風紀委員は朝から夕方まで仕事がある。一般生徒が登校する前には集合し、校門前で遅刻チェックをする。放課後は校内を見回りして、残っている生徒には下校時刻を促がしている。ゆえに委員会にしては結構多忙だったりする。なのになんで私がこんな面倒なところに所属しているのかというと、ただ単にくじ引きで当たったからという、実に分かりやすい理由からだったりする。

そんな私達は、先程放課後の校内見回りを終えたばかりだ。そういえば3月に球技大会があるからか、クラスによっては放課後も残って練習をしているところも結構あったなあ。みんな熱心だなあなんて思うけれど、そういえばこの薄桜学園はそういう人の集まりだったという根本的な事を思い出す。でも球技大会かあ。沖田先輩何に出るのかなあ。風紀委員の活動が終了した今、私の脳内は沖田先輩のことばっかりを占めている気がする。…!だ、だめだめ!まだ理科室の鍵返してないし!いや今まさに職員室に向かっている途中なのだけれど!でも隣には斎藤先輩もいるから、下手をすれば「変な奴だ」と認識されかねないし!

「…あんたからも、総司に言ってやってはくれないか」
「えっ!?」

あまりにもタイムリーな名前の登場に、思わず心を読まれたのかと本気で驚いてしまった。(斎藤先輩は鋭いから…!ありえない話ではないと思うの!)焦って彼を見てみると、どうやらそれを唐突な頼みに訳が分からず困惑していると捉えたのだろうか。彼は、「総司は剣術の才があるにも関わらず、なかなか練習に顔を出そうとしない。ゆえにあんたが来れば、少しはやる気も起こるはずだ」と説明を加えた。…あっ、そ、そういう…。…なるほど真面目な斎藤先輩らしい。だけど、そんなこと、私が沖田先輩に言ったところで何か変わるのかなあ…?うーん。

あ、でも確かに先輩が一生懸命スポーツやってるのって格好いいだろうなあ。出来ることならちょっと見てみたいかも。同じ剣道部の斎藤先輩がこれだけ言っているんだから、沖田先輩も強いに違いない。だって斎藤先輩は中学のときからすごーく剣道強かったみたいだし、その先輩が言うんだから。まあ私は剣道のルールは正直よく分からないから、どういうのが強いのかとか弱いのかとかちっとも分からないけれど。そもそも上手い下手関わらず、沖田先輩が一生懸命やってる姿がだいすきだから、見てみたいなあ…。うーん。

「えっと、じゃあ今度それとなく言ってみます」
「ああ。そうしてやってくれ」
「──ちゃん!」

あれっ。今の沖田先輩の声?噂をすれば影って本当だ。ちょうど先輩の話をしていたときに先輩に会うだなんて!なんだか嬉しい。職員室前の廊下で会ったってことは、先輩は職員室にいたのだろうか。(私達は風紀委員の活動場所である理科準備室の鍵を返しにきたのだけれど)…だけど、あれ?なんでだろう。いつもなら笑っている沖田先輩が、今日はなんだかちょっとピリピリした空気を放っている気がする。どうしたんだろう。

首を傾げていると、先輩は少し早足でこちらにやってくる。うーん。やっぱり表情は晴れないように見える。そういえば先輩はこんな時間まで何をやっていたのだろう?私は今日は委員会の見回り当番だから、先に帰ってて下さいねって前もって言ってあったのだけれど。…うーん、教頭先生や他の先生とも昔からの付き合いとかで仲が良いみたいだし、お話してたとか?あ、それとも先輩のクラスも球技大会の練習をしていたのかな?そんなことを考えている間に、先輩は私達の前までやってきていた。

「…委員会、終わった?」
「あ、はい!今から帰るところです。えっと、沖田先輩は?こんな時間までどうしたんですか?」
「君を待ってたの」
「え…っ!」

ぼんっと爆発するように反応してしまった私ってやっぱりだめだなあ…!ついつい全身熱くなってしまう。きっと耳まで真っ赤にしているに違いない。いやいや、でも、だって!先輩に真面目な顔してまっすぐ目を見て言われたら!あわあわと絵に描いたように慌てだした私を、隣にいる斎藤先輩もきっと呆れて見ていることだろう。なんだか溜息をつかれた気がする。…うう。私やっぱり沖田先輩に弱いんだなあ。火照る頬を両手で包む。あ、やっぱり熱い。

