多分、私と沖田先輩の食べ物の趣味は似ていると思う。甘いものが好き。苦いのはちょっと苦手。熱いのよりちょっとぬるいくらいじゃなきゃ飲めない。子供舌だとよく言われる。でもやっぱり好きなものは好きだし、苦手なものは苦手なのだ。それは変わりようのない事実だった。
更に、私より1つ年上であるはずの沖田先輩は、少し子ども染みたところがある。ように思う。例えば自分が苦手な食べ物があったとしよう。そうしたならば彼は分かりやすく顔を歪める。そうして一言呟くように言うのだ。これ、苦手だな。
「だったらチーズバーガーなんて頼まなきゃ良かったじゃないですか」
「僕はチーズバーガーが一番好きなの。でもそこにきゅうりが入ってくる意味が分からないね。君もそう思わない?」
「きゅうりじゃありません、ピクルスです」
「要するにきゅうりの漬物でしょ?似たようなもんじゃないか」
まあそうですけど。そもそもそう言う私もピクルスはそんなにすきじゃない。大嫌いというわけでもないけれど、好きでもなかった。だから先輩の気持ちが分からないでもない。けれどここは甘やかしてはいけないと思うのだ。年上とか年下とか関係なく、私は沖田先輩に甘すぎるような気がする。最近ようやくその意識を持ち始めた。そういえば、ピクルス抜きとか注文出来たのかな・なんて、先輩とお揃いで注文したチーズバーガーを二口ほど頬張ってから考えた。
「とにかく、ちゃんと食べて下さいね。捨てないで下さいよ」
「……………………………」
うわ、明らかに不満そうな顔をしている。こういうときどっちが年上なんだか分からなくなる。「時にちゃん、ちょっと相談なんだけど」そう言って、向かいの席に座っている先輩は相変わらずハンバーガーをじっと見たまま何気なく声を掛けてきた。…なんとなく展開が読めてしまうのはなぜだろう。
「これ、食べてくれると嬉しいなあ」
「…………駄目です」
これ、というのは言うまでも無いけれどピクルスのことを指している訳で。…どんだけ嫌いなんですか。「んー?そうだなあ…ご飯にマヨネーズ掛けて食べろって言われるくらい」そんなこと言う人いません。すると先輩は「物の例えだよ例え」と笑った。…んもう。「先輩、子どもみたい」思わず笑ってしまう。
するとそれが聞こえたらしい沖田先輩は怒るわけでもなく、「そう?」と優しく微笑んでくれた。こういうときの対応とか表情は年上っぽいなあとなんて考えていると、「…あ、そうだ。じゃあちゃんと食べたらキスしてくれる?」と突拍子の無いことを言い出した。…は!?びっくりして「え!?」と声を荒げてしまった私とは対照的に、先輩は相変わらず涼しい顔をしている。ちょ、え、き、キスって、あの、魚の鱚じゃなくて、ですよね勿論…!
「なん…っ!なんでそういうことになるんですか!」
「え?だって僕は『子ども』だから。ご褒美がないと頑張れないお子様だから」
「な…っ、そん……!ば、場所を…!TPOをわきまえて下さい!」
「え?TPOって、『とってもピュアな沖田君』の略じゃなかったの?恋愛的な意味で」
「そんな訳ないじゃないですか!んもー!」
「うん、怒った君も可愛いよ」
「だ…っ!だからからかわないで下さい!」
「からかってないよ?僕は純粋だから、思ったことしか言わないの」
「…………………!」
…もう、どこどこまで先輩のペースに巻き込まれてしまうのだろう。こんな不条理なことにいちいち動揺して、反応してしまうなんて。ただこんな風に先輩の笑うのがすきだから、いつも断れない。きっと私の弱みって沖田先輩そのものだ。赤面して「…いや、でも、その、」とごにょごにょと誤魔化していると、先輩は苦笑して「うーん。じゃあ言い方を変えようか」と切り出しては、たった一言、いつもの笑顔で言い放った。
「キスしたい。今すぐに」
駄目?そう小首を傾げる先輩は、きっと誰よりずるい人。先輩にそんなこと言われて、私が断れないこと知っている。拒否権なんて私には存在しない。だけど恥ずかしくて「良いですよ」なんて言えるはずもなく、ただ熱い顔を隠すように俯いた。そもそも言い方変わってない。むしろストレートになって逆効果ではないか。
店内の客数も、座っている席もまばら。ピークな昼時は過ぎているからだろうか。そして私達は出入り口から奥まった席に向かい合って座っている。きっと誰にも気付かれない。それも全部分かってて言う先輩は、きっと誰よりずるい人。
「ごめんね。僕、君に夢中だから」
でも、そうさせた君も悪い。そう言われた3秒後、私達はこっそりキスをしました。
20100501 (きいちゃんと随想録移植記念企画でお題はファーストフード。しかしこんなバカップルがいるファーストフード店には全力で行きたくない←←)