の提案で、今日は出掛けることになっていた。丁度この時期は桜も見頃だ。その話を以前すれば、目を輝かせて行きたいと行ったため、連れて行くことになった。そうだ、二人でだ。屯所から少々離れた所にあるため、誰かと鉢合わせする心配もないだろう。総司辺りにでも見つかればまた何を言われるか分からない。
嬉しそうに軽い足取りでは俺の前を歩いて行く。道は知らないはずなのに前を行ってどうするというのだろう。しかし、楽しそうなを見るとそれを口にするのも憚られ、道の分岐点に出会えば振り向き、「どっちですか?」と聞かれる度に答えながら足を進めていた。
「斎藤さんっ!まだですか?」
「あと少しだ」
「さっきからそればっかりですよ?」
口を尖らせて文句を言うが、も先程からそればかりだ。さほど歩きもしない内に振り返り、まだかまだかと訊ねて来る。それは別に構わないのだが、くるりと勢いよく振り返る度に、すかーととやらが翻って、……いつも思うのだが、やはり女子があのように足を出していて良いものなのか。確かにはこことは別の場所から来て、あれが彼女の元いた世界では普通なのだろう。しかしだ、ここで腕やら足やらを出すのは少々、いやかなり無防備だ。何かと物騒な京で、あのような格好をしていてはいつ何時不逞の輩に目を付けられるか分からない。目を付けられるだけならまだしも、もし誘拐などされたら、
「あ!もしかしてあそこですか!」
…人の気も知らずに満面の笑みで前方を指す。この辺りでは大きな寺だが、用があるのはその裏だ。……ではない、とにかく、そういうことを言うか言うまいか延々悩んでいるのだが、俺に強要する筋合いがなければ、何を着ようと彼女の自由である。恐らく様々な危険を説いた所で、「大丈夫ですよ!」と笑って答えるのが目に見えている。それに、今日はせっかくの外出だ、わざわざ今言う必要はないだろう。あまり口煩く言えばの機嫌を損ねかねず、それは俺とて本意ではない。
今度こそと前後を入れ替わって、裏手を目指す。何となく通り過ぎていたら気付かないであろう場所に、見事な桜が咲いているのだ。そこへ辿りつけば「わあ…!」とは目を丸くして驚いた。
「こんなにたくさんの桜を見るのは初めてです」
「そうか」
「私の学校にも桜の木はありましたけど、もっとずっと小さかったし…すごいですねぇ…」
「ああ」
風が吹く度に花弁が散っては、その数枚がの髪の間をすり抜けて行く。「すごい」「きれい」と何度も何度も感嘆の言葉を漏らす。無邪気にはしゃぐ姿は出会った頃となんら変わっておらず、くるくると回りながら桜の中を進んで行く様は、以前、三枚の花弁をとろうと必死になっていたことを思い出させた。
大人になるにつれ、人と言うのは汚いものに触れ、知って行くものだが、はまるでそれを知らないかのようだ。確かもう十七、八だったか。しかしその純粋さは変わらないまま、彼女は真っ白なのだと思う。ここに咲く桜がきれいだとは繰り返すが、そんなこそ心が綺麗なのだろう。しかし言動はどちらかと言えば可愛らし………いや、なんでもない。
その時、ぽつりと冷たい何かが額に当たる。何かと思えば、晴れているのに雨だ。だがこの様子ではすぐに止むだろうことは予想できた。しかしは慌てた様子でこちらへ戻って来る。
「わわ、雨です斎藤さん…!」
「なっ、、」
「早く帰りましょう!濡れて風邪ひいたら大変です!」
「ま、待て、手をはな、」
離せ、という隙も与えず、は走り出す。の引っ張る力は強く、振りほどく以前に俺の声も届いていないらしい。そもそも、元来た道など彼女は覚えているのだろうか。ではない、が、手、手を、手をだな…!
「………!」
「あ、はいっ!?ご、ごめんなさい、実は迷ってます!」
「………………」
「雨だって思ったらとにかく帰らなきゃって、あの、でも、…ばれてました?」
そこで、ずっと握られていた手が離される。恥ずかしそうに長い髪を撫でつけて上目では聞いて来た。元より叱るだとか怒るだとか、そういうつもりはなかったのだが、小言の一つ二つ飛んで来るとでも思ったのだろう、「ごめんなさい…」としゅんとした様子で零す。…それを見ているとやはりは守ってやらねばならないというか、放っておけないと言うか、一人にさせてはいけないというか、い、いや、他意はない、ただ見知らぬ土地へ来て今や友人とも離ればなれだと言う彼女には、一人でも味方がいた方が安心するだろう。いや、そのような大袈裟なものでなくとも、話し相手と言うか、その、できれば他の奴ではなく、俺がそうできれば、良いと、
「な…っ、そ、そういことではない!」
「えっ!?」
「い、いや、す、すまぬ、こちらの話だ」
「は、はい……」
「とりあえず、帰るぞ」
そうこうしている間にやはり雨は止んでいる。元通りの日差しに、少し違うのは微かに虹がかかっていることだ。それを見たはまた嬉しそうに笑う。行きと同じ道ではないが、このまま少し遠回りして帰っても構わないだろう。まだまだ日も高い、少し寄り道でもしながら、
「…斎藤さん」
「なんだ」
「手」
「て?」
「さっきの続きです」
真っ赤になったが、俺に向かって右手を出した。
(2011/5/8)
いつも可愛い話を書かれるさくらちゃんちの『トリップ娘シリーズ』です!
実はお互いにネタに詰まって「これをテーマに書こう!」と言っていたのでした。
しかしあれですね、私はヒロイン視点で書く話が多いのですが、斎藤さん視点ほど疲れる話はありませんね。
いつも一人悶々と悩んで悩んでしているトリップ娘シリーズの斎藤さんをぽんぽん書きあげるさくらさんは……師匠。
今回はこのような形で書かせて頂き、ありがとうございました!
喜多村早紀ちゃん宅で開催された、お互いのヒロインを書きっこするという10万打企画でした!
いつもクールで格好いい斎藤を書く彼女に、我が家のヘタレむっつり斎藤を書いていただきました。
きいちゃんありがとー!^q^ 20110514