「……一くんもお疲れ」
「…ああ」
「………………………」
「………………………」
「(あれっ、何この雰囲気)」

なんだかいつもとは違う空気が流れている気がする。心なしか沖田先輩が斎藤先輩を睨んでいるように見えるのはなぜだろう?どことなく険悪なムードだ。今この場を色で例えるならば、まさに黒がぴったりだと思う。…主にその黒のオーラは沖田先輩から発せられているのだけれど。け、喧嘩でもしちゃったのかなあ…?よく分からないけれど。どうしたら良いのか分からずおろおろしていると、沖田先輩はそれに気付いたのか、にこっと笑いかけてくれた。

「おいでちゃん。………じゃあね一くん」
「…ああ」
「…え?」

おいでって何?と思っていたら、先輩は半ば強引に私の手を取ってそのまま引っ張ってしまった。え…?えっ!?右手を掴まれているままなのだから、私も行かざるを得ない。ど、どこに行くつもりですか先輩…!?わ、私、そもそも委員長の斎藤先輩と一緒に鍵を返しにきたのですが…!そして私は副委員長でしてね…!あ、あの…!?…あ、そういえば斎藤先輩が家まで送ってくれるって言われたのだけれど、えっと、私どうしたら!いやこの状態でどうしたらも何もないけれど…!すいません斎藤先輩私これで失礼しますってやつみたいです…!





どうしたんだろう。今日の先輩はどこかいつもと違う気がする。斎藤先輩と喧嘩をしたにしても、私に対してここまで半ば強引なことはしないんじゃないだろうか。…何か、あったんですか。そんな疑問を口に出来る雰囲気ではないから、なんとなく言えないけれど。どうしたんだろう、なんだか先輩機嫌悪い?さっきから感じていたことだけれど、なんだかぴりぴりしている気がする。私何かやっちゃったのかな。引っ張られている右手は相変わらず掴まれたまま。ちょっと痛い。いつもは私に合わせてくれる歩調も今日は早い。背中しか見えない私には、今彼がどんな顔をしているのか検討もつかないけれど。

「あの、先輩?」
「……………………」
「先輩?えっと、あの…お、怒ってるんですか?」

その瞬間、あれだけ早足だった先輩がぴたりと止まる。それはまるで図星だと言っているようなものだった。…や、やっぱり、そうなんだ…!でも、その理由が私にはちっとも分からない。何かあったのだろうか。斎藤先輩と何か?それともさっきの職員室で何かあったとか。そういえば土方先生とは折り合いが悪いみたいだし、何か喧嘩でもしちゃったのかな。あ、南雲くんとも相性は良くなかった気が。それともお腹が減っているとか。疲れているとか。眠いとか。それとも…わ、私?えっと、私何かしたっけ?特に思い当たる点はないのだけれど、こんなにも不機嫌そうな先輩の背中を見るのは初めてだから動揺してしまう。

「せ、先輩…?こっち向いてください…」

何も言わず、振り返ろうともせず、だけどぎゅっと強く握られた右手は話さないまま。何か言ってほしい。そうじゃなきゃ不安になる。何があったの?何をしたの?もし私に関することならなんでもするから。繋がれた手に左手をそっと重ねる。すると彼は小さくごめんと呟いたのだった。予想外の展開に、私は目を真ん丸くするしかない。しかし相変わらず背を向けたままの彼はそれに気付かないまま、静かに口を開いた。

「…君に他意のないことは知ってる。委員会なんだからしょうがないって、頭では分かってはいるんだけれど。それでも君が僕以外の男と一緒にいるのは、あんまりいい気分がしなくて…。だからつい、その…ごめん」

……えっと…つまり、私が斎藤先輩と一緒にいるのを見て、やきもちを焼いたってこと、なんだろうか。そういう意味だと捉えて…えっと、いいの、かな…?そういう不安な気持ちにさせてしまったことに関しては申し訳なく思う、のだけれど…なんていうのかな。こんなこと言ったら怒られるかもしれないけれど、ちょっと、嬉しい。

