「そういえば斎藤さん。なんか新選組内で、私と沖田さんの噂が広まってるって聞いたんですけど」
「!??ゴホッ!ゴホゴホ…ッ!」
「さ、斎藤さん!?だ、大丈夫ですか!」

突然のの発言に思わず盛大にむせ返ってしまうと、は慌てたように俺の背中をさすった。落ち着いてから、「大丈夫だ、大事無い。少し咳き込んでしまっただけだ」と言うと、彼女は「確かに風邪引きやすい季節ですもんねえ」と納得していた。…ひ、膝枕の件と言い、彼女の突拍子の無い発言は相変わらず健在のようだった。(も、勿論、ひ、膝枕は頑固断ったのだが…っ!)

「……し、しかしあんた…知っていたのか」
「?何をですか?」
「だからその…う、噂、を…」
「…ああ!はい!沖田さんから聞きました!」
「(………………そうじ…)」

やはりあのとき殴っておくべきだった。むしろ局中法度がなければ本気で殴っていたに違いない。(まあ噂を流した張本人ではないらしいのだが。)…きっと総司は、噂で動揺していた俺を隠れて笑っていたに違いない。楽しんでいる様がありありと想像出来てしまう。

「…それでですね、えっと…」
「…!」
「えっ?あ、はい!」

突然呼ばれて驚いたのか、彼女はびくりと肩を振るわせる。…言葉を被せるようなことになって申し訳ないが、あなたの話は後で聞く。必ず聞くから、まずは俺の話を聞いてはくれないか。俺は、勢いに任せて聞くしか術を持たないのだから。

「あんたは、その…」
「…はい」
「………っ!……………なんでもない」
「えー!」

ちゃんと言って下さいよ、気になるじゃないですか!そう好奇心旺盛な子どものように駄々をこねるを直視出来ず、視線を逸らせて誤魔化すしかない。しかし「あんたは総司のことをどう思っている」など、聞いてどうするのだ俺は。…そもそも彼女がじっと俺を見ていることに緊張して聞くのをやめたなど、口がせけても言えやしない。…一向に口を割らない俺にこれ以上何を言っても無駄だと思ったのか、は「もー…それじゃあ私も聞きますけど」と、先程俺が中断させてしまった話の続きであろうことを続けた。

「私が沖田さんと噂になって、なんか嫌だなって、ちょっとは思ったりしました?」
「!?いや、そ、それは、その…!」
「…ほら!その…やきもちとか!」
「な!?」

や、やきもち…?つまり…嫉妬…?俺は、と恋仲と思われていた総司に嫉妬していたのか?だからあんなにも動揺して…!?『(…………なぜ噂の相手が俺ではなく、総司…)』あのときはぐるぐると黒く渦巻く感情が訳も分からず精神を乱していたが、あれは、そういう…?俺は嫉妬していたのか?そう結論に至った瞬間、何かがすっと溶けていったような気がした。…だからこそ、じっと目を逸らすことなく返答を待っているに聞いてみたくなったのかもしれない。

『もし僕がちゃんのことをすきだって言ったら、どうするの?』

そう真顔で総司に聞かれたとき、生きた心地がしなかった。もしそうだったなら俺はきっと敵わない。敵うはずがないと瞬間的に思ったのだ。…俺は口がうまいわけでもない。冗談など言ったこともない。故にを楽しませることなど、俺にはきっと出来はしない。

「……あんたはその…総司のことを、どう思う…?」
「え?沖田さん?」
「や、やはり何でもない…!気にしないでくれむしろ忘れろ!」

しかし彼女本人は聞き流すつもりは毛頭ないらしく、うーんと考えた素振りを見せた後、「確かに沖田さんは良い人だし、一緒にいて楽しいですけど…」と紡ぎ始める。…一緒にいて、楽しい。その言葉が胸の奥に引っかかり、俺はただ無言でいることしか出来ない。それに気付いたのか、彼女は慌てて訂正を加えた。

「…あっ!で、でも私、斎藤さん以外の男の人には一切興味ありませんよ!そこだけは勘違いしないでくださいね!ねっ!?ね!?」
「!あ、ああ…!」

なんだか必死そうにしがみつくに後押しされつつも頷くと、彼女は一安心したように「じゃあ良かった」とほにゃりと笑った。それからは、まるで話は終わったかのようにお互い何も言わず、相変わらず小さな石段に腰掛けたまま、ぼんやりと空を眺める。今日は雲がない。するとまた唐突にが口をぽつりと開いた。

「…私、斎藤さんと噂になりたかったなあ」

そしたらすごーく幸せだったのに。そう呟くように言ったに思わず目を見張った。すると彼女はそんな俺の様子を見、「…あっ!斎藤さんは、私と噂になったら迷惑ですか?」なんてとんでもないことをけろっと聞いてきた。…これを動揺せずにどう対応しろと。「それはその」と思わずしどろもどろになっていたら、は真面目な顔をして相槌を打った。どうやら答えるまで引き下がるつもりは毛頭ないらしい。………っ!

