「今日、神社のところでお祭りあるんだって。一緒に行こうね」

2人で下校している途中そう言った沖田先輩は爽やかな笑顔で、ひどく上機嫌で、なおかつ楽しそうだった。それに一緒に「行かない?」ではなく「行こうね」とすでに決定事項として提案されていることも沖田先輩らしい。だけど私も今日は何の予定もないし、むしろ沖田先輩と一緒にお祭りを回れるなんて本望だ。それにしてもこの様子から察するに、先輩ってもしかしてお祭りすきなのかなあなんて考えながら、こくりと頷く。それを見た先輩はまた嬉しそうに笑った。先輩が笑うといつも胸がぽかぽかあったかくなるから、私はうっかりほにゃ、と緩みきった顔をしてしまう。

「あ、そうだ。ねえ、ちゃん浴衣持ってないの?浴衣」
「え!?あ、浴衣…ですか?まあ…ありますけど」

実はお祭りデートに憧れて、この間千鶴ちゃんに付き合ってもらって買いに行きました!なんて言えないけど!むしろ言わないけど!うう、それにしてもピンポイントに浴衣って付いてきて思わず動揺してしまった…。こういうとき沖田先輩、変に鋭いからなあ。…いや、もともと鋭い人だけど。「じゃ、着てきてよ」…え?

「浴衣。着て欲しいなあ。僕、ちゃんの浴衣姿見たい。絶対可愛いから。…ね?着て?」
「えっ、えええ!?で、でもでも、そんな急に言われても…!準備とか色々ありますし…!そ、その…!」
「…だよね」

そう言うと、先輩はしゅんっと、まるで耳を垂らした子犬のように心底残念そうな顔をした。え、え。そ、そんな顔されたら…わ、私…!きゅうううっと胸を締め付けられて、どうにかして浴衣を着なきゃといつの間にか考える。……そ、そうだよ!せっかく買ったんだし!咄嗟に拒否してしまったけれど、アイロンなんてぱぱぱーっとやればすぐ終わるし、着付けはお母さん出来るし、なんとかなるんじゃないだろうか。

「わ、私!浴衣、着ます!」
「本当に?」

そうぱっと顔をあげた先輩は明るい顔で、私はまた騙されてしまったのはすぐに分かったことだった。けれど先輩は本当に嬉しそうに笑うから、またきゅんっとときめいてしまう。それに沖田先輩と一緒に夏祭りに行けるなんて夢のようで、それだけで嬉しかった。…浴衣、買ってよかったあ。えへへ。どうしよう。口元緩んじゃう。だからどうしても、ほにゃーってばかみたいに笑っちゃうんだ、私。

「じゃ、一端着替えて、後で合流しよっか」
「はい!」
「楽しみだね、お祭り」
「はい!」

楽しみ、だって。私と一緒にお祭行くの、楽しみって言ってくれたの。それだけで嬉しい。勿論私も先輩と一緒にお祭行くのが楽しみだよ。楽しみすぎて、嬉しくて、あと1、2時間後には先輩と一緒に屋台を回ってるって考えただけでテンションが急上昇しちゃう。待ち合わせ場所とか時間を決めるだけでうきうきしちゃう。だって、学校だけじゃなくて、家に帰った後も沖田先輩に会えちゃうの。これって凄いことだと思う。

「沖田先輩!」
「なあに?」
「楽しみですね!お祭り!」

同じ会話をまさに今したばかりだというのに、ついついオウム返しのように同じことを繰り返した。しかも無自覚。更に満面の笑みで。だけど先輩は笑って「そうだね」って笑って答えてくれるから、私はますます嬉しくなる。いつもは離れるのが淋しくてついついゆっくり歩いてしまうくらいなのに、こんなにも帰るのが待ち遠しい帰り道は初めてだった。




ふわふわる




20100906(だけど結局ちょっとでも離れちゃうのが嫌だったのは変わらなくて、無意味に遠回りしたり分かれ道でずっとお話してました)