平助中学2年生(去年)、冬。



「何そわそわしちゃってんの、子どもみたい」

そう半ば呆れたように言ってくるに思わず「ガキじゃねえよ!」なんて反射的にすぐに言い返したけれど、あまりにもずばり言い当てられた俺は内心動揺していた。だって。だって。友チョコだなんだとはしゃぐ女子には無縁の話かもしれないけど、バレンタインって言ったらやっぱり男子はちょっと期待しちゃうもんなんだよ!義理でもなんでも良いから、すきな子から貰えないかなーなんて思っちゃってんの!悪いか!だからも誰かにあげんのか気になってんだよ子どもみたいにさせてるのはどこの誰だ!…と、言ってやりたいけれど言える訳もない。

は朝からずっと女子同士のチョコの交換をしているらしい。なんとなく甘い香りを見に纏っている気がする。ちくしょう、女子は良いよな。気軽にチョコちょうだいなんて言い合えて。俺にものチョコくれ。分けてくれ。

なんでだろう。いつも馬鹿みたいなことで笑って、話して、喧嘩して、そのときはこんな緊張しないのに、なんでこういう日に限って落ち着かないんだろう。いや、こういう日だから落ち着かないのかな。分かんねえけど。もしが男にチョコあげてたらって考えたら気が気じゃない。だけど「他の男にやるな!」なんて絶対に言えない。だって俺別にあいつの彼氏とかじゃねえし!でもこんなことやってる間にやってたらどうしよう!しかも本命!…無理!俺無理!死ぬってまじ!

すきな子のしあわせ願えるほど俺大人じゃねえもん!すきな子には俺としあわせになってくれなきゃやだし!…あっ、だからにガキだって言われんのかな。いや中学生って普通に考えてガキだろ!?それともって年上が好みとかそういうことなのかな…。…としうえ…。え、左之さん、とか…?うわああいうタイプすきそう!うわ2人絶対会わせらんねえ!いや絶対会わせねえけど!頑固阻止!いや左之さんも中坊になんて手出さないのは分かってるけどそういうんじゃなくて、俺が嫌なの!

「俺、絶対やだからなっ!」
「?何が?」
「え、(しまった!)あのその、えーっと…。……。あっ!ガ、ガキじゃねえからな!的な!」
「…まだ気にしてたんだ」

いや勿論気にしてたのは事実だけどそうじゃなくて…まあ誤魔化せたから良いけど!「それでその…へーすけは、えっと…貰ったの?」は?何が?目的語が入ってないから何のことやらさっぱりだ。きょとんと首を傾げるとは、「だ、だからあ!そ、その…」と語尾をごにょごにょと誤魔化して、何やら言いにくそうに口を開いた。

「ほら、その……チョコ、とか。貰った?って、話…!」
「えっ!」

何こいつ俺の心読んだの!?「うわこいつどんだけ私のチョコ欲しいわけ」とか思っちゃったりしちゃったの!?まさか本人からそんな話題が出てくるとは思わなくて、俺は思わずガチンと全身凍りつく。どうしようどうしよう、どうやって誤魔化そう、どうやって冷静を装おう、なんてぐるぐると頭をフル回転させるけど、一向に案は浮かばない。ちっくしょー!なんて思いながら、「べ、別に、どうだって良いじゃん」と素っ気なく返すことしか出来なかった。(うわああ俺の馬鹿!もっとこう、会話を弾ませるとか!いやでも今日は日が日なだけに、なんかいつも以上に意識して普段どおりに話出来ねえ…!)

「えっ!?もしかして、貰ったの?本当に!?」
「…えっ」

え、食いつかれた!しかもどうしよう誤解された!?…よなこれ!まじで!?…あ、でもこれ男子として見栄張りたいんだけど。ていうか女子って、バレンタインにチョコ1つも貰えない男子のことどう思うんだろう。可哀想ーとか言ってクスクス笑っているんだろうか。いや男子を可哀想にしているのは、友チョコに走るお前らだから!と盛大に突っ込んでやりたいけど今はそれ置いといて。…え、これどうなんだろう。素直に貰ってないって答えるべき?それとも見栄張るべき?

