11月に入って急に冷えてきてたこともあり、マフラーだけでは耐えられなくなってしまった。下旬になってコートを引っ張り出してみたけれど、それでもこの冷えきった空気には対応しきれない。登校時は、特に。それでもいつも昼間は温かいのだけれど、今日は珍しく極寒日のようだ。さ、寒い。口を開けば本日何度目か分からない台詞を口にしてしまう。そういえば先日学校内にある自動販売機でもホットのココアを売り出すようになったことを思い出す。温かいのもほんの少しの間だけれど、それでもあれば少しはマシになるだろうか。そう思い立った昼休み、千鶴ちゃんにすぐに戻るからと言って教室を出た。

向かうは学内で唯一自動販売機がある1階の中央昇降口。外に最も近い所というだけあって、冷たい北風が身にしみる。どうやら外へ繋がっている扉が全部開いているらしい。誰もいないなら閉めれば良いのにと思いつつ、冷たい扉に触れるのはごめんなので放置しておく。うう。スカートから出ている足が特に寒い。ついこの間までは冬だなんて思えないくらい温かかったと言うのに、この温度差は何なのだろう。思わず身震いして身を縮ませてしまう。

出来るだけ冷たい空気に触れたくなくてマフラーに顔をうずめながら歩いていると、唐突に声を掛けられる。振り返ると、そこにはジャージ姿の沖田先輩がいた。どうやら4限は体育だったらしい。そして昇降口にいるということは、外で授業を行っていたということだろう。聞けば、サッカーだったらしい。うわあ、さ、寒そう。そういえば半袖だし!(長袖のジャージは邪魔なのか腰にまいていた)

「…先輩、寒くないんですか?」
「ん?別に。…動いてたしさ。逆に暑いくらい」
「そうなんですか…」

そういえば彼はじんわりと汗をかいているようだし、今は寒さとは無縁のように見える。今の私からは想像も出来ないけれど。羨ましいなあ。…沖田先輩がサッカーかあ。格好いいだろうなあ。見たかったなあ。…って!違う!何考えてるの私!我に帰ったところでまた冷たい風が駆け抜けてきたから、思わずまた身を縮ませてしまう。ぎゅうっと財布を抱きながら冷たい指先を擦り合わせていると、「寒いの?」と聞かれてしまった。

「あ、はい。だから、あっかいものでも飲もうかなと思いまして」
「ふうん」

どうしてこんなところにいるのか納得したように相槌を打ったと思ったら、ぱっと左手を握られた。あまりに突拍子の無い展開に思わず動揺してしまう。「お、おき、た!せんぱい!?」動揺してますと言わんばかりの声で呼ぶと、一方の彼は「本当だ指冷たいね。君冷え性だっけ?」と笑うだけ。確かに冷え性と言うのは否定しないけれど、それは先輩が温かいのもあると思います。

そっと両手で包み込まれた私の左手は、先輩の温かさがじんわり伝わってか少しずつ冷えが薄れていった。だけどそれ以上に、まるで壊れものを扱うように丁寧で優しい。「女の子はあんまり冷えないほうが良いって言うし、もっとあったかくしたほうが良いよ」「う。あ。は、はい…」わ。なんて間抜けな返事。…うう!ハンドクリームとかマッサージとかして、ちゃんとしっかりお手入れしとけば良かった!そしたら手すべすべだったのに!

しかしそんな私の心情など知るよしもない先輩は、遂には指1本1本を握っては温めだしてしまった。う、うわあ!親指人差し指と順々に。そこで薬指までたどり着いてそれまでの流れと同じように握った──まま、そこで止まった。なんだろう。もしかして、薬指が特に冷えてますってことなのかな。あれ?指によって体温って違うの?あれ?んーと、じゃあなんだろう。

「?おきたせんぱい?」
「…ううん。なんでもない」

にこっといつもの笑顔を見せられて、「じゃあ僕着替えなきゃだから。またねちゃん」とだけ言って去って行った。……?なんだったのだろうと首を傾げて背中を見送っていると、また容赦なく冷たい風が吹き込んできた。

「………さむ…っ!」

早くココア買って、教室に戻ろう。





「やっぱりだめだね。手じゃ分かんないや。どうしようかなあ」

どうしようかな、なんて台詞を言っておきながらも全く困っているようには見えないのだけれど、あれでも内心は焦っているらしい。クリームパンを頬張りつつも考えている総司の目は真剣そのものだった。こいつも意外と男子なんだなと思いつつも、「別にさあ、本人に直接聞けばいいじゃん」としれっと答える。すると、「何言ってるの平助。君馬鹿じゃないの」と一刀両断された。(ば、ばか!?)

「なんだよ人が折角相談乗ってやってんのに」
「話聞いてるだけの間違いでしょ。…第一それ、『指輪あげたいからサイズ測って教えて』って言うことと一緒でしょ。それこそ意味無いじゃない」
「うっさいなあ。別に良いじゃん言えば。総司、いつも人には『聞きたいことははっきり言え』って言ってるくせに」
「それとこれとは話が別なの。彼女持ちには、独り身さんには分からない悩みがあるの」

るっせ!なんだよ彼女がいるのがそんなに偉いのかー!…と、ほかの奴になら言っただろうけど、相手が相手なだけにやめておく。こんなの日常茶飯事だ。いちいち反応してたら骨が折れる。ていうかやっていけない。どうやら総司はに指輪をあげたいらしかった。しかもには内緒で準備したいらしい。…そんなベタな、と思ったのだけれど、本人は結構本気らしい。(だけど彼女は普段指輪なんてつけないどころか指輪自体持っていないから、サイズを聞こうにも分からないのが関の山だと言われた。ああなるほど)

「女同士ならそういう話になったかもなー。それにほら、ファッションとかアクセとか、そういう店よく行くじゃん女子って」
「…………………」

何気なく言ったら、総司は無言で考え始めた。な、なんだよ。また「馬鹿じゃないの」っていう気か!?今までの展開から推測してそう身構えていたら、逆に本人はなんだかすっきりした顔をして納得していた。…へ?

「平助も、たまには良いこと言うね」
「たまにはってなんだよ!」




君の知らない物語




201024 つまりヒロインちゃんと千鶴ちゃんでガールズショッピングに行かせ、そのときサイズを調べてもらって千鶴ちゃんから情報を得た沖田先輩。いつも飄々としてる沖田先輩も、実は陰で凄い悩んでたのよーっていうオチ^q^