「……お、俺はその…め、迷惑ということ、は…その…な………ない、…っ」
「本当に!」

途端に、ぱああっと明るい花が咲き乱れる笑顔に思わず目を逸らした。ま、眩しい。なのに彼女はすかさずそれを覗き込もうとするからタチが悪い。しかしそれを知ってか知らずか、相変わらず誰がみても上機嫌な顔で嬉しそうに俺の名を呼び続けている。

「斎藤さん。斎藤さん」
「…なんだ」
「いっそ本当に噂流しちゃいませんか!…ほらっ!こうしてれば恋仲に見えるでしょ?」

そう言って彼女はぎゅうううっと己を俺の左腕に絡ませて頭を肩に寄り掛けてきた。あまりに近いその距離に思わず全身が熱くなる。な、何!何を…っ!今日はこんなにも暑かったろうか。俺はどうにかなってしまうのではないかとガチンと凍りついて動かない俺に、彼女は小さく笑った。「…なあんて、ちょっと私、調子に乗りすぎちゃいましたね。…安心してください、冗談ですよ!いくらなんでも、お仕事に支障が出ちゃいそうですしね!タイチョウさん?だし」「あ、ああ…」するっと腕を離したは笑っているが、俺は相変わらず鼓動が速いまま、落ち着かない。

『こうしてれば恋仲に見えるでしょ?』

恋仲。俺と、が。今周りの人間から見たら、一瞬でもそう見えたのだろうか。まあ今の壬生寺は人の気配すらないから、もこんな冗談が出来たんだろうが。…冗談。そうか、冗談か。俺としたことがすっかり本気にしてしまった。

「まあ出来ることなら私は、噂じゃなくて、本当に斎藤さんの恋人になりたいんですけどね!」

…っ、だからあんたはそういう…っ!



▼おまけ(その後の新選組の内情)
「いやあ。あのときの一くん、凄かったんですよー。俺の女は俺が守るーとか言って、それはもう。僕を斬り殺す勢いでしたよいやあ凄かったなー」
「ははあ!あの斎藤くんがなあ」
「あのときの一くん、近藤さんにも見せてあげたかったなあ」
「うむうむ!しかし総司も大人になったなあ。友人のために自ら身を引くとは。なかなか出来ることじゃあないぞ!」
「ありがとうございます近藤さん。…ほら、一くんがあまりにもベタ惚れみたいですから?もうべったべたにこっちが痒くなっちゃうくらい彼女の事がだいすきみたいですから?しょうがないから身を引いてあげたんですよ。もう本当に腹抱えて笑いたいくらい夢中みたいなんで。いやあ、まーさか、かの三番隊組長の斎藤一くんがねー!」


「(おい!今度は奪略愛らしいぞ!沖田組長の女を、斎藤組長が俺の女に手を出すなと言い放って奪ったんだとか!そして斎藤組長はその女のことを、それはそれは溺愛しているらしい!)」
「(なんだって!本当か!)」
「(沖田組長が言っていたのだから間違いない!)」
「(だからお2人の仲はあんなにも険悪なのか…!)」
「(ははあ、どうりで!納得だ!)」


「おい総司あんたは一体何を!?」
「何?僕は嘘は言ってないよ?ただ、聞いてくる隊士にはことの詳細を親切丁寧に教えてあげているだけで」
「だからそれが余計なことだと!」
「おいてめえら!隊内の風紀を乱すんじゃねえ!」


翌日、副長の手によって、新選組には「噂話厳禁」という厳しい法度が追加されましたとさ★^q^





風の声を聞く



「例えそうだったとしても、俺が彼女を守りたいと思う理由に変わりはない」




20101219 拍手でちらっと投下しておいた沖田さんとの噂ネタでしたー^q^そしてタイトル後の台詞は沖田さんを噴かせた斎藤の台詞(…)