だって、沖田先輩はいつだってとってもマイペースな人だから、てっきり私が他の誰かといても、「ふうん、それで?別に良いんじゃない?」ってけろって言ってくるんだとばかり思ってた。現に今日の見回りのことを話したときだって、「そう、頑張ってね」って、いつもの笑顔でさらっと言っていたし。だけど本当はそうじゃなくて、ずっともやもやした気持ちでいたのかな。だから風紀委員の見回りが終わるまでの時間、ずっと待っててくれたのかな。…!な、なのに私!気付きもせずに「お腹減ったのかな」とか…!(うわあ最低だ…!)

そうだ、先輩がちゃんと伝えてくれたんだから、私も伝えなきゃ。きっと先輩は口にした今でも心の中はぐるぐると渦巻いているに違いない。「……わ、私…は…っ!」繋がれた手をぎゅっと握って、意を決して口を開く。…先輩が背中を向けたままでよかった。真正面ならこんなこと恥ずかしくて、口が裂けてもきっと言えない。

「あ、頭弱いから、先輩のこと気遣うこと出来なくて…!気付けなくてすみません!でもあの、さっきも斎藤先輩と先輩の話してて、そしたら部活の話になって、そしたら沖田先輩は部活のときはどんな感じなのかなとか色々考えちゃって。あの、だから何が言いたいのかっていうと、えっと…!…っ、私はいつだって、先輩のことしか考えられないって言うか…!先輩のことだけで頭がいっぱいっていうか…!う、うまく言えないんですけど、私はいつだってそういう感じで…っ!」
「…………………………」
「…?あの、先輩?えっと、聞いてます…?」

全く反応がないというのも不安になるものなのですが。ちょっと私も頑張って言ってみたのですが。無言のまま背中向けられているとなかなか気まずいものがあるのですが。えっと、き、聞こえてた、よね…?……。!そ、それとも引かれちゃったのだろうか。重たかったかな!(う、うわあ!ど、どうしよう!)「せ、せんぱい…?」もう我慢出来なくて、俯く先輩の顔色を伺おうとそっと静かに回り込む。すると逆にそれを待っていたように先輩の腕が伸びてきて、そのまま引っ張られる。え!?と思っていたら、気が付いたら私は先輩の胸の中にダイブしていた。そのまま胸の中にすっぽり収まってしまう。…え!?お、沖田先輩!あの!(えええ!)

「あ、あの!せ、せんぱ…!?」
「やっぱり可愛いなあもう!どうして君はそんなに可愛いの!」
「(え!?え!?か、かわ…!?)あ、あの!?と、突然、どうし…!?」
「別に突然じゃないよ。前からずっと思ってたことだから。僕にとっては当然で、なんでもないことだから」
「え?で、でも…あの…えっと!えっと…っ!」

何もないと言うのなら、なんで抱き締めてくるんですかー!…と、言いたいけれど言えない。恥ずかしくて。背中に回された腕がぎゅうってするたび、また心臓が慌てて走り出してしまう。私の腕は緊張のあまりぶらりと垂れ下がったままだと言うのに。ガチンと凍り付いてしまう私に、先輩はおかしそうに笑う。胸に押し付けられるように抱かれているからか、先輩の心臓の音が聞こえてくる。なんだかあったかい。瞼も重くなってしまいそう。だけど、あれ?先輩の鼓動も心なしか早い気がする。私と一緒?いつも私ばっかり緊張して、どきどきして、私ばっかり先輩の事がすきだと思っていたけれど、もしかして違ったのかな。先輩も一緒?

