例えば女子なんていうものは非常に単純な生き物である。こんな結論はもう随分と前から俺の頭の中に存在していて、だからこそ俺はいつもどこか冷めた目で彼女たちを見てしまうのだけれど、立場上そんなことを表立たせればたちまち女の敵だなんだと言われてしまうのは目に見えている。だからとりあえず大人しく心の内に押し込む日々を過ごしているるのだけれど、しかしそれでも辿り着く結論はいつも同じだ。見た目だけで判断しころっと騙され黄色い声を上げることを標準機能として搭載している自分勝手な彼女達は、とても分かりやすいことこの上ない。いっそ哀れになってしまうほどに。
例えばほんの少し小首を傾げて顔を覗き込んでみたりネクタイを緩めてみたりしてみれば、たちまち分かりやすいほど目の色を変えてくるというのだから扱いやすいのかそうじゃないのか。しかしその他大勢の女子はこんなにも分かりやすいと言うのにどうしたことだろう、肝心の本命が全くなびいてくれない。だから今日も俺は頭を抱える日々を送っている。そう、つまりは俺の悩みの原因は、目の前に座っている幼馴染なのである。
「(うーん……)」
腕組みをしながらじっと彼女を見つめてみるけれど、この難解な問題はなかなか解けてはくれないようだ。それはまるで、この真っ白なプリントと同じように。高校に進学し、部活はもうすぐインターハイが始まるというのに、だからこそ勉強なんてする暇など持ち合わせていないと言うのに、学校様はそれを許してくれないらしい。もっと寛大な心を持ってはくれないかと思ってみても、ふと視線を落としてみれば視界に入ってくるその紙切れに、定期試験終了と共に容赦なく課題を提出してきた数学の田辺の顔を思い出してげんなりした。それと同時にその教員の顔も脳裏に浮かんできたけれど、ちっとも似合っていない赤いブチの眼鏡は流石に年を考えたほうがいいんじゃないスかと生徒の間でひそかに言われていることを、俺も最近買ったばかりの黒縁の伊達眼鏡を掛けながら改めて思ってみる。そんなんだから人気がないんだあの人は。まあそんなことは置いておくとしても。
「(うーん……)」
それにしてもどうしたことだろう。こんなに熱い視線を送ってみても、向かいに座って逸らすことなく教科書に向かっているは気付く素振りすら見せてくれない。それどころか中学の時から使っている水色のシャーペンのノックの部分を頬に当て、何やら考え込んでいる。どうやら難しい数学の問題に鉢合わせてしまったようだった。こっち見ろーこっち見ろーとひたすら念を送ってみてもその効果は全くないようで、俺のテレパシーの返事の代わりか、珍しく眉間に皺を寄せているの口からは、ときより「うーん」だとか「えーっと」という何やら考え込んでいるらしい声が漏れている。
でもそうっスね、そういう真面目なところも可愛いっスよとまた心の声で語り掛けながら、その姿を見守るべくシャーペンをローテーブルに放り出し、頬杖をついて可愛い幼馴染殿に引き続き視線を送り続けてみる。化粧っ気はまるでないけど、その分まっすぐで綺麗な目とか、小学校の頃から伸ばしている髪とか、考え込むとよく顔に手やシャーペンを当てる癖とか、相変わらずなんスね。高校は別々の学校に進学してしまったからもしかして変わっちゃったかもって心配してたけど、やっぱりはで安心した。久しぶりにやってきたの部屋も、同じマンションに住んでいるから俺の部屋の間取りと全く変わらないはずだし、内装も変わってない気がするのにやっぱりどこか新鮮な気がするのはなんでなのだろう。
