと?メールだからー…って!?」

え、ちょっと待てよ何かおかしいこれ。なんで新規メール作成画面じゃなくて発信中とかそういう意味が分からない文字が表示されてるわけ!は?え!?だーもうケータイ変えたばっかだから分かんねえ!もしかしてもしかしなくても操作間違えた!?何!新規メールボタンてアドレス帳開いて真ん中の決定ボタンじゃねえの!?違うの!?だあああもう最近のケータイ訳分かんねえ!…って、今はそんなことどうでもいいよ!やっべえこれどうしよう!





。中学3年生。夏。これから受験が待っていると言う時期にだけれど、生まれて初めて告白をしたら告白されて、生まれて初めて彼氏ができました。だけど彼氏ってなんだっけ。よく分からない。両想い?になったあのときからなんだか妙にお互い意識してしまって、だからだろうか、前みたいにうまく話せない。前は何でも気軽に話せてたのになあ。

さっきも一緒に夏祭りに行ったのに、へいすけとなら絶対楽しいって思ったのに、全然楽しくなかった。変に緊張しちゃって、言いたいことも全然うまく話せなかった。なんだかすごくそわそわした。…よく分からないけど、これが付き合うっていうことなのかな。それともこれは私がおかしいの?…ああもう!よく分かんない!

ばふんっとベッドにうつ伏せにダイブしてみる。帰宅してすぐベッドに放り投げた鞄の中からケータイを取り出してみる。待ち受け画面を開いてみても、そこにはなんの変化もない。メールも着信もないまま、ただ画面右上の隅に表示されている時計は22時を指していた。

『あ、あのさ!メール!…するから!』

別れ際、そう頬を真っ赤に染め上げながら言ったへいすけの言葉が頭をよぎる。…メール、くれるんじゃなかったの。私、柄にもなく待ってたりするんだからね。待ちきれなくてセンターに問い合わせて見ても、案の定「新しいメールはありません」と返されてしまった。それとも別に今日じゃなくて明日の話だったのかな。それとも明後日。明々後日。

「(…へいすけのばかちん)」

期待させないでよね。そう溜息をついたまさにそのとき、突然ケータイが震え出すものだから思わず肩を振るわせてしまった。だけどすぐに「もしかして」と期待して即座にケータイを開いて確認する。…ら、思わず度肝を抜かれてしまった。だって、画面にはへいすけの名前が表示されているだけではない。CALLINGという文字も羅列されているんだもん。…え?え!これは!まさか!まさかの!

で、電話!着た!





やべええ!これどうしようどうしよう!き、切って良い?切って良いのか!?いやそれじゃただのイタ電じゃん!最悪だろそれ!でも心の準備してねえし!そもそも電話するつもりじゃなかったから、別に話題とかねえし!「で、何の用?」とか聞かれたら何も答えらんねえ!よく聞く「お前の声が聞きたくて」とかで誤魔化せってか?そんなこっぱずかしい台詞さらっと言えたら苦労しねえよ!

『…も、もしもし』

出た!出ちゃったよのやつ!なんで出ちゃうの!ていうかなんで電話するのに正座してんだ俺!さっきまでベッドで寝っ転がってたくせに!電話越しで聞くの声はやっぱりのもので、だけどなんとなくいつもと感じが違う気がして、ちょっと変な感じがした。うまく言えねえけど、そんな感じ。…って、もう通話が始まってるんだった!なんか!なんか会話しないと!(えーっと…!)

「別にさ、用事とかないんですけど、その…まあ、ほら。何やってんのかなーって、ほら。そんな感じ」
『そ、そっか…っ!』
「お、おう!」
『うん』

やっべえなんか変な汗かいてきた。これやっぱ緊張?柄にもなく緊張してんの俺?ていうか「ないんですけど」ってなんで敬語。なんか訳分かんねえもういっぱいいっぱいすぎる。…頼む!誰か!誰でも良いから!ライフカード用意して!もしくはオーディエンススタンバイして!!





へいすけなんか緊張してる?なんだか口調が変なんだけど。なんで敬語?まあ私もだから何も言えないけど…!いつもなら「なあに?緊張してるのへいすけ!」ってからかえたのかな。でも今それをやって良いの?だめなの?分からない。付き合うって一言で言ってるけど、具体的にはどうやって付き合うのかな。何をどうすれば付き合ってるっていうことになるのかな。どうやったらちゃんと私、へいすけの彼女になれるのかな。

…どうすれば胸張って「私はへいすけの彼女です」って言えるようになれるんだろう?きっと今私達のことをクラスメイトの誰かに知られて、「お前ら付き合ってんの?」って言われたら。多分、おそらく、絶対に、私達は顔を真っ赤にして否定してしまうんじゃないかな。恥ずかしさが先行して、お互いを傷付けてしまいそう。なんて不安定な私達。

「…でもさ、へいすけから電話してくれるなんて思ってなかった。びっくりした」
『な、なんだよ。電話しちゃわりーのかよ』
「別にそんなこと言ってないじゃん」
『そ…そ、か』
「うん…」

しんっと静まり返る。ケータイを押し当てる右耳からはへいすけの声は拾えなくて、ただただケータイ特有の、まるで空気が流れるようなサーッという小さな小さな音しか聞こえなかった。…どうしよう。何話せば良いんだろう。いつも賑やかな私達が珍しい。いつもならぽんぽん浮かぶ話題も今日ばかりはなかなか出てきてくれない。どうしよう。どうしよう。