そっと手を繋いできたり、唐突にキスしてきたり、電話を掛けようとケータイの電話帳開いたり、そういうときにもこんなふうに心拍数上がってくれてたりするのかな。いつも平然としているように見えていた先輩も。…だったら、いいなあ。そんな先輩の姿を想像したら、思わず小さな笑い声が漏れてしまった。口元が緩む。

「何笑ってるの?」

ああ、やっぱり聞こえちゃった。不思議そうに尋ねる沖田先輩に、相変わらず顔は隠すように先輩の胸に埋めたまま「なんでもないです」と少し弾んだ声で答える。するとやっぱり腑に落ちなかったらしい先輩は、執拗に問いただしてくる。けれど彼の心臓は未だに同じ速度で鳴らしているから、やっぱりおかしくて笑ってしまう。先輩どきどきしてる。えへへ、私といっしょだ。

「ねえ、本当に何?気になるんだけど」
「いえ、なんでもないですよ。…えへへ」
「…その緩みきった声を聞く限り、とてもそうには思えないけど」
「でも、言いません」
「…意地悪な子だなあ」

わわ、先輩のちょっと子どもみたいに拗ねた声可愛い。でも言わないと言いつつも、今なら言える気がするの。いつもは先輩から言われ続けている言葉。だけど私はいつも恥ずかしがって、なかなか口に出来ない言葉。そっと先輩の背中に腕を回してみる。だけど彼のようにぎゅうっと抱き締める度胸はまだ私にはない。だからそっと小さくカーディガンの裾を掴んだだけだけど、それだけで聞こえる心臓の音は大きくなっていた。…あれ?この鼓動はこれ私のかな?それとも先輩?なんだかもう分かんなくなってきた。だって私もすごくどきどきしてる。

「せんぱい、せんぱい」
「何?」
「あのね、私やっぱりせんぱいのことだいすきです」

…と口にした瞬間、先輩の心臓は凄まじい勢いで大きくドクンと鳴った。わ、わ!先輩びっくりしちゃったんだ!うわあ!なんだか可愛い!まるでいつもと立場が逆転したみたいだ。いつもは私がびっくりされているから。先輩の腕に包まれて、私幸せ。ぽかぽかする。だけど当の先輩からは何の反応もない。…あ、あれ?でも心臓は先程にもまして凄まじい速さで動いているから、聞こえなかったということはないと思うのだけれど。あ、あれ…?なんだか私の方が急激に恥ずかしくなってきた…!

「せ、せんぱい…?あ、あの…えっと…!」
「名前で呼んで」
「はい?」
「先輩じゃなくて、総司って名前で呼んで。それから敬語もいらない」
「?えっと…?えーっと…?」
「それで、もう一回さっきの言ってみて」
「えええ!」

今度は私の心臓が大きく鳴る番だった。さ、さっきの、とは、先輩のことがすきだなんだというやつのことですよね間違いなく…!え、えええ!?なんでこんな恥ずかしい台詞を言い直さなければならないんですか…!なんか変な汗かいてきた気がする。

「…お願い。…だめ?」

そ、そんなちょっと切なそうに耳元で囁かないで下さい!心臓に悪い!心臓に悪いですから…!思わずびくっと反応してしまった。絶対この人全部分かってやってる!分かってやってるんだ!だってくすくす笑う声が頭の上から降って来る!もー!おきたせんぱい!だから、人をからかうのも大概にして下さい!…と反論しようとしたところでもう一度念を押すように「お願い」と囁かれたからもう駄目だ。

「うう…ほ、ほんとにです…?」

なんて弱々しい声。恥ずかしくて爆発してしまいそうな私に、先輩は「うん」と即答する。それは私があなたに弱くって、絶対ノーとは言わないことを知り尽くした上での反応なのでしょうか。ううん、きっとそうに違いない。逆に無意識だったらそれはそれで困るのだけれど。…ぎゅっと先輩のカーディガンを握る手に力が入る。私はもう、言うという選択肢しかないらしい。

「あの…え、えっと…えっと…!わ、私、そ、そう…そ、総司くん…っ!の、ことが…えっと、だ、だいすき、です…っ」
「敬語はいらない。もう一回」
「うう…っ!?」

なんだかこういうこと、前にもあった気がする。確かあのときはテスト前で、先輩の教室で名前で呼んでって言われたんだ。あのときも随分緊張したけれど、今はその倍ドキドキしていまう。だって、そんな。改めてもう一度すきと言えだなんて!しかも抱かれながら!ただでさえ私はそういうのを恥ずかしくって口に出したがらないというの知ってるくせに…!…あ、それともだからだろうか。滅多に口にしない私が言ってきたから、物珍しさに、みたいな…!(うわあ私調子に乗って余計なことを!)

