「じゃ、僕近所の子どもと遊ぶ約束してるからもう行くね」

3人で桜餅を十分満喫して甘味処を出た後すぐに、沖田さんがそう言った。そうして斎藤さんに、「この辺も何かと物騒だし、ちゃんとちゃんを家まで送って行ってよね」とさり気なく頼んでくれたものだから、私は内心きゃっきゃとはしゃいでいた。ありがとうございます沖田さん!だけど私は、その喜びを内面に留める事が出来なかったのだろう。沖田さんは私を見やると、「分かりやすい子だな君は」と苦笑いしていたから。…あれっ私そんなに顔に出てたのかな!慌てて頬を両手で包むと沖田さんはまた笑って、くしゃくしゃっと私の頭を撫でた。う、うわあ!せっかく髪綺麗にお団子にしてきたのに!ぐしゃぐしゃになっちゃう!沖田さんの手がようやく離れてすぐに、慌てて手櫛で整えたのは言うまでもない。

「お、沖田さん…!なんだか今日は本当にいじわるでひどいです…」
「うん僕は意地悪で酷いんだよ。今頃気付いたの?」
「…総司」
「はいはい。一くんから殺気が凄いから、僕はもう行くよ。じゃあねちゃん。…とりあえずいつもどおりの君みたいで良かったね」
「(…えっ?おきたさん…)」

やっぱり沖田さん、私を励まそうとしてやたら弄ってきたりいじわるしてきたのかな。そうなのかな。本人に聞いてもさっきみたいにはぐらかされるのは分かりきっているから聞かないけれど。一見器用そうなのに、本当は不器用なんだなあ。…それとも私の考えすぎなのだろうか。そうこうしている間に沖田さんは足早に去って行ってしまって、後ろ姿もすっかり見えなくなってしまった。ぽつりと取り残された私と斎藤さんは顔を見合わせる。そういえば今日は斎藤さんとあんまりお話していない気がする。まともに顔も見てないかもしれない。今日は何故か顔を逸らされてばかりだから。

「…俺達も行くか」
「あ、はい!」

だけどこれからは斎藤さんと一緒!2人きり!…と言ってもちょっとの間だけど。だけどそれでも嬉しいなあ。嬉しいなあ。最初の頃はうまく話せるかなって酷く緊張したものだけれど、今じゃ大分慣れたのかな。嬉しさのほうが勝ってる。…斎藤さんも私と一緒で嬉しいって思ってくれたらすっごくしあわせなんだけどなあ。…あ。そういえば。

話を掘り返しちゃ、まずいかなあ。沖田さんから教えてもらって、ずっとずーっと気になってたこと。…今聞いちゃ、だめかなあ。すごくすごーく聞きたいのだけれど。右隣で前だけを見て歩く斎藤さんの横顔を、気付かれませんようにと願いながらこっそり盗み見る。最近気付いたのだけれど、私は斎藤さんの横顔をこっそり見るのがすきらしい。

…あれっもしかしてこれってあやしい子なのかなどうしよう!…や、とりあえず今はそれ置いといて!や、やっぱり!聞こう!もやもやしたままは良くないと思うの!そして今聞かなきゃもうそのタイミングは来ない!ような気がする!…よーし!

「…あの、斎藤さん!えっと…。…?斎藤さん?」
「…………………」
「…斎藤さん?あの、聞いてます?…さいとうさん?」
「……!?あ、ああすまない。なんだ」

どうやら最初、私が声を掛けたことに全く気付いていなかったらしい。どうしたのだろう?なんだかさっきから斎藤さん、なんだかいつもと様子がおかしい気がするのだけれど。いや、普段も時々、こう…落ち着きがなくそわそわしてるときことあったけど、今日はそれが特にある気がする。うーん、私の勘違いかなあ。まあ本人が何でもないような素振りをしているから、これに関しては何も聞かないことにするけれど。

「はい!あの、斎藤さんもいつかは、その…家の人が決めたお嫁さんと結婚しちゃうんですか…?」
「……?ケッコン…?」
「はい!」
「…すまない、ケッコンとはどういう意味だろうか」
「え?あ、唐突過ぎましたねすみません!えっと、さっきほら、特に好き合ってるわけじゃないのに結婚するのがこの時代当たり前だって聞いて!じゃあ斎藤さんもいつはかそうなっちゃうのかなって思っちゃって…!」

そうなったら嫌だなって思って聞いてみたわけです!…いや私がどう思おうと、そうなってしまうものはそうなるものなんだけれども!…それにしても流石にこんなことを聞いたことはないからちょっとどきどきしちゃうなあ。緊張しているのか、それとも不安になっているのかは分からないけれど。でもどうか否定してくれますように!と神頼みしていると、当の斎藤さんは少し首を傾げて考えた素振りを見せた。…う。こ、これで肯定されたら私、なんかもう立ち直れないんですが…!