ていうか部屋で男女が2人きりなのに、何も起きないってどういうことっスか。部活帰りにばったり出くわしたかと思ったら「一緒に課題やる?」ってすんなり誘ってきたけど、他の男にそういうこと言っちゃだめっスよまじ。男は色々期待しちゃうから。そういう俺もその例外じゃないっスけど、その手の邪念はちゃんと自重するっスよ。本当は部屋に入ったときからずっとそわそわしているけど、まだ幼馴染以上の一線を越えられていないないから下手に手を出せないというか、はなんだか眩しすぎるというか清すぎると言うか俺にとって小さい頃から聖域のような存在だから、変なスイッチが入らないように必死にプリントに向き合ってきたけど、それでも段々思考回路が数学じゃなくてのことになってきたことに俺自身気付いている。もはや邪念だらけだ。きっともうこんな状態じゃ課題なんて手につかない。にも関わらず、やっぱりの目には俺は眼中にないらしい。ちっとも顔を上げようともしないからどうなってるんだ。
「…………」
自分で言うのもなんだけど、俺って格好いいんじゃないんスか?背も高いし、スポーツも一回みればなんだって出来ちゃうし、街を歩けば逆ナンなんてしょっちゅうだし、告白だって毎日のようにされてるし。なのになんではいつだって通常運行なのだろう。部屋に2人きりで、しかもこんな小さな折り畳みテーブルを挟んで、加えて向かい合って座ってるっていうのに、なんでこんな平然と宿題とかこなせちゃう訳。こんなにすきで、だからいつだって意識しちゃうのは俺だけなんスか。そういうことなんスか。それとも小さい頃からずっと一緒にいたから慣れましたってこと?それともポーカーフェイスってやつ?それにしたって、少しくらい俺のこと意識してくれてもバチは当たらないと思うんスけど。時より「もしかして俺のこと想ってくれてたりする?」って言動をちょこまか挟んでくるくせに、普段はけろっとした顔してくるもんだから全くもってこの幼馴染は読めない。個人的に、その手の眼力はそこそこある方だと自負していたのに。
「(あーあ。なんだかなあ)」
どうでもいい女の子には言い寄られるのに、なんで肝心の本命はこうもうまくいかないのかと考えながら、勉強の邪魔にならないようにとテーブルの隅に追いやられていた涼しげなガラスのコップに手をかける。部屋に入って早々が出してくれたカルピスも、中に氷が入っているからかコップについた水滴が手に張り付くようについてしまったようで、手のひらがひんやりした。そのままぐいっと傾けてヤケ飲みしてやろうと試みてみたものの、カルピスと一緒に流れてきた氷が口元を邪魔して最後まで飲むことが出来ない。うっかり一口残ってしまった。…なんていうか、全てが中途半端すぎるっス。俺。仕方なく諦めてそのまま元あったところに戻してげんなりしていると幼馴染はようやく顔を上げて、まん丸い目を2回瞬きした。あ、久しぶりに目が合ったと内心喜んでいると、そんな俺の心の声に気付くはずもないはきょとんとしながら不思議そうに口を開いた。その拍子に、耳に掛けていた横の髪がさらりと頬にかかる。あ、耳見えなくなっちゃった、なんてことをぼんやりと考えた。
「…あ、終わっちゃった?おかわり持ってくるね」
しかしはそう言ってそそくさと席を立ってしまったものだから訳が分からない。えっ行っちゃうの。てか終わったって何が?課題?これっぽっちも進んでねえっス!でもそんなこと言えねえし!どう反応したらいいのかいまいち分からず、「あ、えーっと」と適当に濁していると、彼女はそれをどう解釈したのか何も言わずに俺の飲み干したグラスを手に取ったから、そこでようやく理解した。あ、飲み物のおかわりってことね。
「いやいいっスよそんな。喉乾いてないし!ていうか悪いし!」
ていうかに離れてほしくないっていうか!一緒にいてほしいっていうか!それがだめなら一緒に行きたいっていうか!つまり何が言いたいのかというと行っちゃ嫌っス側にいて!
