会いたいです。

夜中の電話でそう告げると、受話器越しに彼の負のオーラが放たれているような気がした。…あれ。もしかして斎藤さん、怒ってる?え、なんで?駄目?なんか地雷踏んじゃった?一向に反応を示さないことに逆に不安を覚え、「斎藤、さーん…?」とおそるおそる呼んでみる。すると彼は、何を考えていると言わんばかりにすぱんと斬り捨てたのだった。

「…今何時だと思っている。1時だぞ」

まあそうですけど。視界に入った目覚まし時計も、彼の言うとおり、0時50分を指していた。…要するに、真夜中だった。だから、確かにこんな時間に「会いたい」なんていうもんじゃないのかもしれない。でも、そう言わずにはいられなかったのだ。私だって、本当に会えると思って口にした訳じゃない。いや、出来るものならばそうしたいけれど、どちらかというと、それくらいすきですよという意思表示に近いものだった。だからこそ斎藤さんにも、「そうだな」って、肯定して欲しかったのだ。間違っても否定など、せずに。

寝る前にすきなひとの声を聞いて1日を終えるっていうのは素晴らしく嬉しいことだけれど、やっぱり出来ることなら、会いたい。電話を通じてじゃなくて、直接。しかし肝心の斎藤さんはそうは思っていないのだろうか、辛口トークが全開だ。真面目な彼らしいが、私が口を挟む暇もない。あれよあれよとしている間に、トドメの一撃が投下された。

『…本当に相手を想っているのなら、そんな無茶なことは言わないんじゃないのか』

…流石の私も、これはぐさりと刺さった。だって、私達は違う学校だし、なかなか会えないから。だから素直に思ったことを口にした。それだけだ。なのに、なんでここまで言われなくてはならないのだろう。彼には迷惑だったのだろうか。この恋は、この想いは、私の一方通行なの?…確かに彼の言ってることも分かる。きっと、正論だ。でも、本当にすきだからこそ、会いたいって思うもんじゃないんですか。そう思う私は、間違ってるの?

なんだか無性に悲しくなって、悔しくなって。もしかして斎藤さんは私のことすきじゃないのかな・なんて、良くない予感が頭をよぎった。しかしそれはあくまで仮説で、小さな可能性であると思う。ことにする。だってそうしなければ、やっていけない。なのにどんどん膨れてく。まっくろな想像。絶望的な仮説。じわじわと波のように押し寄せて、ついにそれは溢れ返った。

「………っ、う、」

どうしよう。あとからあとから涙が出てきて止まらない。電話越しの彼にも聞こえてしまったのだろう。「どうして、泣く」と、普段冷静な彼が少しだけ声を裏返した。ように、聞こえた。どうしよう。困らせちゃった。困らせたくて言ったわけじゃないのに。だけど止めようと思えば思うほど止まらない。私は遂に、涙と一緒に本音を吐き出した。

「……だ、だって。すきなら会いたい、って思うのが…普通じゃ、ないんですか…?斎藤さん、わ、わた、私の、こと…本当に、す、すき、なの…?」

自分勝手な女だと思われただろうか。でも聞かずにいられなかったのだ。どうしようもなく。しゃくりが止まらなかったけれど、ちゃんと言えたかな、聞こえたかな。ちゃんと、届いたかな。ちゃんと私の気持ち、伝わらなかったらどうしよう。相変わらず不安ばかりが駆け巡る。しかし本音をぶつけて少しだけ冷静さを取り戻した私は、これ以上泣いたら明日目が腫れてしまうということにやっと気がついた。近くにあったティッシュに手を伸ばし涙をぬぐっていると、暫くして彼の返答が聞こえてきた。

『…そんなことを言っていたら、俺だって毎日お前に会いたい』

だけどそんなこと、俺は一度だって言ったことあるか。そう真面目な声で言ってくるものだから、私は泣くのを忘れてしまった。今、なんと。さ、さい、斎藤、さん?え、っと。もしもし?思いもよらなかった展開に、私は完全にフリーズした。しかしそんな私などお構いなしに、斎藤さんは坦々と続ける。

『しかし夜中だ。俺が行こうにも、お前に迷惑をかける。会えば離れたくないと思うに決まってるし、困らせるだけだからな。それに夜更かししては、本業である学業に身が入らんだろう。高校生である俺達の本業は、勉学に励むことだからな』
「(……え、あれ。え、と………?)」
『だから、相手を本当に想うなら、会いたいなどと軽々しく口にするものではないと思っていた。だから今まで言わなかった。しかしそれのせいで誤解させていたのであれば謝る。すまなかった』

え。え。え。…ええと、この人は本当に斎藤さんなのだろうか。手を繋ぐだけで照れてそっぽ向いちゃう、あの、斎藤さんなのだろうか。キスがしたいとせがんだら、「そういうことは闇雲に言うものではない」とぴしゃりと言い放つ、あの、斎藤さんなのだろうか。…もしかして、声が良く似た別人なんじゃないの?そう疑わずにはいられない。ええと、私は今さっきまで、なんで泣いてたんだっけ。嬉しくて泣いてたんだっけ。あれあれ。ちょっとおかしいぞ。だってこれは間違いなく口説き文句だ。いつの間にか涙はぴたりと止んでいたが、全身は先程とは比べ物にならないくらい熱くなっていく。

『…??ちゃんと聞いているのか?』

全く反応がない私に不思議に思ったのか、そんな声が聞こえてくる。いや、聞いていますよ。聞いているから固まっているんです!……あ。そういえば。彼は筋金入りの鈍感だが、それ以上に天然が記念物級に入っている、と、彼と同じ学校の…ええと、藤堂、さん…て、言ったかな?──から、聞いたことがある。確かに時々すっとぼけたことを真顔で聞いてくるしなあと笑いながら納得していたのだが、ようやく理解した。…天然たらしも、ここまでくると犯罪だ!

「んもー!斎藤さんのばかー!そんなこと言われたら、また会いたくなっちゃうでしょー!」
『な…!誰がたらしだ!そもそもお前、俺の話をちゃんと聞いていたのか!?』
「聞いてたからこうなったんです!ばか!すき!」
『だから、そういうことは簡単に口にするなと何度も!』





会いたい





20100401 (分かったからとっとと寝ろしこのバカップルと思った。ちなみにこのネタは、おしゃれいずむに出演したロンブーから拝借)