颯ちゃんが最近珍しく俺ですらすげえ心配になるほどおかしい。いやまじで。ため息つくのはしょっちゅうだけどなんというか、 いつもの呆れため息ではないというか。というかそれ以前に俺が颯ちゃん颯ちゃん言えば5回に2回くらいの頻度で頭叩いてくんのにそれすらない。おかしい、確実におかしい。

つーかおかしいと言えば、こないだの昼飯の時間に神妙な面もちで「なあ昴」なんて言ってくるもんだから何かと思えば「風邪ってどうやったら治んのかな」 とか実に頭悪そうなことを聞いてくるので本当に颯ちゃんどうしたんだという感じで、思わず飲んでた牛乳吹き出しそうになったくらいだ。 そもそも俺のみる限り颯ちゃん咳してるわけでもないし、くしゃみもしてないし、のど痛いとかも言ってなかったし、風邪の症状なんて微塵にもなかったんだから余計に。

「颯ちゃん風邪気味なの?」
「なんか、さ…動悸速くなったり胸苦しくなったりすんの、治んねーから…」
「……は、」

………………………………それ明らかに風邪じゃなくね!? 思いっきり爆笑しそうになったのをあまりにも颯ちゃんが真剣なのでこれは失礼だこれは失礼だと自分に言い聞かせて我慢した。けど、それにしでも……… 「……颯ちゃん可愛い…」「…はあ?おいこらミジンコ。人が真剣に悩んでんのを、」いや、だって野球馬鹿だとは思ってたけどまさかここまでとは…!動 悸速くなったりとか胸が苦しくなったりすんのとか、明らかーに“恋の病”の症状じゃないですか颯太くん。そんでたぶん颯ちゃん自身はまだ気づいてない。おいおい俺ですらわかるよそんくらい… 「…颯ちゃんの純情ボーイ…」「お前いい加減殴られたいわけ?」ふははは何とでも言うがいいトーテムポール俺今すげえ優越感に浸ってっから! それにしても…うわー…どうしよう本当すげえおもしろいもん見つけちゃったよ。颯ちゃんが、ねぇ、…「恋、かあ…」


「は?恋?」
「あ、いや!い、池に!…な、か庭の池の鯉に餌やりてえなあみたいな…」
「一人で行け」


あ、危ねえ危ねえ。危うくうっかりばらしちゃうところだったぜ。とりあえず一ノ瀬颯太くん、宮代昴ドクターの診断結果がでました。あなたは恋の病ですお相 手誰ですか。とか、少し気になるところもあるけど、おもしろいから颯ちゃんが自分で気づくまでもうちょっと黙ってようと思います。







と、言うのがドクター俺による診断結果…って今それ関係ないけどたぶん颯ちゃんは恋してるからおもしろい…あ、違った。おかしいと思うんですね…たぶん…。 いや確実に…?ちらりと廊下を歩きながら相変わらずの無表情で窓からグラウンド眺めている颯ちゃんを見て、口の端っこもちあがりそうになって慌てて手で口元隠した。 颯ちゃんに見られたら叩かれるどころじゃなくなる。幸いいま奴は恋の病でそれどころじゃなさそうだから全然気付かれてないけどね。あー…それにしても、颯ちゃんが、 あの野球するか寝るか勉強するかの颯ちゃんが……「(恋、とか…!)」どうしようお兄ちゃん弟の成長を垣間見てしまって嬉し悲しいよ。

…うーん、それにしてもお相手の女の子は誰なんだろうか。同い年?いやー、でも颯ちゃんが女子と喋るときは俺も大抵一緒だし。同い年なら気づくよなあ…。 年下…?確かに年下好きそうにも見えるけどそんな関わりもってないだろうし…そうなったら、先輩、とか…?先輩…何の…?「ふうちゃん!」 そんなこと考えてたら後ろの方からそんな声が聞こえて、だけどもちろんその“ふうちゃん”と呼ばれた人は俺には全く関係ないのでそのまま 振り返らないでさっさと先進もうかとしたら隣にいた颯ちゃんがぴたりと足を止めて後ろを振り返っていた。…………………………ん?


