「はぅ…っくちゅん!」
…しまった!斎藤さんの前で可愛げの欠片も無いくしゃみをしてしまうなんて!途端に全身がかあっと熱くなって、とりあえず効果はないと分かっていながらもコホンと小さく咳払いをした。うう、恥ずかしい。せめてもっと可愛くて女の子らしい小さなくしゃみなら良かったのにと自分を呪っていると、隣で歩いていた斎藤さんは「そんな薄着をしているからだ」と、まるで親が子を諭すように言った。…や、やっぱりくしゃみ、ばっちりくっきり聞こえてたんです、ね…!(うわあ!聞こえて当たり前かもけど、は、恥ずかしい…!)
「だ、だって…」
思わずごびょごにょと語尾を誤魔化す。もう季節は秋に入り、夕方にもなると、昼間と違って冷え込むようになった。なのに半袖の制服でいるのは少しつらいものがある。きっと斎藤さんは、そのことを言っているのだろう。確かにその通りだなって思し、きっとずっとこのままの格好で過ごしていたら、いつかは風邪を引いてしまう。それでもこの世界で制服以外に羽織るものなんて持ち合わせていない私には、返答に困るものだった。…あ。斎藤さん、今溜息ついた。うわあ私、なんだか泣きたい。
「……。少し止まれ」
え?なに?なんで?何かあったのかなと思いつつ立ち止まり、右横の彼を見上げる。すると目の前に斎藤さんがいたからびっくりして、思わず一歩後退しそうになった。…だって、えっ、えっ!?さ、斎藤さん!?な、に…!今までこんな…!わ、私…っ!思わずぎゅっと目を固く瞑ると、まるでそれが合図と言わんばかりに、ふわっと首元に何かが触れた。……は、れ?
そろっと目を開けてみると、やっぱり目の前に斎藤さんがいた。だけどいつもの彼と何かが違う。しかしその違いはすぐに気が付いた。…襟巻き、してない。もはや斎藤さんのトレードマークとも言える真っ白な襟巻き(どうやらこの時代ではマフラーのことを襟巻きと呼ぶらしい)。それが今彼ではなく私の首元にいる。
「えっと…さいとう…さん…?あの…?」
いまいちよくよく分からなくて疑問の声をあげるも、彼は黙々と私にマフラーを巻いている。時々手が髪に触れてなんだかくすぐったい。思わず目を細めるけれど、それ以上に、いつもより近い距離につい心臓を弾ませてしまう。しかし巻き終えたことで、そっと離れてしまった手。なんだか惜しいなあなんて思いながらも、口元まですっぽりマフラーに埋もれたままじっと彼を見やる。すると斎藤さんは、はっと我に帰ったように言った。
「か、勝手なことをしてすまない。しかし、お、女子が体を冷やすのは、その、あまり良くない…故」
女の子。女の子だって。私のこと、ちゃんと女の子扱いしてくれるの。たったそれだけのことがなんだか嬉しくて、つい口元がにやけてしまう。…マフラー貸してもらってて良かった。きっと全部隠してくれる。…単純だって、彼は笑うだろうか。しかし一方の斎藤さんは照れくさいのか恥ずかしいのか、頬が赤い。それを見てたらなんだか私までもつられてしまって、柄にもなく恥ずかしくなってしまった。辺りに広がる沈黙。
なんだかどこを見たら良いのか分からなくなって、視線をひょろひょろと泳がせる。だけど襟巻きしてない斎藤さん、なんか変な感じ。初めて見た。ちらっと盗み見るようにまた彼を見る。そしたらやっぱり首元に何もなくって、じっと首筋を見てみる。だけどすぐ我に帰って視線を外し、誤魔化すように貸されたマフラーを無意味に弄った。
「(……なんだか、斎藤さんのにおいがする…)」
そんなこと考えちゃう私って、変な子なのかな。斎藤さんに知られたら嫌われちゃう?だけどどうしてもマフラーに顔をうずめてしまう。…なんだか気恥ずかしいのを誤魔化してるのかな、私。「…送っていく」しばらくして斎藤さんがまるで沈黙を破るみたいに言ったから、私は小さく頷いて、さっきみたいに彼の隣に並んでまた歩き出す。
いつもなら「斎藤さん斎藤さん」ってしつこいくらい呼び続けるのに。いつもなら「手を繋ぎませんか」って言って、半ば強引にそうしているのに。なんでだろう、今日はそれが出来ない。なんだかどきどきする。勿論いつも斎藤さんと一緒にいるときもどきどきしてるけど、今日は何かが違う。季節が変わったから?きっと違う。何かが違う。
…こういうのを、しあわせっていうんだろうか。愛おしいってこういうこと?なんだか泣きそうなくらいすきなのに、何かがもどかしい。しあわせで嬉しいけれど、何か。何かが。気が付いたら私は、衝動的に斎藤さんの袖を小さく掴んだ。無意識すぎて、自分自身でもびっくりする。それに、ちょこんと掴まれていることに気付いた斎藤さんも驚いたみたい。様子を伺うように見てくるから、私は思わず目を逸らした。けれど相変わらず口元まで顔をマフラーで隠しながら、決して袖口はぎゅっと掴んだまま離さない私。
いつもよりほんの少しだけ開いた2人の距離。薄暗い空。ひんやりとした風が走り抜けるたび揺れる木々。歩くのが遅い私に合わせてくれる歩幅。何気ない風景すら愛しくなって、私はやっぱり斎藤さんのことがすきなんだって教えてくれる。だけどもうすぐお別れの時間。そこの角を曲がったら着いてしまうよ。
…ねえ。もう少しだけ一緒にいたいってわがまま言っちゃ、だめ?
2010107(とりあえずトリップ娘の乙女モードをONにしてみた。それにしてもあの子ってば首筋フェチだったのかしrごふううう!!!!(>q<(⊆(^∀^q))