
…………………………………結局。
何も思い浮かばなかった。いや、実際思い浮かんではいたのだが、それを書く勇気が俺にはなかったというべきか。いや、断じてやましい願い事などではない!ない、のだが…しかし…!筆を取っては置き、取っては置きを繰り返していたら、いつの間にか朝になっていたらしい。ちゅんちゅんと雀が鳴く声が聞こえてくる。襖越しに感じる明るい光が、今日も晴天ということを教えてくれる。にも関わらず、心はどんよりと曇ったまま。から貰った短冊は、未だに白いままだった。…結局あれから一夜明けてしまった。
「(流石に…まずいか…)」
総司は今日の朝短冊を預かりに来ると言っていた。そして今、朝を迎えてしまった。これはまずい。いっそ「何も浮かばなかった」と断るか…。だがしかし、せっかくが俺に短冊をくれたのだし…。べ、別にがどうのというのではなく!その、ひ、人として!一度引き受けたことをやり遂げることなく途中で投げ出すのは感心出来ないというからであって、べ、別に深い意味は、な、無いのだが…!……。……………。
「(……こうして悩んでいても仕方がない、か。……よし)」
意を決して筆を取る。が、やはり躊躇してしまい、短冊の上に筆を構えたまま動けない。本当に書いて良いのだろうかと今更ながら思い返すが、男なら一度決めたことくらいやり通せと勢いに任せて遂に筆を動かした。そのまま一気に書き殴った後、一息ついて筆を置く。
の願いが叶いますように。
…やっと書けた。なんだか肩の荷が下りたような感覚で、思わずはあ、と溜息をついた。短冊をまじまじと見ていたら急激に羞恥心が込み上げて来て、とんでもないことを書いてしまったような気分になる。と名前を書くだけで緊張したなど、新選組三番組組長としてどうなのだろう。(いや今は新選組は関係ないが…)…総司に知られたらとんでもなく笑われるか、良いネタにされそうだ。
「なあんだ。もっと凄いこと書くのかと思ってたのに、そんなんで良いの?一くん」
「なっ、!?」
本来聞こえるはずの無い人物の声が頭の上から降ってきたのでばっと勢いよく振り返ったら、総司が文机の上をまじまじと覗き込むように立っていた。い、いつのまに…!驚きのあまり放心状態になっていると、「てっきり、ちゃんと恋人になれますようにとか、夫婦になれますようにとか書くのかと思ってた」とけろっとした顔で言ってくるから、遂に俺は顔を真っ赤にして抗議した。
「そっそんなこと書くはずがなかろう!そ、それに俺はのことを、け、決して、そ…そのような…!その…な、なんというか…!──っ、そ、そもそも人の部屋に入るのなら、一声掛けるべきではないのか!」
「ちゃんと言ったじゃない。まあ一くんは真剣そうに文机に向かってたみたいだからね、気付かなかったかもしれないけど」
「……………………………」
なんてことをしてしまったのだ俺は。しかも気付かなかった原因も原因だ。普段の俺ならば確実にしないであろう失態に頭が重くなる。よりによって総司…。総司に……。まったくもって良い予感がしない。悪い方に転がる予想しか出来ない。現に総司を見やれば、面白そうな顔をしてにやにやと笑っている。…最悪だ。
「ちゃん、なんてお願い書いたんだろうねえ一くん。ねえ、何て書いて欲しい?」
「だっ、黙れ!!」
20100830(ちなみに次もヒロイン出番なしである!!!\(^q^)/←)