「えっ!斎藤さん、風邪引いちゃったんですか!?」

びっくりして思わず大声を出してしまう私とは対照的に、沖田さんは「うんそうなんだ」と落ち着いた様子で言った。でも斎藤さんが体調を崩すって、想像出来ない。いや、実際そうなってしまったのだけれど、そもそも彼は普段、健康管理や食事には人一倍気を使っている人のはず。なのに風邪って、どうしたのだろう。

「まあ最近随分涼しくなったからね、そのせいじゃない?」
「そうですね…でも、斎藤さんらしくないというか…。……あっ」

心当たりがあった。ひとつだけ。そしてもしもそれが原因ならば、確実に私のせいだ。ううん、きっと「もしも」じゃなくて、多分あれのせいで斎藤さんは体調を崩してしまったのだ。間違いない。だって斎藤さんが季節の変わり目だから風邪を引くなんて、あまりにもらしくないから。そう結論づいてからは早かった。

「…あ、あの!沖田さん!私、斎藤さんのお見舞いに行きたいです!」

真面目な顔でそう伝えたら、沖田さんはきょとんとした。シンセングミの屯所なんて、そうホイホイ行って良いものじゃないし、行くべきじゃない。そんなこと分かってる。だけど黙って斎藤さんの回復を待っているなんて出来なかった。だって、私のせいで斎藤さんは風邪を引いてしまったんだ。何か私に出来ることがあるなら、今すぐにしてあげたい。でも実際、「行って何が出来るのか」と聞かれてしまったら、ぐうの字も出ない。だけど、でも、あの…な、なんていうのかなあ。うまく言えないんだけど!

「斎藤さんに、会いたいんです!」





…我儘…聞いてもらっちゃった。まさか本当に聞いてくれるとは思わなかったけれど。沖田さんを見ると、「じゃあ僕は廊下にいるから」とだけ言って、そのとおりの部屋から少し離れたところに腰掛けた。多分見張り的なことをしてくれるつもりなのだろうか。ありがたいけど、本当に良いのかな、私なんかがホイホイ屯所に入っちゃって。…まあ斎藤さんの部屋の前まで来ておいていう台詞じゃないけれど。しかしここはご好意に甘えることにしよう。意を決して、そっと襖に手を掛けた。

初めて見る斎藤さんの部屋は予想以上に殺風景で、目に入る大きな物と言ったら文机と…なんていうんだっけ。私の時代でいう電気の役割してる…えっと、あんどん?(だっけ?)くらいしかなかった。だからかその中央に敷かれた布団の上で寝ている斎藤さんをすぐに見つけることが出来たけれど、なんだかぽつんとしていてひどく寂しそうに見える。

声にならないほど小さな声で「失礼、しまーす…」と言った後、そっと部屋へ足を踏み入れる。そうして出来るだけ静かに襖を閉めて寝ている彼の横に正座してみたものの、なんだか斎藤さん、とっても苦しそう。やっぱり風邪、酷いんだ。

ふと、額に乗っている手拭いを見やる。…もしかして、替えたほうが良いのかな。そっと手にとってみると、やっぱり温くなっていた。この時代にも冷えピタとかあったら良かったのになあ。まあそんなこと言ってもどうしようもないけれど。とりあえず枕元にあったひんやり冷えた水桶でじゃぶじゃぶと濡らして冷やすことにする。そして出来るだけ固く絞ってまた額に乗せると、どうやら目を覚まさせてしまったらしい。斎藤さんの、熱でぼんやりとした瞳が私を捕らえた。

「あ、斎藤さん。起こしちゃってすみません。お見舞いに来たんですけど…具合、どうですか?」

ぴょこっと顔を覗き込むように言うと、「ああ…」と返事になってるんだかなってないんだかよく分からないことを言って、またぼーっとした。寝起きということもあってか、なんだか声が少し幼く聞こえる。それにしてもまだぼんやりしているようだし、やっぱりまだ辛いのかな。…こういうときは寝るのが一番なのに、それを邪魔してしまうことなんて、なんだか申し訳ない。あ、そうだ。申し訳ないと言えば。

「それで、その…私のせいで風邪引かせてしまって、すいませんでした」
「……別にお前のせいじゃない」
「で、でも、私が襟巻き借りちゃったから体を冷やしちゃったんだと!それに外で長い間引き止めちゃったから…」
「……違うと言っているだろう、俺はたったそんなことで風邪を引くほどヤワじゃない」
「でも、体調崩したのは事実ですし」
「……………………」

あれ。私余計なこと言っちゃった?なんだか斎藤さん拗ねちゃったみたい。俺はそんな体弱くない!って言ってたのに、それをまるっと全否定しちゃったんだもんなあ。でも斎藤さん細いし、いくらシンセングミの三番隊?の隊長さんって言っても心配だ。色白いし。…て言ったらなんだか更に怒られそうだから流石に言わないけれど。

ふと斎藤さんを見てみると、熱に苦しめられているからか、髪が少し湿っているように見える。わ、すごい汗。…そんなに熱、ひどいのかな。そっと頬に手を伸ばすと、すぐに手のひらがぽかぽかと温かくなった。…こんなに酷かったなんて。どうりで息も荒いはずだ。「…斎藤さん…」なんだか本当に申し訳なくなってきて、小さく名前を呼ぶ。なんだか弱々しい声になってしまった。なんとなく内情を察したらしい斎藤さんは、「……先程石田散薬を飲んだ。……すぐ治る」と言ってくれたけど。