「…………………………………」

ていうかもさ、いつもみたいに「うっそだー、へーすけがそんな」とか茶化して来いよ。そしたら『うっさいなー』なんて笑って返すから。なんでこんなときに限ってお前真剣な目してるわけ。なんで俺じゃなくてお前が泣きそうな顔してるんだよ!そ、そんな顔されたら!

「う、嘘嘘嘘!も、貰えるわけねえじゃん俺が!」

…し、しまった!…気が付いたら手を大袈裟に振って全否定していた自分を殴りたい。お前は男としてのプライドはないのか!そうガツンと言ってやりたい。いやだって、あのなんとも言えない空気の中、嘘をつけられるか!?そうもう1人の俺が言っている気がした。いや分かるよ、すげえ分かる。分かるけどさ。すきな子の前では少しでも見栄を張りたいというか、格好つけたいという男心も少しは尊重してほしい。…どうせ「まあへいすけはお子様だし、そうだよね!」なんて馬鹿にされるんだろうなあ。うわあ確かにそのとおりだけど、お前にそう言われるとダメージが半端なくて、

「!ほ、ほんと?ほんとのほんとに!?」

だから何喜んでんの!人の不幸は蜜の味ってやつなのだろうか。からかいはしてこないようだけど、ぱああっと明るい花が飛んでいるように嬉しそうなに、やっぱり見栄張るんだったと全力で後悔した。…あーもーっ!「…こ、こんなこと嘘言ってどうすんだよ!あーそうだよ!どーせ貰ってないよ!悪かったな!」「だよね!そうだよね!うん、そうだね!へーすけだもんね!」だからそんなテンション高々と嬉しそうに肯定しないでくれ!笑う顔が見れたことは嬉しいけど、理由が理由なだけに素直に喜べないんだけど。これなんて複雑な男心。

「…じゃ、じゃあ!……しょ、しょうがないなあ。…そんな可哀想なへーすけに、その…えっと…こ、これ!…恵んであげる」

恵み?いまいちよく分からなくてきょとんとしていたけれど、差し出されたものを見て理解した。…えっと、俺はあまりに欲しがるあまり幻覚を見てんのかな。思わず目を擦ってしまう。だってなんで綺麗にラッピングされた小さな袋が目に前にあるの。赤と白の2本のリボンで結ばれている透明な袋。中にチョコケーキと思われるものが紙トレーに乗っている。あ。なんかトレーの下に、こう…ふわふわーってしてる紙の何かが入ってるし(これなんて言うんだろう)、リボンもくるくるーって巻いてある。なんか色々おしゃれで売ってるやつみてえ…って!?これ俺に!?

「えっ!あの、!これ!まじ!まじで俺にくれるの!?まじで!」
「え?あ、あの、その!…た、たまたま!1個余っちゃって!折角作ったのに勿体無いって、こ、困ってたとこだし!それにほら、バレンタインにチョコ1つも貰えないへーすけが可哀想だから、あ、あげる…っ!」

つまりは友チョコのお零れってことだな!でもそれでも十分だ。すげえ嬉しい!やった!やった!まさか本当に貰えるとは思わなかった!ていうかこれ、話の流れから言って手作り?もしかして手作りなのかな!そういえばそんなことをさっき友達と話してるを見た気がする。うわまじで!うーわー!の手作りチョコケーキ!…と、流石に口にはしないものの、あまりに俺が喜んでいるオーラを放っていたからだろうか。それとも受け取ったケーキを逸らすことなく凝視しているからだろうか。なんとなく気まずくなったらしいは、「…あの!口に合うかは分かんないよ!?」と慌てた様子で言ってくる。いやいやいや、何言ったんだよ!

「そんなことないって!が作ったんなら絶対おいしいに決まってんじゃん!うわー!…!ありがとなー!」

嬉しくて嬉しくて嬉しくて、思わず満面の笑みが零れ来てしまった。…あっやば!あまりにも嬉しがってるって分かってしまうだろうか。またガキだって思われてしまうだろうか。でもしょうがねえじゃん嬉しいもんは嬉しいんだから!するとあまりの俺の喜びようからかは心底驚いた様子で、少しおどおどしながら「だ…っ!……っ、だからへーすけは子どもなの…っ!」と言う。うん、もう子どもだってなんだって良いよ!俺これ食えるかな!嬉しすぎて食えねえ自信がある!




棚からチョコレイゐト




20110206 「まさに棚から牡丹餅的な展開でした」(へいすけくん談)