ど、どどど、どうしよう。変じゃ無いかな。ちゃんと似合ってるかな。か、可愛いって言ってくれるかなあ。い、言ってくれると、い、良いなあ…!あ!か、髪も、変じゃない?何かあるたびすぐ髪を触ってしまう。カランコロンと奏でる下駄もどこかぎこちなく、更には浴衣で歩きにくいから、どうしてもゆっくりとした歩調になってしまう。
うう、先輩待たせてたらどうしよう!まだ来てませんように!そう祈りながらやってきた神社の鳥居は、すでにがやがやと賑わっていた。どうやら私達以外にも待ち合わせに利用している人が大勢いるらしい。わ。わ。こんなたくさんの中から、先輩見つけられるかなあ。きょろきょろと辺りを見回してみる。ざっと見た感じだと、それらしい人は…。
「あ、ちゃん!」
まるで心の声に返事をするように沖田先輩の声が飛び込んできたから、思わずまたきょろきょろしてしまう。ど、どこ!?人が多くて分からない。それとも幻聴か何かなのだろうか。確かにタイミング良すぎたし、なあ。うーん、気のせい、かなあ。そう思い直してケータイを巾着から取り出そうとした矢先、突然後ろから伸びてきた腕に抱きとめられ、思わず大きな悲鳴を上げてしまう。…けれど、すぐに頭の上から沖田先輩の笑い声が聞こえてきたから、これは先輩の仕業なんだとすぐに分かった。(もー!)
「せ、先輩!お、驚かせないで下さい!」
「だって君、全然気付いてくれないんだもの。僕は後ろ姿ですぐ分かったのにさ」
人目構わずぎゅーっと抱き締められたまま、先輩は言う。しかしなんだってこの人はこうも積極的に行動出来るのだろう。すれ違う人からの好奇の目が突き刺さって、私は羞恥のあまり顔を真っ赤にして俯いてしまうと言うのに。しかし沖田先輩は、まるでそんなの知らないとでも言うように抱いた腕。わ、わたし、どきどきしすぎて、しんじゃうよ…!
「………あの、せ、せんぱ…」
「…もうちょっと」
もうちょっと?もうちょっとって。もしかしてもしかしないでも「もうちょっとこのまま」って意味ですか?…えっ。えっ!えっ!?も、もうちょっとってどれくらい!?何秒?何十秒?それとも何分!?う、うわあ!そんなことなったら私爆発しちゃうのだけれど…!いや決して嫌なんじゃなくて嬉しいのだけれど、それでも恥ずかしいのには変わらない。だって今お祭り!の!開催地である入り口!鳥居前!ゆえに嬉しさよりも恥ずかしさ!
うう、と耐えていると、しばらくして抱きとめられていた腕が緩む。…ほっとしたような。淋しいような。うん、よく分からない気持ち。とりあえず振り返ろうとしたら、それより先に「じゃあ行こうか」とさらっと手を繋いで歩き出しちゃうから、私はまた心臓をばくばくさせた。絡ませた指に緊張する。ていうか、あ、汗!汗かいちゃうどうしよう!うーわー!
…でも、浴衣のことは何にも言ってくれないんだなあ。ちょっと、淋しい。顔も見せてくれないの?私のこともちゃんと見てくれないんだ。…せっかく着たのになあなんて思いつつ、でも沖田先輩も気まぐれで言ったのかもしれないしと思い直すことにしよう。先輩と一緒に、しかも2人きりだけで来れたってだけで十分しあわせ!しあわせ!…だけど…。
『僕、ちゃんの浴衣姿見たい。絶対可愛いから。…ね、着て?』
あの台詞をどうしても思い出してしまう。「着る」って答えたときの沖田先輩、すごーく嬉しそうだったのに。……それとも、似合ってなかったのかなあ。期待はずれでした、みたいな。むしろ、そもそも期待なんかしてなくてただの冗談で言っただけなのに何勝手に本気にしてんの、みたいな…?うっ!それは!それは全部堪える!ぐさって突き刺さる!でも、だから何も言わないっていうのが一番しっくりくるような気がする。全然こっち見てくれないし。
…もしそうなら私、きっと泣いてしまうに違いない。どうしよう、着るなんて言わなきゃ良かったかなあ。不安になりながら右隣で歩く先輩の横顔を見ていたら、それに気付いたのか何なのか、ふとこちらを見る目と合ってしまったから、私は思わず驚いてまた顔を真っ赤にしてしまう。
「え、あ。えっと…!」
おろおろしながら必死に言い訳を考えるも、何も浮かばない。浴衣似合ってないのか不安になってました、とか、むしろ先輩の横顔に見とれてましたなんて口が裂けても言えやしない!ど、どど、どうしよう!えっと、えっと…!何か!何か言い訳を考えなきゃ!それでいて今の状況に不自然じゃないやつ!えっと!えーっと!「や、屋台、とか!何があるんでしょうね!林檎飴とか、あったら良いな…!…な、なあんて…。………」…必死に頭をフル稼働したのにも関わらず口にしたのはなんとも食い意地の張ったものだったから、思わず死にたいと思った。
「えっと…まあそうだね。林檎飴はメジャーだし、きっとあると思うよ」
「そ、そうですよ、ね…!あ、あは、あはは!」
…どうしよう乾いた笑みしか出てこないのだけれど。ていうか沖田先輩の反応もちょっとそっけない気がする。うわあ、やっぱり「食い物の話かよ色気ねえな」みたいなこと思われちゃったのかな!は、花火とかのおはなしすれば良かったのかな!あっ、そっちのほうがなんかムードがありそうだったのに!うわあ私のばかばかばか!
「…ちゃん」
先輩の声に、は!と我に変える。あ、私今上の空だった!また失態を…!「な、なんでしょう!」と慌てて笑顔で答えるけれど、沖田先輩はまた「ああ、うん…」と少し目を泳がせた。え、え?不安がよぎって思わず繋ぐ手をぎゅっと強く握り返してしまった。「せ、せんぱい…?」遂に不安を拭え切れなくなって、思わず呼び止める。恐る恐る覗き込むように見上げてみると、彼は「だから、そういうの駄目だかね」と言う。だ、駄目…!?わ、私やっぱりだめだった!?浴衣似合ってない通り越してだめの領域だった!?「…じゃなくてさ、」
「可愛い顔で、あんまり見ないでね。…照れちゃうから」
彼はそう言って少しはにかんだ笑顔を見せるから、また胸がきゅううってした。私はそんなあなたの言動に照れてしまいます。遂にかーっと全身が熱くなって、「う、あ」とか訳の分からないことを漏らしてしまう。だって、照れちゃうって。照れちゃうって。内容もさることながら、言い方もなんだか可愛いらしいのだけれど…!
「あと浴衣。ずっと言おう言おうと思ってたんだけど、可愛い」
「…う、うう…。あ、え、っと…えっと…」
「あれ?どうしたのちゃん。顔赤いよ?風邪かなあ」
「もー!沖田先輩」
さっきの照れた先輩はどこへやら。意地の悪い笑みを見せてからかうから、すっかりいつもの調子の沖田先輩に戻ってしまった。だけど繋がれた手は絶対に離さないんだ。だって今は2人きり。だからこれからの時間は、ずっとずーっと先輩は私だけのもの!…で、いてくれたらいいなあって思って、また頬が緩んで笑ってしまった。
20100906 (つまりバカップルの意)(タイトルの話)