『……あ、あの。さ』

困り果てていたところで、へいすけがなんとも言いづらそうに、むしろどこか照れたような声が細々と聞こえてきた。助かった!だけど何か話のネタでも振ってくれるのと期待して「なに」と簡潔に尋ねたら、『いやその』とごにょごにょ言ってくる。なんだかはっきりしないなあ。なあに。気になっちゃうじゃん。そう急かせばへいすけはなにやら覚悟を決めたのか、今度は『…あ、あのさ!』と大きな声で言い直した。

『俺、ガキだけど!落ち着いた大人の対応なんて出来ねえけど!だからちょっとしたことではしゃいじまったり、お前のこと傷付けたり幻滅させることもすっげえあると思うけど!ガッチガチに緊張して、今日みたいに全然うまく話せねえことのほうが多いかもしれないけど!でも俺のこと、誰よりぜってえ大事にすっから!それだけは約束すっから!』

きっと耳まで真っ赤にしてるのかな。何格好良い男ぶってんの。なにその格好良い台詞。らしくないよ。全然へいすけらしくない。そんなこと言われちゃったら私、嬉しくって泣いちゃうじゃない。口元は馬鹿みたいに緩んで、だけど胸は熱くなって。なんかもう訳が分からなくなっちゃうよ。どうしたら良いのか分からなくて、何も言えなくて。じっと黙り込んでいるとへいすけは心底恥ずかしがっているようで、『やっぱり今のなし』だとか意味不明なことを大声で言い出した。

『…て!いうか!だ、黙るのはなしだろ!こっちだってなあ!すっげえどきどきしたんだぞ!だからせめて何か反応しろよ!じゃなきゃ、こっちが恥ずかしくなってくるじゃんか…っ!』

そう慌てているへいすけの声がなんだかおかしくて、へいすけには悪いけれど、つい笑ってしまう。口ではごめんと言っているのに、笑ってしまう。きっとそれは通話電波に乗って、彼の耳にも入ったのだろう。何笑ってんだよと、少し不貞腐れたような声がした。だから私はまた言う。ごめんごめん。だけどやっぱり声は笑っているから、へいすけは『全然謝ってねえじゃん!』と突っ掛かってくる。

「だ、だって!へいすけ悪いんでしょ!なんか可愛いことやってくるから!」
『か、可愛いってんだよ!そんなこと言われても全然嬉しくねえし!』
「じゃあなんて言われたら嬉しいの」
『…えっ。……か、格好良い、とか…』

そんな恥ずかしそうに言う「格好良い人」がいるんだろうか。なんて突っ込みは言わないことにした。なんかごにょごにょ言ってるし。でも格好いいって言われたいなんて、やっぱりへいすけも男の子なんだなあ。…おとこのこ…。…えっなんだろう。やっと緊張が和らいだと思ったらまた意識し始めて、またどきどきし始めちゃう。…私こんな女の子女の子してたっけ?

何この無限ループ!






だあああ何言ってんの俺!何言ってんの!誰だよこんなライフカード用意したの!いや他でもない俺だけど!だけど何そんな本気で照れながら「お前に格好良いって言われたら嬉しいですテンション上がります」なんて暴露してんの馬鹿だろ俺!恥ずかし!めっちゃ恥ずかし!うわああやっちまったあああ!

「ごめん今の!今のなし!なしだからな!冗談だからな!」

いや本当は冗談なんかじゃないけど!本気と書いてマジの回答だったけど!でもそんなこと突っ込まれたら俺死んじゃうから!ていうか本当なに考えてんだよ数秒前の俺!馬鹿だろ!本気で馬鹿だろ!なに考えてんの!なんだか泣きそうになっていると、はまるで独り言のようにぼそぼそ言ってくる。だけどあまりにもボリュームが小さかったからまるで聞こえない。…え、なに?ごめん聞こえなかった。なに?

『…だ、だからあ…っ!………………か……かっこ、いいよ…っ』
「へ?」
『へ、へいすけは!か、かっこいいよ!て、言ったの!…も…っ!へいすけのくせに2回も言わせないでよねばかあっ!──おやすみっ!』

えっ何これこの急展開!ちょ、!もっと詳しく!と食いつこうとしたところで聞こえるのはじゃなくて電子の声。…何これ切れてんじゃん。…じゃねえか。が切ったのか。おやすみっつってたし。あーあ、会話終わっちゃった。やっと普通に話せる流れだったのに。ケータイを持ったままぽふんっとベッドに仰向けで倒れこむ。ぼーっと天井を眺めながら、さっきのの言葉を思い出した。

『へ、へいすけは!か、かっこいいよ!て、言ったの!』

…うわこれやっべー!まじきた!ぼんっと爆発するように体温が上昇する。この現状をどう収拾したら良いのか全く分からなくて、「うーあーっ!」とか訳の分からない奇声を発しながらごろごろと凄い速さでベッドの上を転がり回る。だけどその間ものどこか恥ずかしそうな声が今も耳の奥で木霊して離れない。

「(どうしようまじやべえ!すっげえ可愛い!やっぱ俺のことだいすきだ!)」

だから今度は俺が、あいつのこと可愛いって言ってやるんだ!





コーリングミ



20110427 へいすけくんは悩んで悩んで最終的には「うわーっ!(ゴロンゴロン!)」ってしてそうです^q^(日本語でおk)