「う、あ。えっと……そ、そうじ、くん…!の、ことが…!あの、あの…!あのね!えっと…!」
「うん」
「…………えっと…だ…っ!…っ、だいすき…!……なの…っ!」

あ!い、言えた…!な、なんだろうこの開放感…!ぷしゅーって、空気の抜けた風船みたいに蒸気が出て行くような気がする。なんだか抱き締められたままで良かったのかも知れない。顔見られずに済んだし、何より先輩の顔を見て言える自信がない。そんなことになったら、それこそ恥ずかしくて死んでしまいそうだ。いや抱かれながらもなかなか恥ずかしいものがあるけれど。

「…?せんぱい?」

一向に反応を見せない先輩に、耐え切れず声を掛けた。だけど私を抱き締める彼の腕は相変わらず私の背中にある。き、聞こえなかったのかな…!もぞもぞと動いて顔を見上げてみると、先輩は見事に固まっていた。え、なんで?なんで?私変なこと言っちゃったのかな…!「せ、先輩…?」慌ててくいくいとカーディガンを引っ張った──瞬間、より一層腕の力を強くされて、私は完全に抱かれるぬいぐるみ状態になってしまったのだけれど、これは!一体!?(え、あの、せ、せ、せんぱい!!?)

「あ、あの!せんぱ!」
「本当に君って子は…!」
「!?せ、せんぱ…!?」

ぎゅううっと更に強く抱きとめられてなんだか苦しい恥ずかしい嬉しい。…あれ?なんだかもうよく分かんないや。だけどとりあえず、先輩は喜んでいるということだけは分かる。だけど先輩の顔を見ようにも、胸に押し付けるように抱かれているからそれも叶わない。せ、先輩!ちょっと苦しいです…!

「僕ばっかり君のことがすきだと思っていたところで突拍子もなく言ってくるんだから、ちゃんって本当ずるいよね」
「え?あ、あの…!えっと…!せんぱ…!?」

そ、それはむしろ先輩のことではないだろうか…!いつも平然としている先輩だから、こんなにもドキドキしてるのは私だけなんだとずっと悩んでいたのですが…!(言ったことないけど)でも先輩もやっぱりおんなじだったんだ。私が先輩がだいすきなくらい、先輩も私のこと想ってくれてたんだ。うれしい。しあわせ。だいすき。

「…ねえ」

締め付けられるように抱いていた腕が緩んで、ようやく私は解放される。だけど私達の距離は変わらず近い。そのほんの少し前に小さく声を掛けられたこともあって顔を上げてみると、思っていた以上に顔近くてびっくりする。すると彼はにこっと笑って言った。キスしない?その瞬間私の体温が爆発したのは言うまでもない。そ、そそそ、そんな!ていうか今更だけどここ学校なのですが!

衝撃のあまりおどおどしていると、先輩は調子に乗ったのか「たまには君からキスしてほしいなあ」なんて言って来るものだからおったまげた。だって、え、え!私からって!口をぱくぱくしていると、沖田先輩は「何か問題でもあるかなあ?」なんて言う。も、問題って!いうか!心の準備の問題っていうかですね!あの!私にそんな大胆なこと求めないで下さい!むしろさっきの告白とか頑張ったと思うのですが…!そ、それで勘弁して貰えないでしょうか!

「…ちゃんさ、僕とキスしたくないの?…僕じゃ…嫌…?」
「!?(そ、そんな淋しそうな目…!)そ、そんなことないです…っ!」
「へーえ?じゃあ僕とキスしたいんだ?嬉しいなあー。じゃあしてくれるよね?」
「(しまった…!)」

結局私は先輩の手の平で踊らされていくんだろうな、常に。なんかもうこういう展開にも段々慣れつつある自分が怖い。いや慣れたのならば引っかかるなという話だけれど、先輩がしゅんってこう…捨てられた子犬みたいな目すると、嘘だと分かっていてもつい反応してしまうのです。これは惚れた弱みと言うものなのでしょうか。先輩はにやにやと意地悪に笑っている。…うう…っ!