「……先輩。だから、その呼び方やめてください。しかもこんな廊下のど真ん中で」
「え。あ、いやあーごめんごめん!思わずいつもの癖で!」
「…………で、何の用っすか」


…………え、ってか、なに、“ふうちゃん”って颯ちゃんのことだったわ、け?そして颯ちゃんを呼んだその人にももちろん見覚えがあって、この間の集会のとき喋ってたうちの学校の生徒会長だった。 そういえば会長って、野球部のマネージャーやってるんだったっけ。颯ちゃんに聞いたことあるような気がする。ふーん、ほーう。なるほど、それで颯ちゃんに用があった、と。 どういう流れで“ふうちゃん”と言う呼び名がでてきたのか是非聞きたいところだが、とりあえず何やら部活のことで話てるらしい2人を見て納得した。 わかっちゃったよ、颯ちゃんの好きな人。

普通に顔には出さないけど、態度だっていつも通りそっけないけど、やっぱり付き合い長いかんな、わかるよ、これは。 へえー、この人が、ねえ…うわあいっちょ前に楽しそうな顔しちゃって颯ちゃん。ほんと微かにだけど。これで自分では気づいてないってんだから本当おかしいよなあ、こいつ。 まあ俺としてはこっちの方が楽しいからもう少し鈍感少年颯ちゃんを拝んでいたいところなんだけどね。

「あー…なるほど。つまり荷物持ちってことっすね」 「ま、そうとも言うかな。でも買いだしに付き合った人にはもれなくガリガリ君一本をプレゼントだから!来て損はないと思うよ?」「あーはいはいわかりました行きますよぜひ行かせてください」

そか、と何だか満足そうに笑っていた会長が俺に気づいたのか小さく会釈されたので俺も頭をさげたらにこーって笑われた。うーん、これは颯ちゃんが惚れるのも わかるかもしれない。つられて俺もへらっと笑ったら頭のてっぺんになんかだいぶ慣れてきたような気がする痛みが走ったのでななめ上を睨んでやった。おい颯ちゃん何しやがる。


「はやく行ったらどうっすか先輩。もう授業始りますよ」
「あ、そだね。じゃあふーちゃんまた部活で!2人も授業遅れないようにね!」


はーい、と返事すればまた颯ちゃんに頭を叩かれる。いや、ヤキモチですか颯太くん。にやにやして颯ちゃんの方見れば「気持ち悪い」と一蹴されてるんだけど、それでもにやけは止まらないわけで。 だって颯ちゃん、が、だよ…!?(何回も言うけど)とりあえず颯ちゃん青春の謎も徐々に解けてきてるわけですし気分上々のまま理科室向かうかーってところでさっき会長が立っていた場所に 鍵ひとつ発見。「……颯ちゃん颯ちゃん」「何だよ。さっさと理科室行かないと授業、」「これ、会長のじゃない?」拾ってみてみると案の定キーホルダーがひとつついた自転車の鍵で。 隣の颯ちゃんをみると「あ」と声を上げていたので会長のものだと確信する。落としちゃってったのか。まあ颯ちゃんに渡して、部活の時にでも届けてもらえば――…「俺、届けてくる」……はい!?


「え、でももう授業始るけど…」
「それまでには戻る。先行ってていーから」
「そんなの無理に決まって………って、あ、おい颯ちゃ……行っちゃったよ」


いつの間にか掌に乗っかっていた鍵は颯ちゃんがかっさらっていってしまい、何もないまま広げていたそれをぎゅっと握っておろした。あと1分もないってのに、颯ちゃん、 絶対遅刻決定ですよー。いつもと逆の立場だけど今日は俺が颯ちゃんに呆れてため息ついて、踵を返して颯ちゃんが走って行った方向とは違う方へ歩き出す、…もとい、俺も 間に合うかわかんなくなってきたので小走りで。颯ちゃんの教科書も何でか持ってるし、しょうがないから適当にごまかしといてやるか。忘れ物とりにいったとか、なんとかで。 まあそれはよくて、とりあえずはさっきの颯ちゃん、だよなあ。まさかあの面倒事だいっきらいな無気力少年があそこまでアグレッシブに行動するとは……………あちゃー…、ありゃ、


「(本気だ、結構………つーかかなり)」


やべー、楽しくなってきたなー。にやにやするのを必死で我慢しながら、きっと授業開始数秒後に息切らしながら理科室に入ってくるだろう颯ちゃんになんて声かけてやろうかと考えた。



宮代昴の見解

(「っ、くれてすいません…!」「おー、ふーちゃんこっちこっち!俺とおんなじグループ!」「………。先生グループ変えてもらえますか」



080416