今日は斎藤さんと沖田さんと3人で、一緒にお茶しに行くのです!桜餅食べさせてくれるって。なんでも関東と関西の桜餅は違うらしい。楽しみだなあ。それに3人でっていうのは久しぶりだなあ。やっぱり楽しみだなあ。気が付けばらんらんと上機嫌に鼻歌を歌い始め、足取りは自然に軽やかになる。歩きにくい着物だって、今日ばかりはへっちゃらだった。それに大分京の地形にも慣れたみたい。碁盤のような京独特の道はどの道も同じに見えて前はよく迷子になったけれど、今はそんなことはない。
私も大分この時代に馴染んだなあと物思いにふけっていると、ふいに後ろから控えめながら声を掛けられた。斎藤さんでも沖田さんでもない。むしろ聞き覚えの無い男の人の声だった。はて、なんだろう。呼ばれた手前振り返ると、やはり交流の無い男性が立っている。
「?何か?」
きょとんとしながら聞いてみたは良いものの、もしかして私、知らないうちにこの人に何かしちゃったのかな・なんて考えてみた。だけどやっぱり顔見知りじゃない、よなあ…多分。あ、それとも道を聞きたいとか。えっ!大分京には詳しくなったとは言え、「どこどこの誰々さんちはどこですか」なんてマイナーなことは知りませんよ私!もしそうなら違う人に聞いてください!あ。あそこの甘味屋のおじさんは優しいので、きっと親切に教えてくれると思いま、
「…これ、どうぞ」
…あ、あれ?どうぞって…え?展開に頭がついていけず、差し出さしてきたものに視線を落とす。紙だった。ええと、形からして文?かな?ていうかちゃんと様って書いてある。ってことは私宛?なんで私の名前を?…え、もしかして訴状とかそういうのでしたか。私全く見に覚えないんですが!しかしやってしまったのは仕方がない、恐る恐るそれを受け取った。するとその男の人はどこかほっとした顔で「それでは私はこれで」と半ば早口で言ったと思ったら、逃げるようにその場から去ってしまった。…もしかして遣いの方だったのかなあ。お疲れ様です…って違う!
…う、うわあ!おじさんとおばさんになんて言おう!むしろ言えない!言えないよ!むしろ引き取ってくれてる手前、申し訳なさ過ぎて合わせる顔がない!…あ、とりあえず中身!中身はなんて書いてあるんだろう!街中で読むのは関心しないけれど、状況が状況なだけに仕方ない!読みます!罪名は!なんですか!
覚悟を決めて、ばっと勢いよく訴状を広げてみる。そこにはずらっと達筆な文字(と思われるもの)が並んでいた。…今流行りの3Dみたく何か浮き出てくることを期待して、書状を遠ざけたりして解読してみようと試みるけれど、全く意味を成さなかった。
「…………え、と…」
しまった。私この時代の文字読めないんだった。
★
あの後慌てて待ち合わせしていた甘味処へ向かう。なんだかもう喉がカラカラに渇いてくるし、着物は制服と違って走りづらいし嫌になってくる。だけどもうそんなことは言っていられない。待ち合わせの甘味屋の近くにやって来てすぐに斎藤さんと沖田さんの姿を発見することに成功した。なんだかんだで訳が分からずパニックになっていたらしい私は、顔見知りの姿を見つけてなんだか凄く安心する。
そんな私の姿を見つけたらしい斎藤さんとはたりと目が合う。あっなんか嬉しいかも!と喜んだのも束の間、何故かすぐに逸らされてしまったものだから思わず泣きたくなった。(なんでー!)地味にショックを受けていると、沖田さんもこちらに気付いたらしい、小さく手を振ってくれた。それでも急ぐ足を緩めることなく彼らの前にたどり着いた頃には、肩で息をするようになってしまっていた私。…早く。早く2人にさっきのことを伝えたいのに、乱れる呼吸のせいでなかなかそれも叶わない。の、喉、渇いて声が…っ!あまりにもぜえぜえ言っているからだろうか、沖田さんが驚いたように口を開いた。
「何、もしかして走ってきたの?別にゆっくりで良かったのに。着崩れしちゃうよ?」
「…………………………………」
「あれ?何想像したの一くん。顔赤いよ。…やらしいなあ」
「人聞きの悪いことを言うな!お、俺は別に、そ、そのようなことは!」
「えっ?そのようなことってどんなこと?何?どんなこと想像しちゃったの一くん。言ってごらんよ」
「総司…あんたは…っ!」
「あの!た、大変なんです!」
話を断ち切って申し訳なかったけれど、それどころではない。、一世一大の大ピンチなのです!今にも泣きそうな声になってしまったから、流石に2人共ただごとではないと感じ取ったのだろう。顔を見合わせた後何があったのかと聞いてくるから、私は慌ててさっきの書状を渡した。
「…文?」
「そ、訴状です訴状!さ、さっき渡されたんですけど、わ、私…!もう、どうしたらいいか分からなくて…!なんて書いてあるのかも分からないし…!でもおじさんとおばさんに渡すわけにもいかず…!ど、どうしたらいいですか!」
「ちゃん落ち着いて。…とりあえず、これ僕らが読んで良いの?」
「はい!お、お願いします!」
持ち主の許可を得たということで、沖田さんはぱらりとその訴状を開く。斎藤さんも横で覗き込んで一緒に見てくれるようだ。勿論私はどうしようどうしようと内心大騒ぎで、心臓がばくばくと五月蝿い心臓を押さえながら、訴状を読んでいる2人に視線は外せない。しかし2人共何も言わない。沖田さんに関しては、「うわー」とこれまたやってしまったなと言わんばかりの顔をして斎藤さんを見ている。斎藤さんはぴしりと凍ったように固まっていた。…えっ!そ、そんなに酷いことをやっちゃったのかな私!
「どうですか!なんて書いてありましたか!私、知らないうちに何か仕出かしちゃったんでしょうか!」
「うーん…まあ…。一くん、教えてあげなよ。?…一くん?」
「……!あ、いや、何か言ったか総司」
え!なになになに!そんなに悲惨な内容だったんですか!?斎藤さんが放心してしまうほどに!?え、やだやだ!ど、どうしようどうしよう!「わ、私、役人さんとかに捕まっちゃうんですか!?」慌てて斎藤さんに詰め寄ると、顔を真っ赤にして「い、いや、その…そう言う訳ではなく…!」とたどたどしく答える。うわあ!もう決定だー!今にも泣きそうな私に、沖田さんは「あー違う違う」と声を掛ける。え、違うって…?何が?
「じゃ、僕が代わりに教えてあげるよ。これはね、訴状なんかじゃないよ」
「…え?じゃあ…え、これ…なんですか?」
「恋文」
はっ?
20110405 (ナンダッテー)