「…そういや今日さ!祭りあるんだって!」
まだ猛暑が残る放課後、唐突に声を掛けた話題は、本当に突拍子なものだったと思う。しかし声を掛けられたは驚いた様子もなく、「そうみたいだね、クラスの子が言ってた。町内会のだっけ?」とあっけらかんと言ってのけた。多分また俺のことはしゃいでるガキみたいとか思ってるんだろうなと考えて悔しくなる。
だけど今の俺は好きな子と一緒に祭りを見に行きたくて、だけどその内心は悟られたくなくて、だから必死になってただ祭りがすきなガキを演じるんだ。俺はただの祭りにはさほど興味はない。だけどとの祭りならすごく魅力的に思えるし、すげえ行きたいって思う。
だから例え補習があったって、友達から新しいゲームやらないかって誘われたって、どんな用事があったって、全てを放り出して行きたいんだ。いや、補習サボったら流石に怒られるだろうけど、要するに俺は好きな子のことに夢中になっている、ただのガキだった。
だから返ってきた反応が小さかったりそっけなかったら凹むし、逆に食い付いてきてくれたら凄く嬉しい。一喜一憂して振り回されてるなんて百も承知のことだった。だから返事があったら何が何でも反応するし、俺と話すの楽しいって思ってほしいから、出来るだけ声を弾ませて明るく振る舞うように努めるのはもはやオプションだった。
「そ、そうそう!それそれー!…はさ、やっぱ誰かと行くの?」
「別に、予定はないなあ」
「そ、そか!」
…他の奴と約束はしてないのか。よし、とりあえずは一安心だ。でもさっき友達から祭りの話をしたって言ってたけど、そのとき一緒に行こうって展開にはならなかったのかな。もしかして、今日何か予定があるとか。そういえばこいつ塾に通ってたっけ。それとも祭り自体に興味ないのだろうか、確かに町内会主催の小さいもんだし…。
…げ。そしたら一緒に行こううんぬんの話じゃねえじゃん!いやだから、もうここまできたら当たって砕けろだろ!ほら早く言わねえと会話終了と思われんぞ藤堂平助!祭り一緒に行かないかって言うだけじゃん!別に告白しろとかそういうんじゃないし!うん、それに比べたら簡単じゃん!よし一緒に祭り行こうぜ、2人で!一緒に祭り行こうぜ、2人で!…よし、行け俺!
「だ、だったらさ、祭り一緒に行こうぜ!………………………み、皆で!」
…やっちまった。違うだろ!「2人で」だろ俺!そもそも2人きりで行きたくて声掛けたのに、まさかの複数かよ!何やってんの俺!言い切った瞬間急激に恥ずかしくなったとか何!いくらじっと見つめられたからって!(いや、からしたらただ見てただけなんだろうけど!)今時小学生だって祭りくらい余裕で誘えるって!ああああ、と頭を抱え込みそうになりながら、張りつけた笑顔を崩さないよう必死だった。頼むから断わんないでくれよと願っていると、はそれに気付かなかったらしく、特に怪しむ素振りを見せず口を開いた。
「…皆って、誰?」
「え!?えーっと…!」
あれっ!これって食い付いた?ちょっとは興味持ってくれた?と、思って良いの…?……よしっ!と隠れて小さくガッツポーズする。…て、ちょっと待て。他のメンバーのこと考えてなかった。あれはとっさに出た出任せみたいなものだったから。つまりは勢いに任せて言ってしまったことで、実際本当に他の奴らと一緒に行くわけじゃない。でも言ってしまった手前、今更「いません」というのも…。ああああ何やってんだよ俺!と、とりあえず適当に誤魔化そう!て、適当…てきとう…。あああ駄目だ良案浮かばねー!ええと!えええええっとおおお!
「……ほ、他の奴らはこれから誘うとこなんだけど!えーっと…あ、ほら、総司とかさ!あとは…ええと…て、適当にクラスの奴誘ったり!な、なんならも他に行きたい奴いたら誘っても!」
「じゃ、まだ誰にも声は掛けてないってこと?」
…うっ!…そ、そのとおりです。元気なくこくりと頷いて肯定する。…痛いとこついてくるよなあ…。やっぱもう無理かなあ、今もう放課後で、この教室には俺ら以外いないし…。(まあ、だから声掛けられたっていうのもあるんだけど!)もともととは喧嘩友達で、会えばすぐ口喧嘩しちゃうし。いっつもガキって言われてるし。でも俺は一緒に祭り行きたい!と行けるなら、他の奴も一緒でも良いから!ガキって思われてももう良いから──
「…やだ」
…えっ、もしかして俺断わられた!?がーんと衝撃を受けつつも、ここで諦めちゃだめだと必死に食らい付く。あれ?しつこい男は嫌われるんだっけ?でもそんなこと言ってらんねえじゃん!もうここまで来たら行くしかねえだろ!頑張れ俺!