私にはイシダサンヤクとやらが何のことだかさっぱり分からないけど、「飲んだ」って言っているし、話の流れからして、多分お薬のことなんだろうなってことはうっすらとだけど予想がつく。だけどこれだけの高熱がすぐに下がるなんて思えない。平成の時代ならともかく。そもそも平成でも風邪で2、3日寝込むこともあるくらいだし。…どうにかして、少しだけでも楽にしてあげる方法ってないのかな。

「…あっ!斎藤さん!風邪は、誰かにうつすと良くなるって聞いた事があります!だから私にうつしてください!」
「……どうやって」

それを私に聞かれても。そもそも風邪って、どうやってうつるもんなんだろう。ええっと、ええっと…。あ、風邪引いた人が食べたものをそのまま食べちゃ駄目って言うよね!そんな感じで…って、駄目だ。食べ物なんてないし、そもそもさっき薬飲んだって言ってたから、もう食べちゃったんだろうな。うーん…じゃあ、えっと、えっと…!

「…うーん……あっ!口移し!とか!………」
「…………………」

それまでじっと私に注がれていた瞳が、そっと天井を見上げ、逸らされた。何やら考えているようにも見える。あれ・もしかして馬鹿だこいつって思われちゃった、とか…?で、引かれた、とか…?…そ、そういえば斎藤さんて冗談通じないんだった!…なんだかもう、さあっと全身の血が引いた気がした。斎藤さんは何も言わないけど、なんか凄いレッテル貼られた気がする。…やってしまった。違います斎藤さん!今のは、ぱっと思いついたのをそのまま口にしちゃっただけで!(だからお願い引いてないでこっち見て!)

「…なっ、なあんて!」

じょうだんですよ、じょうだん。ほんきにしました?そうからかい口調でつけたそうとしたのに、斎藤さんの熱い左手が今度は私の頬に添えられたから、驚きのあまり言葉は逃げていった。私を真っ直ぐに見上げる瞳に吸い込まれそうになる。

え?え?え?何この雰囲気。少女漫画みたいなことになってるけど、え?え?何?からかってるの?仕返し的な?だけど斎藤さんはそんなことする人じゃないし、むしろ真面目すぎて、冗談を言いたくても全く言えないタイプだ。そのことは私も十分知っている。…え?じゃあこれは、なに?

「え、と…!…あ。わ、わ…っ」

そうこうしているうちにゆっくり私を自分の方に近づけてくるから、ますます分からなくなる。要するにパニック状態だった。…え?え?え?何この超展開。だけどあまりの展開に混乱しているくせに、大人しくその誘導に従っている私も私だ。こんなに近くで斎藤さん見たことがないのに、ど、どうしよう!ち、近いよ!なんだかもうずっとどきどきどきどきして、何がなんだか分からなくなってきた。

「…さ、さいと、さ……」

緊張で震える声で小さく彼の名を呼んだら、逆に何も言うなとでも言うように優しくそっと唇を重ねられた。びっくりして、ガチンと身体が凍りつく。だけどやっぱり嬉しくて、そっと目を閉じた。それにこうでもしないと、柄にもなく泣いてしまいそうだ。漏れる吐息がなんだか色っぽくて、世界がぐわんぐわんしてクラクラした。私は風邪なんて引いていないはずなのに、なんだか全身が熱くなる。

そっと唇が離れてゆっくり目を開ける。だけど至近距離から離れられない。どうしよう。どうしよう。さっきよりずっと心臓が五月蝿くなる。「さ、さいと、さ…」なんだかどうしたら良いのか分からなくなって、とりあえず名前を呼んでみる。そしたら斎藤さんは、ふわっと笑った。息を呑むってきっとこういうこと。ずるい。斎藤さんはずるすぎる。だからきっとこれは斎藤さんがいけない。思わず私からまたキスしてしまったのは、全部全部、きっと斎藤さんのせいなの。



▼後日談
「!さ、さささ、斎藤、さん!?あ、えっと、こ、こんにち、は!も、もう風邪の方は、よ、良くなったんです、ね!」
「…何故そんなにぎこちない」
「え?それは、その、だ、だって…!え、っと…だから…!さ、察してください…!」
「…ふむ…顔も赤い…。…そうか、風邪を引いたのだな」
「…………は?」
「…やはりそうだったのか」

「いや、そうじゃなくて…え?まさかとは思いますけど斎藤さん…え?お、覚えてない…とか…?」
「?何をだ」
「いや、何って…。だ、だから…その、さ、斎藤さんが風邪で寝込んじゃったときに…その………わ、私、と……えっと…キ…」
「ああ、見舞いに来てくれたのだったな。総司から聞いた。すまない、あいにく俺は寝ていたようで気付かなかったのだが、もうすっかり良くなったようだ。…そうか、もしやそのときの風邪がうつしてしまったのやもしれん。石田散薬を飲むと良い、すぐに治るだろう。ふむ、ちょうど今手持ちがある。持って行くといい」

「…………………………本当に覚えて……ないんですね…………」
「??」
「もし冗談とかからかわれたってオチだったとしても嬉しかったのに…。…熱が酷かったとはいえ、お…覚えてない……とか………っ!」
「?、先程から何の話を…」
「…………さ…」
「『さ』?」
「斎藤さんのばかあっ!もうきらあいっ!!乙女心を弄んだんですね!最低です!…ばっ、ばかああああ!!」
「!き、嫌…!?待て!だから一体何の話を…!」





僕の夢が醒めるまで





20101021 (これは酷いオチwwwwとりあえず斎藤の寝起き1分間は意識がないに等しいスオミ得設定+高熱が原因です斎藤お前変若水飲んで来い!^q^)