「ぜ、絶対絶対!目瞑ってくださいね…!」
「はいはい。…これで良いでしょ」
「ちゃ、ちゃんと瞑ってますか…!?なんか、あの、実は見てますとかいうのは嫌ですよ…!」
「大丈夫だって。そもそも僕だって本当なら可愛い君のことずっと見てたいのに、それを我慢して目瞑ってるんだから、早くしてね」
「そ、そんなこと言われたって…!」

ど、どどど、どうしよう…!いつも先輩からキスしてくれたから、私やり方分かんないよ!いややり方も何もないんだろうけど!口くっつけるだけだけど!でもなんかこう、きゅ、急に言われてもっていうか!いや一応私先輩と、こ、恋人関係、に!あたるわけ、だし!確かに私からキスしたことがないっていうのも問題なのかな…!ど、どうなのだろう…わ、わかんないけど!それにそんな、先輩目閉じてても、あの、か、格好良すぎて、なんか、この状態でキスをしろというのも、なんか…っ!……。………っ!!

「や、やっぱり!目瞑られると緊張しちゃって、で、出来ま、せん…っ!」
「へえ、じゃあ目開けたままで良いの?」
「そ、それはもっと嫌です…!」

弱音を吐いたことでぱちっとエメラルド色の瞳を見せた先輩はまた意地悪げに笑う。うう…!今日は!ちょっと私が優位な立場になれたかなって思ったのに…!(この展開、やっぱりいつもどおりだった!)弱気な先輩も可愛かったのに!だけど淋しそうな目をする先輩より、今みたいに笑っている先輩のほうがすきだ。…から、これはこれでいいかなあ。いや、でも私からキスするのはちょっとあの、私そんな度胸ないっていうか…!(うう…っ!)

「そう?じゃあ、せーので一緒に目瞑ったら良いんじゃないかなあ」
「(…むしろキスしなければ良いんじゃないかなあ…)」
「ねえ、そんなにキスしたくないの?」
「(心読まれた!)」

いやそもそもそんな!キスしたくないとかそういうことは!決してないのですが!いやむしろそれはあ、すごく嬉しいっていうか、しあわせ感じる瞬間でもあるのですが…って違う!「で、でも!い、いじわるしちゃうところは、やです…っ!」顔を真っ赤にしながらそう言うと、先輩はけろっとした顔をした。

「そう?僕はそうやってすぐ恥ずかしがっていじけちゃう君も可愛くてだいすきだよ」
「(は、はうう!そ、そんなさらっと…!)」
「だけど生憎僕は気は長いほうじゃないからね。…ああそれと、」
?「それと」?なんだろうかときょとんとしていると先輩は小さく笑って、優しく頭を撫でてくれた。なんだかくすぐったい。

「僕の名前は沖田『先輩』じゃなくて、沖田『総司』だから。これからは、そっちで呼んでくれると嬉しいなあ」

それはイコール、これからも「総司くん」て呼べってこと?そ、そんな心臓に悪い…!名前を呼ぶだけで心臓が破裂するような思いを味わえと…!?…そう言わずとも、そんな顔をしていたのだろう。彼は笑顔で「んー?」と首を傾げて、まるで意義は許さないと言わんばかりの様子だ。だから私は言うのです。せんぱいの、いじわる。すると彼はまた笑う。そんな僕をすきになったのは君でしょう。それはそうだ。恨めしそうに見ていると先輩はそれに気付いたのかふわりと笑って、そっと優しく頬を撫でる。

「ほら、さっきみたいに僕のこと呼んで。総司って。そしたら僕からキスしてあげる」

恥ずかしくて爆発しそうなはずなのに、私は弱々しく呟いた。そうじくん。よく出来ましたと笑う先輩がそっと唇を重ねてきたのは、そのすぐ後のことでした。




心拍数と手を繋ぐ




20110226 先日夢で沖田先輩にぎゅっと抱かれつつ心臓の音を聞くという超スオミ得な夢を見まして、それをベースに書いてみました。しあわせでした(…)