「で、でもほら!俺ら受験で、祭りだなんだって行事もあと少ないわけだし!絶対楽しいって!も皆でわいわいやんのすきだろ!?」
「…だっ、だから、い、嫌なの…!」
嫌?嫌って…え、もしかして俺嫌われてる!?祭りは好きだけど、俺と一緒に行くのは嫌ってそういうこと!?そう理解した瞬間、ゴーンと頭に石が落ちてきた。ような気がした。頭が真っ白になる。想いを寄せてる子に嫌われてるって。何これ?しかし拒絶されてしまっては、もはや何も言えない。やたら喉が乾く。
「…あ、そっか…」
細々とした声。さっきの勢いが嘘のようだ。ひょろひょろと自信なさげに俯く。…早くここから離れたい。なんだか泣きそうだ。なっさけねえなあ俺。やっぱりは俺なんか興味ないのかな。ガキみたいで落ち着きがない奴じゃ駄目なのかな。なんだかマイナスなことばかり浮かんできてしまう。
「わ、分かった!なんか時間取らせちゃってごめんな!」
そう言って笑ったつもりなのだけれど、なんだか顔が引き攣ってしまう。絶対変な顔になってるよ俺。うわあ、最後の最後まで格好悪りい。こんな俺を見られたくなくて、そそくさと立ち去ろうと背中を向けた瞬間、背後から「…だ、だからあ!」とが声を上げた。その口ぶりは、まるで分かってないと言わんばかりものだった。
「へ、へーすけと2人きりじゃなきゃ、い、行かない…っ!て!い、言ってる、の!」
「…へ、」
びっくりして振り返ると、そこには耳まで真っ赤にしているがいた。目が合うとぱっと顔を逸らせ、恥ずかしそうにしている。何も無い床をじっと眺め、どこか落ち着きのない様子だった。
…え、へーすけって誰だっけ。え、俺?え、俺とじゃなきゃ祭りに行きたくないって。え、何。また俺のことからかってんの?本気にして馬鹿じゃないのって、やっぱりへーすけは子どもだねって、また言ってくるのだろうか。だったら早くそう言ってくれ、俺は馬鹿なガキだから、きっと本気にしてしまう。証拠にほら、またどきどきしてる。
だけどは相変わらずそわそわしたまま顔を赤めているから、遂に俺は全身がかーっと熱くなる。向かい合っている2人とも顔を真っ赤に染め上げてるだなんて、中3にもなって何やってんだと左之さんがいたらきっと言っていることだろう。でも俺はガキだから、すきな子にそんなこと言われて平然としていられないんだ。急に喉が渇いてきて、声が擦れる。
「…そ、それは、お、俺がお前のことすきって知ってて、言ってる、わけ」
どぎまぎしててぎこちない。だけど言ってしまいたかった。俺はガキだからストレートに「すきだ!」なんて漫画やドラマみたいには言えない。格好良く振る舞うなんて出来やしない。だからは俺のことガキっていう。確かに俺は総司みたいに客観的な立ち位置にはいられないし、一くんみたいに大人な考えも出来ない。だからすきな子には全力ですきになってしまう。抑えることなんて出来なくて、総司には「分かりやすすぎ」なんて言われてる。多分クラスの奴らもそう思ってるに違いない。だからもきっと気付いてるはずだった。俺がをすきっていうこと。
それを知った上で一緒に、しかも2人だけで祭りに行きたいと言うなんて、期待しないほうが嘘だ。一方の彼女はまさかそんなこと聞かれるなんて思ってもいなかったんだろう、また耳まで朱色に染め上げた後、意を決したように必死な声で叫ぶように口を開く。
「…バっ、バレバレだばかへーすけ!わ、私だってだいすきなんだからっ!」
そう言い切った瞬間、は廊下に飛び出し一目散に走り去ってしまう。きっと昇降口に向かっているのだろう。…ていうか、やっぱりばれてた。つかだいすきって。だいすきって。現状を理解するより先に、慌ててを追い掛ける。だって俺もすきなんだ、だいすきなんだよ!言い逃げなんかさせてたまるか!
「っ、!待てよ!」
「待たないいいいいっ!」
「俺もお前がすきだ!だから祭り一緒に行こう!」
「ろっ、廊下で恥ずかしいこと言わないでよばかあ!だからへーすけは子どもなの!ていうか追って来ないでえええ!」
「お前が逃げるからだろ!」
「へーすけが追って来るから止まるに止まれないんでしょーっ!」
20100826(へいすけくんは、彼女のことがだいすきすぎて不器用になっちゃうけど、超ぴゅあぴゅあな恋愛してほしいな!って思います!)