…なんてことはきっと知的な男は言わないだろうし、こんなことを言ったら最後また「涼くんちゃらいよ」と指摘されていまいそうな気がして大人しく飲み込んだまま口にしないでいると、幼馴染は「いいよいいよ、ちょっと待ってね」とほんわか笑って、ほぼ飲み干してしまったグラスをひとつ持って部屋を出ていってしまった。ちょっと待ったと言わんばかりに伸ばしてしまった右手が空を切る。パタンとドアが閉まる音が妙に響いた。…虚しい。なんだか急に広くなった部屋に溜め息をついた。
…マジ何やってんスかね、俺。
のいない部屋で真面目に課題をやる気にはなれなくて、座り込んだまま手を後ろに付いて重心を後方に傾けたまま、ぼーっと天井を見上げてみる。早く帰って来ないかなー。そんなことを考えていると、ふと視界の隅が黒く縁取られてやけに邪魔なことに気がついた。なんだこれ、と右手で目元を触れて思い出す。そういえば俺、眼鏡してたんだっけか。
両目共に1.5で正直視力補正なんて全く必要ないのだけれど、が知的な奴がすきらしいという理由だけで購入した黒縁の眼鏡を、果たして当の本人はどう思っているのだろうか。流石に本人には眼鏡を買った理由は話してないけれど。…似合っていると思ってくれているのか、それともなんで眼鏡なんて掛けているのかと不思議に思っているのか。どちらにせよ「あっ眼鏡掛けてる涼くん頭良さそうですごくかっこいいね。なんかすきになったかも」なんて感想は持ってくれていなさそうで、思わずがくりとうなだれた。
試しに学校にも眼鏡をして行ったら女子からお褒めの言葉を嫌と言うほど浴びせられたけれど、それでもから言われなきゃ意味がない。その他大勢じゃ意味なんてないじゃないか。それに、どんなにに知的なイメージを持たれたって、好かれなきゃ意味がない。どんなに彼女のすきな人間に近づこうとしたって、そのままの俺を好かれなきゃ、全く意味はないというのに。
「(……………………)」
やっぱこんなの、俺らしくない。
頭いい奴はきっとこんな発言しないだとか硬派っぽい言動をしたほうがいいんじゃないかとか色々考えてたら、言いたいこともちっとも言えないしイライラする一方だ。だって長い付き合いなんだ、突然振る舞いを変えたらそれこそ不思議がられるに決まっている。俺は俺らしくアタックすればいいんスよね。よし、そうと決まれば!
「(まずは意識してもらわなきゃ始まらないっスよね!楽勝っス!)」
うしっと気合い入れのガッツポーズを小さくしたところでドアが開きあまりのタイミングの良さにびくりとしていると、お盆にカルピスのお代わりを乗せたが「お待たせー」とほわほわした笑顔で帰ってきた。それを見ていたら、こちらまで自然と笑みが零れてしまう。妙に弾んだ声が出てしまった。
「おかえりっスー」
「うん、ただいま」
あっ今のやりとりなんか新婚みたいでちょっとときめいた。なんて考えたら妙にうきうきしてしまったけれど、でもどうせならおかえりって言うんじゃなくて言われたいな、なんて思いつつ、やたらにやついてしまいそうになる口元を必死に隠すべく「ありがとっスー!早かったっスね」と無意味に話を振ってみる。するとは「うん」とまた嬉しそうに微笑みつつ「はいお代わりお待たせ」と言って、なみなみ注がれたカルピスをテーブルに置いてまた向かいの席に腰を下ろした。が笑ってくれると俺まで嬉しくなる。
「あ、課題どう?進んだ?」
手元のプリントの進行具合を尋ねるに、「休憩中っスよー」と答えながら眼鏡を外し、折り畳んでプリントの上に置いてみる。猫かぶるのはもうやめた。仕掛けるなら今しかないと踏んだ俺は、早速作戦開始する。女子が弱い男の仕草をしてみれば、だって多少はなびいてくれるはずだ。そこまで行かなくても、少しくらいどきっとするに違いない。そうなれば後はこっちのもののはず!
「あー…なんか今日。暑いっスね」
そうわざとらしく言って、首元のネクタイに手を掛ける。そのまましゅるりと緩めての反応を待っていると、何をどう勘違いしたのかはきょとんとしたのち、首を回していた扇風機を固定して、90度という限られた角度で一定のリズムで左右に送っていた風を一心に俺に注ぐように設定してしまった。…違う、そういう意味じゃないっス。て!いうか!