それとも「何突然訳分からないこと言ってんだこいつ」って思われちゃったかな。い、いいよそう思われたっていいもん!気になっちゃうから仕方ないんだもん!すきな人のことはなんでも気になっちゃうのは仕方ない!きっと仕方ないことなんだ!そう開き直って斎藤さんの返答を待っていると、彼は少し間を置いてぽつりと呟くように口を開いた。

「…もしや結婚というのは婚姻のことを指しているのか?」
「え?それ以外に何があるんですか?」
「…初めて聞く言葉ゆえ、理解出来ずにいた」
「え…?え!もしかしてこの時代結婚っていう言葉ないんですか!」
「…少なくとも俺は聞いた事が無い」
「わ、わわ…!」

そうだったのか!…あ、だから斎藤さん不思議そうな顔してたんだ…良かった「こいつ馬鹿だな」とか思われてたわけじゃなくて。そういえばこの時代、普通にお話してても通じない言葉いっぱいあるなあとは思ってたんだけど。家族とか未来って言葉も最初は「何それ?」って言われたし…。同じ日本なのに通じないなんて、おもしろいけど変なの。

まあ私と接する機会が多い斎藤さん沖田さんは、話しているうちに結構単語を覚えてくれたみたいで、他の人よりそういう首を傾げられることは少ないけれど。特に沖田さんは好奇心が旺盛なのかはたまた単に勘が鋭いのかなんのか、横文字の言葉を使っても大体の意味を察してくれるから凄いと思う。…ああ、話は逸れちゃった。えっとだからつまり、斎藤さんもいつかお嫁さん貰うんですかって話です!

「それで、どうなんですか!?」
「…俺はあくまで剣の道を生きると決めた身の上、女と一緒になるなど考えたことは無い」
「……あ…そ、そうなんですか…」

なんだかそこまで言い切られてしまうと、斎藤さんのことがすきな私としてはどうしたらいいのか分からない。別に斎藤さんと夫婦になりたい!なんて大それたこと思ってはないけれど、それでもこれは遠回りに「だから自分のことを好きになるだけ無駄だ」と言われているように聞こえて悲しくなる。だからつい返事も弱々しい声になってしまったのかもしれない。あ・私、なんだか泣きそうかもしれない。

「無い…の、だが……。………だ、だが…っ、だ…がっ、」
「?斎藤さん?」

なんだろう、急に歯切れが悪くなったのだけれど。そういえば耳まで真っ赤にしているけれど大丈夫だろうか。なんだか心配になって声を掛けるも、「大丈夫だ問題ない!それより続きを聞いてはくれないだろうか…っ!」とまた大真面目な目をされながら言われたけれど、顔は真っ赤なのだから何かがおかしい。だけどとりあえず素直に頷いて、彼の言葉を待つことにする。すると、斎藤さんは一瞬少しほっとしたような表情を見せたのだけれど、また緊張したように硬い彼に戻ってしまった。(あれ?)

「さ、先程あんたは…、き、聞いたな!俺はいつか嫁を貰うのかと…っ」
「ああ。はい!」
「………お、俺はその…っ、も、もし!もし嫁を貰うのであれば…だなっ…!その、あ、あんたのような人が良いと、思う…っ!」
「えっ?」
「………っ、だ、だからつまり、俺は…!…あ、あんたのような人を嫁に、貰い、たい…っ!」

びっくりした。斎藤さんが耳まで朱色に染め上げて、なんだか必死そうに、そんなことを言ったから。だけど私はなんて言ったら良いのか分からなくて、とりあえずじっと逸らすことなく彼を見てみることにする。そうしたらそれに気付いた斎藤さんはまるで照れたように顔を逸らしたから、なんだか可愛いなあなんて思ってしまう。普段ならこんなこと、絶対言わない人だろうに。実は結構な恥ずかしがりやなんだなあ。…なんだかおかしくなって小さく笑ってしまった。

「ありがとうございます斎藤さん!…私に気を遣って下さったんですね!」
「え?気を…?い、いや俺はその…。……?」
「私この時代の常識とかまるでないけど、日の本広しって言うし、そういう奴でもきっと嫁を貰ってくれる人がいるから元気出せってことですよね!」
「いやちょっと待て。あ、あんたは何を言って…?」
「斎藤さんにそう言ってもらえて、私すっごく嬉しいです!フォローだって分かってても、なんだかどきどきしちゃいました!」
「ふぉ、ふぉろ…?…だから一体何の話を…!」


20110404 (いつもなら「うわあ斎藤さん!本当ですか!」って食いついただろうに、考えていたことがことだっただけにまさかの天然√へ…(´・ω・`)ナンテコッタイ)