「(女子って男のネクタイを緩める仕草に弱いんじゃなかったんスか!試しにやってみた他の子には余裕で通じたんスけどー!?)」
…と、心の内で叫んでみるけれど、俺の幼馴染はそんな行動になんの興味も持たないのか、もしくは台詞から判断するにネクタイをも緩めるなんてよっぽど暑いんだねと結論づいてしまったのだろうか。どちらにせよまるで子犬が主人に忠誠を誓っているかのような眩しい瞳で「涼しくなった?」と尋ねてきたものだから、俺はもうどうしたらいいのか分からない。ちょっと嬉しそうにしながら聞いてくるとか何その反則。
なんだか笑顔が眩しくて見ていられなくて、「あ、えーと…」と言葉を濁していると、それを聞いたは今度は何をどう勘違いしたのか、机の脚元に転がしていたスクールバックの中から可愛らしいディズニーのうちわを取り出し、更に俺に涼しい風が行くようにとぱたぱたと仰ぎ始めてしまった。どうやらまだ暑いという意味で捉えてしまったらしい。
「(ち、違う!だから!そういう意味じゃないっス!!)」
ここまで来ると天然通り越してなんだかもう!もう!ていうか俺どんだけ暑がり設定なんスか!がーんとショックを受けている間にもは手を休ませず小さなうちわでひたすら風を送り続けている。ついでに左方向からは扇風機も安定の風量を寄越してくるし、そもそも俺は本当に暑がってたわけではないから別にそこまでしてくれなくても。なんだかここまでくると申し訳なくなってくると言うか、逆にふつふつと湧いてくるこの罪悪感はなんなのだろう。
「(なんかもう、ごめんなさいって感じ)」
純粋に気を遣ってくれているような子に、ときめかせてやろうとか思っちゃってすんませんっス。俺めっちゃ汚い。でもどきどきしてほしいという欲望は相変わらずしぼんでくれないから厄介だ。とりあえずネクタイはだめだった、と。頭のホワイトボードに大きくバツマークを付けて、次の作戦に変更するしかない。何事にも切り替えは大事だ。
「、代わるっスよ。大分涼しくなったんでもう大丈夫っス」
そう声を掛けてうちわを貸してという意味を含んだ手を差し伸べてみると、彼女は煽ぐのをやめて「そう?」と聞き返す。でもやはり風を送る係を交換するというのは気が進まないようで、「私は平気だから大丈夫だよ、ありがとう」と言って、なかなか首を縦に振ろうとはしない。なので、「まあいいからいいからー」と半ば強引に押し通してみると流石のも揺らいできたのか、どうしようと言わんばかりの顔で「でも…」とどこか申し訳ない声を出した。はいここっスね!
「…ん?」
そう言って、どうしたの?と言わんばかりの顔で下から覗き込むようにを見やる。俺の経験上、大体の女子はこれでころっと落ちてくれた。だから今度こそ大丈夫なはず!と満を持して実行に移してみたわけだけれど、肝心の彼女はいまいちその意味が分かっていないと言わんばかりにきょとんとしながら、鏡映しするかのように小首を傾げ、不思議そうに口を開いた。
「ん?」
はい終わった俺死んだ何この破壊力はい俺死んだー。
★
先程から涼くんは撃沈でもしたかのように机に突っ伏してしまっている。暑さのあまりダレてしまったのだろうか。扇風機もうちわも、もう大丈夫って言っていたけれど。とりあえず彼の名を呼びながらまたぱたぱたと仰いでみるけれど、当の本人は全く反応を示さない。髪がさらさら風に揺れて女の子みたいだ。なんとなく可愛い。
「涼くん、どうしたの?勉強疲れたの?休憩?」
「…今の」
「え?何?」
「今のあざとい。超あざとい」
「えっ何が?わ、私何もしてな、」
「うわ無自覚とかあざとい流石あざとい超あざとい」
「…な、何を言ってるの?」
そんな意味不明なことを言われても反応に困るだけなのだけれど。しかしあざといと言われて喜ぶ女子がいるとでも思っているのだろうか、涼くんは。涼くんは変なところでずれている気がしてならない。それともからかってるだけなのかなあ、なんて考えていると、涼くんは「もーさあー」とうな垂れたような声を出す。
「だからは可愛いって言うんスよー」
「あーもーほんっとやだー」とヤケになった声を相変わらず突っ伏したまま言うものだから、わたしはみるみるうちに顔が熱くなって思わず俯いてしまった。涼くんに、か、かわいいって、言われちゃった。流れでも、すごく適当な感じでも、でも、やっぱりうれしい。うれしいんだ。緩んでしまう口元はきっとだらしがないけれど、きっと今の涼くんは顔をうつ伏せているから見えない。にも関わらず口元を手で隠そうとしてしまうのは、ふとした拍子に顔を上げられそうだからなのだろうか、それとも自分自身が恥ずかしいからなのか。下唇を少し噛みながら必死に今にもにやついてしまう口を元に戻そうと格闘していると、ふとキラキラと光る金髪を発見した。………あたま…。
「(………………ちっちゃい…)」
絶対隣に並びたくないし、プリクラなんてものは何が何でも一緒に取りたくないくらい小さい幼馴染の後頭部をじっと見ていると、妙にうずうずしてしまうのはなんでなんだろう。なんか、なんでか分からないけど、触りたい、かもしれない。でもそんな衝動に駆られても、別に涼くんは私と馴れ合いたいわけじゃないし、急に頭を撫でられたら気持ち悪がられるに違いない。それに一般常識から言って完全に、ない。でも、でも。
そわそわと落ち着きがなくなってしまって、でも相変わらず突っ伏している涼くんを見ていたら手を伸ばしてしまいそうで、でもそんなことしちゃだめで、だから視線をあちこちにやっては無意味に座り直して違うことを考えようとするのだけれどどうもうまくいかない。どうしてもちらちらと盗み見てしまう。
私のことあざといって涼くんは言うけど、それは絶対涼くんのことだよ。
だって可愛いなんて褒め言葉もさらっと舌に乗せちゃうし、髪を切ったら必ず気付いて褒めてくれるし、さっきだって私の随分後方を歩いていただろうに、たまたま「後ろ姿が見えたから」なんて理由で走ってきては人懐こい笑顔向けちゃうし、そんなことを自然にやってのけちゃうから、私はいつも勘違いしちゃうんだよ。もしかしてって期待しちゃうんだよ。だからもう、なんでもないふりなんて出来っこないんだよ。でもそれは私だけの特別なんかじゃなくて、他の子にも同じように優しくて、同じようなことを言ってるって分かってるから素直に想いを打ち明けられないだけで。
ついつい目を逸らしてしまいがちなのを必死に堪えて、思わず泣き出してしまいそうなのを抑えて、だからいつだって俯きがちになりそうなのは、いつだって涼くんのせいなんだよ。…勇気を振り絞って課題やろうなんて言ったの、気付いてるのかな。いくら同じ数学だって、学校も違うなら課題の中身も違うわけだし、一緒にやったってあんまり意味ないというのに。のんびりマイペースに振る舞ってるけど、涼くん、わかってる?わかってるのかなあ。…やっぱり怖いから、分からないままでいいけれど。
「ねえ涼くん。寝ちゃうの…?課題は?」
「んー…が、涼くんカッコイーすきになっちゃったかもーって言ってくれたら俺超頑張れるかも」
「…やっぱり涼くんちゃらい」
「本気なのにー」
ひどいっスと言って口を尖らせる涼くんはようやく顔を上げて、人懐こい瞳を私に向けている。それを見て思う。…やっぱり冗談だった。私のどきどき返してほしい。思わず溜息をつきそうになるのをぐっと我慢して、「そんなんじゃいつまでたっても課題終わんないよ」と指摘する。だけど彼はテーブルの上で組んだ腕の中に今にも戻ってしまいそうな雰囲気だ。なにやら良い理由付けをされて、勉強を放置されそうな気がする。ちゃんと課題やらなきゃだめだからねとお姉さんのように注意したら、「じゃあが教えてほしいっス」と若干不貞腐れたように言って、彼は自分が座っている真隣の床をぽんぽん叩く。これは、隣に座れと言うことなのだろうか。そ、そんな。まさか。でも、だって、だ、だめだよ。だって私。わたし。冗談をうまく返せずなかなか反応に困っていると、涼くんはすかさず口を開く。
「ね、。ほらこっち。…おいで」
…だから涼くんはあざといっていうんだよ。

20120817